ドS達の気持ち 2
ドS王太子の気持ちです♪
私は、この国の王太子として生まれました。
金色のサラサラとした髪にスラッとした肢体。青色の瞳はサファイアのようだと言われています。そんな私を皆は物語以上に完璧な王子と言うのです。
それなりに大きな国で、しっかりと教育され、周りからは愛され大事にされてきました。自分の恵まれた境遇に不満はありません。
ですが、一つだけ耐えられない事があるのです。
それは、演技をしている私に女性達が簡単に恋をする事です。
第一王子である私は立ち居振る舞いも王太子らしく、未来の統治者らしく教育されてきました。小さい時から皆が望む完璧な王子を演じ皆に可愛がられてきました。
見目麗しく優しくて優秀で完璧な王子。
これが国内外での私の評判です。
ですが、優しさだけは演技なのです。それに気づかず実に簡単に女性達は恋に落ちる。正直うんざりです。そんなに簡単に私の演技に騙されるなんて。
私の見た目、優しげな声、紳士的な仕草。
私がワザと彼女達を傷つけても、無実な彼女達の立場が悪くなる様に仕向けても、誰も気づかない。
最初は騙される皆を見るのが面白かったですが、流石に誰も全く気づかないのは…つまらない。
そんな中、一人だけ私の演技に気づいた少女がいたのです。
後に私の婚約者になった、公爵家の令嬢でした。
彼女は美しく賢く、病気がちのせいか我慢強く控えめで勘が鋭い方でした。公爵家の令嬢としての教育も完璧で、その場面で一番相応しい態度をしてくれた。大勢いる婚約者候補の中、彼女だけが私の演技を見破り、私に全く好意を持たなかったのです。
そう、私はやっと巡り会えたのです。理想の女性に。
でも、彼女は最初から最後まで、頑なに婚約を破棄しようと頑張っていました。
『病弱な私は王太子妃には相応しくありません』と。
そのたびに『私には貴女だけなのです。どうか私の愛を受け取って下さい』
私が瞳を潤ませ愛を乞えば、周りは簡単に私の味方になってしまうのに。
その時の彼女の表情。私だけが気づく彼女のわずかな嫌悪と絶望の表情……。
ああ、今思い出してもゾクゾクしてしまいます。
病気がちな彼女は痛みを我慢するのも上手でした。
優しい彼女は家族を心配させないよう、平気なふりに慣れていたのでしょう。
この私の演技を見破り、それでいて私を立てながら、公爵令嬢らしく抵抗したのは彼女が初めてでした。
私は彼女に夢中になったのです。
本当に素晴らしい婚約者でした。
なのに、病弱だった彼女は婚約後数年で儚くなってしまった。
私が16歳の時に。
悲しかった。彼女を唯一の妃にし、一生一緒にいたかった。
でも、神様はいるのですね。悲嘆にくれる私に運命の出会いが待っていました。
それは隣国の姫君。
国の行事で見た姫は、私の婚約者と同じように美しく賢く、その場面で一番相応しい態度をしていました。
一目で心を奪われたのです。
婚約者だった彼女も華奢で儚げでした。妖精と評される姫も華奢で美しいからこそ儚げに見えました。そして何より、姫の表情や醸し出す空気が婚約者に似ていたのです。
あれは衝撃でした。姫の表情が少し硬くなる場面を見た時です。
私とそんなに年が変わらない男。
この男の側を通る時、姫は表情を少し硬くしたのです。
その表情は婚約者が私に見せた表情と一緒でした。
私は確信しました。きっと姫は婚約者と同じだと。
だから一目で姫に魅かれてしまったのだと。
今度こそ逃がさない。きっと姫を捕まえて見せます。
私はすぐさま姫に求婚したいと父である王に告げたのです。
その時の父の喜びよう。婚約者の死から立ち直ったと皆が涙ぐんでいました。
ああ、姫を絶対に手に入れたい。
ですが、一つだけ不安要素はあります。万が一ですが婚約者と同じと思った勘が外れてしまった場合です。
しかし、そんな不安は無用でした。
王宮の庭での顔合わせで姫は、私の想像以上の素晴らしい反応をしてくれました。
私は理想的な王太子を演じたのに、普通の姫の様に顔を赤らめない。
何と姫は……少し脅えたような表情をしたのです……。
姫は気づいてくれました。私が魔法でトゲを移動させた事に。
なのに、姫は私を庇った。
姫は私の行動を正確に把握して、私や自分の立場を考え発言してくれました。
姫は、婚約者と同じく私の演技に気づきました。
だからこそ、姫は婚約者と同じく私を愛する事は永遠にないでしょう。
それで良い。愛していないからこそ抵抗する。
それを潰すのが楽しいのですから。
愛が無くても姫は永遠に良き妃を演じてくれるでしょう。
姫は両国の平和の為にきっとそうするでしょう。そうするだけの教養も賢さも我慢強さも姫は持ち合わせていらっしゃる。
そして何より……痛がる顔、脅える顔、耐える顔、悲鳴をあげた時の顔……全てが奇跡の様に美しかった。
私の勘は正しかった。姫は婚約者と同じ。姫はやはり、私の理想の配偶者です。
