ドS達の気持ち 3
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ドS達の攻防&ドS達の気持ち完結です+.*゜
今日は王太子の誕生祝いの宴だ。
表向きはそうだが、本当は姫と婚約者候補の交流&お披露目。もし、姫が即断するなら姫の婚約発表がメインだと父である宰相から教えられていた。
とうとう姫が私の元から完全に離れてしまう。
分かってはいたが……。
一年前、陛下から姫に近づく事を禁止され、姫の姿を見る事が出来るのは公の行事か宴くらいだった。
姫が、どちらの婚約者候補と結ばれるとしても他国に嫁いでしまう以上、今までよりも姫の姿を見る事は出来ないだろう。
そう思うと、いつもより姫の姿を私は目で追ってしまう。
少しでも姫の姿をこの目に焼き付けておきたい。
……しかし、姫を目で追う線上に私が一番軽蔑している少年が見える。
私と同じ立場の少年も、姫の一挙手一投足を見逃さないようにしているのだろう。
良く分かる……だからこそ心底目障りだ。
◇◇◇◇◇◇
僕の後頭部に視線を感じる。
伊達に天才魔術師と言われている訳じゃ無い。
振り返らなくても誰の視線かは分かる。
と言うか、ワザとだけどね。
愛する姫を見つめながらも、僕の存在を感じてイラっとしたらいいんだ。
僕は貴方が大嫌いだからね。
やっと僕も宴の席に呼ばれるようになった、これくらいは許されるだろう。
……姫の婚約者候補は二人。
一人は僕に似ている。
もう一人は僕とは全く真逆だ。
姫……。彼を選ばされないで……。
◇◇◇◇◇◇
……隣国の王太子と踊る姫の様子がおかしい。
完璧な笑顔の姫を一番良く知っているからこそ、私は姫のわずかな表情の変化に気づいた。
!!!!
(姫!!)
私は信じられない光景を見た。他の人は気づかないだろうが、一瞬見えた姫の顔。あれは……。
そして、私が一番軽蔑している少年が私を振り返る。
「気づきましたか?」
私は不本意ながら私と同じ物を見ただろう少年に近づき聞く。
「もちろんです。気づかないわけがない」
少年は笑顔だが、その声には怒りがあった。
「優しいと評判のお方だが……」
「残念ながら、僕と貴方を足して二乗したような方ですよ」
「……まさか、顔合わせの席を覗いたのですか?」
少年の魔力と才能なら容易いだろうが王族に対して不敬過ぎる。
「それより、そこで彼はどうしたと思います? かつての僕と全く同じ事を姫にしましたよ。そして、僕も貴方もしなかった事をなさいました」
「貴方も私もしなかったこと?」
「被害者である姫を加害者の様に印象付けようとしていました」
……私の叱責は皆にキツイと言われ姫は同情されこそすれ、姫が悪いと思う者はいなかった。
この少年の行動だってそうだろう。少年は自分が悪いと謝っていた。
「……」
「あっ」
「どうしました?」
「陛下が治癒魔法を使ったみたいです」
「流石の感知能力ですね。姫は陛下に対しては好感を持っているように見えますが」
「そうですね。王宮の庭でも姫は僕達には見せない顔を陛下には見せていましたから」
「……そうですか。ところで、私は姫の幸せを願っていますが貴方はどうですか?」
「もちろん僕も願っていますよ。ですから、僕達がしなければいけない事はお分かりですよね?」
「ええ。幸い、貴方の武器と敵の武器は同じです。ですが、破壊力は貴方の方があります。そこに私が加われば勝てるでしょう」
「具体的にはどうします?」
「私達は姫に近づく事は出来ません。姫達の様子を覗いて私に教えて下さい」
姫の緊急事態だ。不敬ではありますが不可抗力です。
◇◇◇◇◇◇
「王太子は陛下に自分の罪を擦り付けて、姫に相応しくないと第三王子を巻き込んで丸め込む作戦の様ですね」
「恐ろしい方ですね。で、姫の様子は?」
「姫は王太子を拒否しました。……あっ!!」
「どうしました?」
「……………姫は陛下を選んだみたいですね」
どうして少年はムッとした表情をしているのだろう?
