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我々の知る戦国とは違う世界の戦国。
夜の闇の中、辺りを照らし燃え上がる炎。
小さな村の全ての家々が燃え盛り、火の粉を飛ばしていた。
外に居る村人は、わずか数人。
それも皆、深傷を負い、死にかけている。
その中の一人、背中を斬られた女がうつ伏せで這い進みながら、うわ言のように何かを喋っていた。
女の前に人影が立った。
すらりとした長身の男。
細身だが、弱々しくはない。
猫科の大型獣のような、しなやかな筋肉。
二十代半ば程か。
風体は浪人のそれだ。
長髪を後ろで、ひと括りに束ねている。
精悍な顔立ちであった。
左手に、やや大振りの刀を握っている。
刀は黒塗りの丈夫そうな鞘に納まり、不思議なことにその周りが細めの鎖で、ぐるぐる巻きにされていた。
男の澄んだ両眼が死にかけている女を見つめた。
「いったい、どうした!?」
男が言った。
女が何かを喋った。
必死に訴えようとするが、声が小さい。
男が女に顔を寄せた。