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樹上に居たはずの女が降りてきて、いつの間にか三人のそばに立っていた。
(この女…)
無法丸は、ひときわ驚いた。
(まるで気配がしなかった…)
非凡な武芸者、無法丸にとって、この距離まで全く気づかず接近を許すなど考えられないことであった。
それを、この女はいとも簡単にやってのけた。
「無法丸という名前のくせに」
女が言った。
「奴らの無法を咎めるとは面白い」
先ほどのことを言っているのだ。
「俺の『無法』は」
こちらを潤んだ瞳でいやらしく見つめてくる女に、無法丸が答えた。
「乱暴狼藉を働くことじゃない。俺自身が何ものにも縛られない意味の『無法』だ」
「なるほどね、面白い」
女が頷く。
「あたしは縫」
聞かれてもいないのに名乗った。
「よろしくね」
「ああ…よろしくな」
無法丸が苦笑いした。
「行き先が分からないって!?」
縫が呆れた。
四人で村へと戻り、死んだ村人たち(無法丸に少年たちの助けを頼んだ女は優の母親だった)を簡素に弔った後だった。
すでに夜は明け、家々は燃え尽き、火は消えていた。
これからどうするのかを無法丸に訊ねられた優とトワは「二人で、ある場所へ行く」と答えた。
「あてはあるんだな?」
さらに訊いた無法丸に対する優の答えは「分からない」だった。
それを聞いた縫が呆れた声を出したのだ。