私は少年の話を聞くしか姫達の様子が分からないが。
そう思っていると、姫と陛下が宴の会場にやって来た。
「本日はご招待いただき有難き幸せです。そして、何より素晴らしい幸運に恵まれました。王女殿下が私を理想の相手だと、隣国の王太子殿下と兄である王子殿下の前で仰った。どうか、私と王女殿下の婚姻を認めて頂きたい」
「そうでしたか。王女は私達のたった一人の大切な姫です。その姫が国王陛下に見初めて貰い、本人も望んでいるのであれば反対する理由などございません。皆、聞いて欲しい。我が国の宝である王女と、既に名君と名高い若き国王陛下が婚約する運びとなった。両国の繁栄を祝って!!」
「……さすが名君と呼ばれる方の行動力は見事ですね」
「王太子が諦めていないかもしれません。王太子は姫に絶対に相応しくない。僕らが阻止しなければ」
「そうですか。王太子が何かを言ってきたら貴方はいつもより無邪気に馬鹿っぽく姫と陛下の事を祝福していると言って下さい」
「……貴方こそ、僕を見習って人を魅了する笑顔で姫達を祝福して下さいよ」
「そうですね、最初にお手本をお見せ致しましょう」
((この少年・男は本当にイラッとする))
陛下と王妃は国王陛下と姫の婚約に賛成のようだ。
姫も笑顔の中にホッとしている様子がうかがえる。
優しいと評判の王太子は真逆の性格らしいが、陛下も評判とは真逆な方なのかもしれない。
!!!!
陛下が姫に口付けた……戸惑いながらも陛下の口付けを受け入れている姫。少年の先程のムッとした表情。
……もしかすると、テラスでも陛下は姫に口付けたのかもしれない。
複雑な思いはありますが、陛下は姫の傷を癒してくれた。
何より、姫を溺愛している陛下と王妃が認めてらっしゃる。私達とは違う人種なのでしょう。
だから姫は王太子を拒否し陛下を選んだのだろう。
チラリと少年の方を見ると、笑顔でありながら眉が引きつっている。
……気持ちは分からないでもないが。
「しっかりしなさい」
「分かっていますよ」
小声で言うと少年は笑顔のまま小声で答えた。
「国王陛下、王女殿下が戸惑っておられますよ」
「浮かれてしまった」
「5年越しの初恋が実り、我が国王陛下も珍しく浮かれてしまったようです。しかしながら、それほど思っていた王女殿下を陛下はきっと掌中の珠のように大切にされるでしょう」
よし、ここだ。
「なるほど。どんな時も冷静沈着と言われた陛下がこのように熱烈に王女を想って下さるとは……この国の者として、とても光栄に思います。王女はきっと幸せになるでしょう。そう思いませんか王太子殿下?」
(少年、私の攻撃に続きなさい)
(あの男の割には良い笑顔じゃない)
「……私が王女殿下を幸せにしたかったのですが……」
(良く言いますね。分かってますね、少年。とどめの一撃は貴方に譲るのですから上手くやりなさい)
(お前に姫を渡すか)
「王太子殿下、僕は殿下のお気持ちが良く分かりますよ。王女殿下はお優しくとてもお美しい。僕にとっても憧れの方ですからね。だからこそ僕は国王陛下と王女殿下の結婚を祝福しますよ」
(言い方も首をかしげる所も無邪気で馬鹿っぽいですね。自分を良く分かっているじゃありませんか)
(僕の言いたい事、バカじゃなきゃ分かるでしょ?)
「……国王陛下、王女殿下。お二人の輝かしい未来を私は心から祈っております」
(会心の一撃だった様です。同じ武器なら若い方が有利なのは当然ですが)
(僕の美貌と可愛らしさに勝とうなんて5年遅いんだよ)
姫は意外そうに私達を見ていました。
姫が私達を見つめるのは久しぶりですね。
こうして姫と陛下の婚約は国際的に決定したのだった。
____宴の後。
「今回は姫を守る事が出来ましたが、彼は結婚式でも仕掛けてくるでしょう」
「大国の王妃になった姫にですか? まさか」
「そのまさかですよ。大国の王妃になった姫に普通はしないでしょう。だからこそ、彼は仕掛けてくる。私達以上の彼はきっとそうします。そして、姫はその事を必死で隠すでしょう。王妃として」
「……許せませんね。僕の魔力で最初に出来ないようにしますか?」
「いえ。それは得策ではありません。姫は今日の手の痛みの原因を陛下に仰ってなかったでしょう。ですから、結婚式では陛下に気づいて貰わなくては」
「二度と姫に危害を加えさせ無い為にですか?」
「そうです。姫は陛下に守って貰わなくては。一番、姫の近くに居るあの方に。そして、陛下にそれが出来る方だと証明して貰いましょう。それが私達の救いになるでしょうからね」
「……僕達のせいですからね。姫があんな行為を我慢出来てしまうのは」
「ええ。だから貴方は貴方の武器を磨いて披露して下さいよ」
「もちろん」
「それが私達の行いへの責任の取り方です」
◇◇◇◇◇◇
そして、今日は姫と陛下の結婚式。
行く気満々だった我が王は興奮しすぎたのか熱をだした。
王妃と我が父は王宮に残る事になった。
「王子達にはあの王太子の性格と結婚式でするであろう事。そして、私達がどうするかを話しています」
「あの王太子の性格に全く気づいてなかったのは第三王子だけだったみたいですね」
「第三王子は姫と同じで基本的に人を疑いませんからね。さすがに第二王子や我が王太子は彼の表の姿が全てと思うほど単純な性格でも甘やかされても無いですから。それでも驚いてらっしゃいましたしね」
「完璧な最低野郎って事ですか」
「ええ。貴方が言った様に私達を足して二乗したような完璧で美しい厄介なクズ野郎です」
「僕達にとって敵に不足無し。名誉回復にはもってこいってわけですか」
「そうですね。姫の件で失った王家の信頼を取り戻す最初で最後の機会でしょうね」
与えられた部屋で私と少年は作戦を練った。
◇◇◇◇◇◇
____結婚式が始まる。
流石、我が姫だ。今まで見たどの姫よりも美しい花嫁姿だった。
その隣にいるのが私では無い事に少し胸が痛む。
だが、全く印象が違う花嫁と花婿は意外にもお似合いだと思えた。
それは、周りの人にとっても同じだったようで皆うっとりと二人を見つめていた。
「……あんなに口付けや抱きしめたりするものなのですか?」
正装して見かけは天使の様な少年が不満そうに言う。
「するかしないかで言えばするでしょう。ですが、ここまで回数が多いのは珍しいでしょうね」
他国の結婚式など初めて来た少年には色々と衝撃なのだろう。
「……姫は恥ずかしがっているように見えますが」
「ですが、受け入れていらっしゃる。姫は王妃として一番正しい態度を立派にされています。貴方も笑顔が武器なら笑顔でいなさい」
「……」
「大国の王に姫がここまで愛されている。それをこれだけの方が見ている。私達にとって有利な状況なのですから、大人になりなさい」
「……」
「嫉妬を隠せないなら帰りなさい」
「……帰りませんよ」
「では、姫を見習って笑顔でいなさい。戦いはもう始まっています」
「……分かりました」
今日の作戦には、この少年の無邪気さが鍵です。
ですが、本当の子供の様に嫉妬心を丸出しにしないでもらいたい。
……私だって本当は……
いや、年上の私がしっかりしなくては。
姫を本当に愛しているのなら、そうしなくてはタダの愚か者から脱する事は出来ない。
◇◇◇◇◇◇
____宴が始まる。
姫と陛下のファーストダンスが終わり、王子達が姫にお祝いの言葉を言い、王太子も姫達にお祝いの言葉を述べている。
そして、姫をダンスに誘う。
「今日の第一声は貴方に任せます。タイミングを見逃さずに」
「分かっていますよ」
もう少年は気持ちを切り替えたようだ。
何の問題も無く王太子と姫のダンスは続く。
なるほど、姫が安心しきった時に彼は仕掛けるつもりか。
本当に彼は私と少年を足して二乗したようなお方だ。
ダンスが終わる。
!! ふっ、やはりこのタイミングで王太子は姫に仕掛けた。
……お可哀想に。相当痛むだろう。手はもちろんだが、姫の心も……。
しかし、姫は優雅に笑って王太子に接している。
少年を見た。少年は素早く姫に近づく。
「姫!! 僕とも踊って下さい!!」
いいタイミングです。痛む手を少年は握る。
しかし、姫は痛みに声を上げる事は無かった。
普通の姫なら我慢出来ないだろうに……そんな姫にしてしまったのは私と少年だ。
「あっ!! 姫、指を怪我されていますよ!! これは指輪の痕!! 王太子殿下!! ヒドイです!!」
姫。これから姫の望まぬ行為をします。
貴女は私達の行動に憤るだろうが。
これが私達に出来る唯一の贖罪なのです。
「姫……お可哀想に……」
本当に少年の容姿と声は強力な武器です。
周りの方が注目している。
「王太子殿下……残念です。殿下はお優しい方だと信じておりましたのに」
姫、お許しください。
「王妃殿下、もしかして私の指輪が間違って当たっていたのですか? 申し訳ありません、お優しい殿下は私に気づかせないようにして下さったのですね」
((分かっててやったくせに白々しい))
「ええ。前回もそうだったのですが、王太子殿下の指輪が当たってしまって……。ですが、故意ではないと私は分かっておりますので、どうかお気になさらずに」
やはり姫は王太子を庇うか。流石は我が姫。
「姫……お優しい。姫は昔からお優しいですね……」
涙目で言う少年。気持ち悪いほど素晴らしい演技です。
「……そうですね。王妃殿下がそう言うなら……王妃殿下の仰る通りです。王太子殿下、申し訳ありませんでした」
しぶしぶ感を隠さず言って差し上げましょう。
「いえ、私こそ王妃殿下の優しさに気づかず……とんでもない失態を。王妃殿下お許しください」
少年以上に気持ち悪い演技をする王太子。
「もちろんですわ。どうか王太子殿下、今日の宴を楽しんでらして」
この争いを茶番を姫は終わらせようとします。
やはり、賢明な姫はそう判断するのですね。
ここまで騒いだのです。
陛下、貴方は姫に相応しいお方か証明して下さい。
「王太子殿下。踊られる時は指輪を外したらどうだ? 流石に三回目があれば私も黙っていられない」
その場の空気が変わる。
冷酷無比で名君と呼ばれる陛下の一言は重い。
「……申し訳ありません。ご忠告痛み入ります」
王太子は困った様な笑顔で言うが、この空気での笑顔は武器にはなるまい。
「今までは偶然だったろうが、次からは故意では?と、思われる。殿下は気をつけるべきだろうな」
陛下のこの言葉で、王太子は笑顔を完全に封じられた。
流石は大国の国王陛下だ。
王太子は何も出来ないまま、ただ礼儀正しい礼をしてこの場を去った。
「姫!! 僕と踊って下さい!!」
少年の無邪気な声が空気を和ませる。
それを姫も感じたのだろう。
姫は少年と踊り始めた。
妖精の様な姫と見かけは天使の様な少年。
空気を変えるには充分だった。
「宰相殿のご令息だったな」
陛下が私に声をかけた。
「はい。本日はご成婚、誠におめでとうございます」
「ありがとう。あの少年にもお礼を伝えて欲しい」
「……はい」
「貴方達は姫を守ってきたのか? 今日の様に?」
「……いえ。恥ずかしながら、姫を…王妃殿下をお守りしたのは今日が最初で最後です」
「そうか? 王太子の誕生祝いの宴の時も姫を守っていたではないか」
……この方は。
「……では、今日で二回目です」
「そうか、ありがとう。これからは私が姫を守って行く。今日の様に。だから安心して欲しい」
……姫の選択は正しかったか……。
「そのお言葉を聞けた事。私達にとって……我が国にとって何ものにも代えられぬほど至極の喜びでございます」
◇◇◇◇◇◇
ダンスを勉強してきて良かった。
姫、あの頃と変わらず……いえ、あの頃よりもずっと綺麗で大人になられた。
「ちょっと、やり過ぎじゃないかしら?」
姫が僕に小声で聞く。
「そうでしょうか? 姫の指をあんなにするなんて許せません!!」
僕は姫の痛がる顔と、それを見て笑ったこの世で一番醜い笑顔を思い出して言った。
あの男より醜い笑顔をする人間がいるなんて。
「各国の方がいらっしゃってる場ですよ? 私が耐えれば収まる事だったのだから」
困った様な笑顔で姫が言う。やっぱり姫にとって僕は子供なのだな。今でも。
「僕は嫌だったんです。王太子の様な人間にだけは姫の痛がる顔なんて見せたくなかった!!」
姫、僕は姫を守りたかったんです。
「……」
……姫はなんとも言えないような顔をしている。そうだよね。僕はこんな事を言える立場じゃない。
散々、姫に王太子以上の事をした僕が。
「そういえば、いつから「私」から「僕」になったの?」
姫は話題を変えた。
「僕が私と言っていたのは年上の素敵な女性の前で大人ぶりたかったからです。でも、その女性と会えなくなってから僕と言った方が僕の魅力が発揮されると気づいたので」
今更、僕はヒーローになんてなれない。
なら、僕は姫にありのままの自分を伝えようと思った。
これも、僕の行いの責任の取り方だろうから。
「……そう。また、しばらく会えないでしょうけど体には気をつけなさい」
姫は複雑そうに笑った。
まだ姫の中には、僕を弟のように思ってくれていた感情が残っていたのかな。
それがとても……ほろ苦く感じた。
◇◇◇◇◇◇
「王妃殿下。今日という良き日は私ともダンスをして下さいますよね?」
やはり、私はこういう風にしか姫に言えない。
「そうですわね」
それを姫は受け入れてくれた。
姫と踊るのは一年ぶり。最近は兄である王子達と踊るのを見ていただけだ。
「相変わらず、ダンスも笑顔も完璧すぎますね」
「そうね。おかげさまで」
……笑顔で答える姫。姫はもう私の言葉に傷つく事は無いのだろう。
「……姫が選んだ夫が国王陛下で良かった。王太子殿下なら耐えられなかった……」
心の底から本音を言った。
「殿下は貴方以上ですものね」
「姫もお分かりになりますか。今更、信じられないかもしれませんが、私は貴女の幸せを心から願っているのです。貴女は私達の様な人種を選ばなくて正解です」
これも、心の底からの本音です。
「……陛下は、貴方とは違うけれど……」
『姫に警戒心を持って貰う為、姫に一目惚れをした人には気を付けて下さいと伝えました』
姫付きのメイドが解雇された時、姫付きの騎士が私に言った言葉を思い出した。
王太子と陛下は姫に一目惚れをしたと求婚してきたんだったな。
人を疑わない姫が王太子を拒否出来たのは、騎士の言葉のおかげか……。
「陛下は私達とは全く違います。陛下は姫を傷つける事は絶対になさらないでしょう。だからこそ、姫の選択を嬉しく思っておりますよ」
「……貴方には陛下はどういう風に映っているの?」
「姫を溺愛する、優秀な君主として映っておりますが?」
「……そう」
私達の過去の行いが姫を不安にさせている。
「今日の私の言葉は、姫の結婚へのせめてもの祝福ですから。嘘はありませんよ」
姫、貴女が選んだ陛下は貴女を幸せにしてくれます。
人を疑わなかった優しくて努力家な姫。
どうか、私の言葉を信じて陛下と幸せになって下さい。
勝手な願いですが、これが貴女に出来る最後の事なので……。
幸せに……姫。
姫の手の甲に私は願いを込めて口付けた。
◇◇◇◇◇◇
「……姫に何か言ったんですか?」
ダンスを止め、口付けている姫と陛下を見つめながら少年が聞く。
「姫の呪いを解いてあげただけです。初めに呪いをかけた私が解くのがスジでしょう?」
「……そうですか」
「陛下からの伝言です。『貴方達は姫を守って来たのか? 今日の様に? ありがとう。これからは私が姫を守って行く。だから安心して欲しい』だそうですよ」
「……姫があんな顔をするはずです。陛下は姫を守れる方でしたね。苦しいほど証明して下さった」
少年はそう言うとテラスの方に向かった。少年にはキツイ光景かもしれないな。
今の姫には陛下しか見えていないだろう。
今まで誰にも向けたことの無い顔を姫は陛下にだけ捧げている。
王女らしくも無く王妃らしくも無い。
しかし、今日の日に相応しい世界で一番幸福な花嫁の顔だ。
きっと、陛下は今日の姫の顔を一生忘れないだろう。
だが、私が人生の最後に思う姫の表情は姫の泣き顔だ。
我ながらどうしようもない……。
だから、これで良い。
姫。そして陛下。ありがとうございます。
身勝手な私達の贖罪を受け取ってくれて。
私は少年が向かったテラスに移動した。
楽しんで頂けたらいいですが。
次回は姫のドS達への気持ちと陛下とのイチャイチャになります+.*゜