姫を手に入れるには、もう一人の求婚者である大国の国王陛下に勝たなければいけません。
正直、黒髪黒眼で逞し過ぎる肢体に冷酷無比と噂されるお方だ、女受けは最悪でしょう。
そもそも陛下の父は高齢でした。若くして王になる運命の陛下の教育は、我が国にも聞こえてくるほど苛烈だったそうですし。
帝王学を学ぶのに忙しく、女に愛想を振りまく暇も無かったでしょうね。
まあ、陛下の威圧的なルックスや態度が女受けが悪かったとしても、自分の娘を大国の王妃にしたい貴族や他国の王族は多いでしょう。だから、女の扱いを学ばなくても問題は無かったのでしょうが。
それがここでアダとなるなんて。お可哀想な陛下。
そんな陛下がライバルとは幸運です。姫は私を夫に選びたくないでしょうが、かと言って陛下も夫に選びたいと思う要素は皆無です。
ならば、姫の周りに私の方が夫に相応しいと思って貰えばいいだけです。
優しく優秀な王太子と冷酷無比で威圧的な国王陛下。
笑顔を見せない陛下と天使の笑顔を持つ私。
いつもの演技をするだけで、勝負はついたも同然。陛下には申し訳ないほどです。
さらに姫の三番目の兄とは個人的に少々付き合いがあります。
年が近い王族としてですが。
この国の王と王妃は政略結婚ですが仲が良く子供達にも愛情を注いでいるそうで。
その上、気楽な立場の第三王子は腹芸の出来ない素直な王子なのです。
しかも、国内の有力な貴族の一人娘と婚約もしているせいか実にのんびりとした人柄の王子ですから。
この王子を私の味方にするだけで姫は私のモノになるはずです。
◇◇◇◇◇◇◇
「妹には幸せになって欲しいのです。私達家族の様に妹を大切にして下さる方に嫁いで貰いたいと……」
宴の席、世間話の流れで照れたように言う第三王子に私はこう答えました。
「私は国王陛下より若輩で政治的にはまだまだですが、王子殿下の期待にだけは答えたいと思っております」
私の笑顔と言葉を信じた第三王子は破顔します。
本当に他愛もない方だ。
宴も、もう中盤。
陛下よりも早く姫をダンスに誘う事にしました。
ああ、やはり姫は理想の女性です。
私は指輪をワザと痛くあてている。姫は気づいているのに、周りに気づかれない道を当然の様に選んでくれます。
わずかな表情の変化の何て扇情的な事か……。
この姫の魅力的な表情は私しか分からないでしょうね。
それが余計に私の気持ちを煽ってしまいます。
最後に手に口付けをする時、私は今までで一番手に力を込めました。
……理想的です。痛みをこらえ声を出さず目をつぶる姫のなんて美しい……。
やはり私にはこの姫しかいません。
「王女殿下のダンスは見事でした。兄上として自慢の妹君でしょうね。ぜひとも我が国に来ていただきたいのですが……やはり、国王陛下と比べると見劣りしてしまうでしょうか?」
踊り終わって、私の後に踊っている陛下と王女を見つめながら第三王子に問うてみました。
「そんな事は。国王陛下はご立派な方ですが、王太子殿下と妹のダンス姿には皆が見惚れていたようですよ」
「それを聞いて、とても嬉しく思います。……おや?」
「……」
姫が一瞬ですが顔をしかめます。
手が痛むのでしょう。我慢出来ない程の痛みを与えたので当然ですが。
そして、その一瞬の表情の変化に妹思いの兄は気づきました。
計画通りですね。
「……陛下に何か言われている……どうされたのでしょう……」
私が不安そうに言うと、第三王子も心配げに妹を見ています。
「……勘違いでしょうか……一瞬ですが姫の表情が……。その後に驚いたような表情もされていたような?」
「……本当にどうしたのでしょうか……」
第三王子には分からないでしょうが私はおおよそ分かります。
姫の手が痛み、陛下がそれに気づいた。姫は私がしたと言えないから言い訳をしている。
ま、その事実に第三王子は気づけないでしょうが。
我ながら欲望を満たしつつ、陛下と姫の不穏な空気まで演出してしまえる自分に感心します。
おや…意外にも姫は陛下を気に入ったようですね……。
しかも踊り終わった二人は、なんと手をつないだままテラスに移動しています。
マズイですね。
「王子殿下、我々も付いて行った方が良さそうですね」
「その様です」
やはり、何も理解していない第三王子は妹の危機と感じているようです。
これは私の勝利フラグでしょうか。
「姫を一生守る。結婚してくれ」
早速プロポーズですか。そうはさせません。
「国王陛下、抜け駆けは酷いのではありませんか?」
本当に酷いのは私なのですが。笑いたいのを堪えながら、いつものように理想の王子を演じ言いました。
「それに、姫も困ってらっしゃるじゃありませんか」
姫は私と自分の兄が来たことに困っているかもしれませんが。
「踊っているお二人を見ていましたが、姫は私の時は笑顔で踊っていましたが、陛下と踊っている時は一瞬脅えたような表情をしていました。そう見えませんでしたか?」
「……確かに、王太子とは普通に踊っている様に見えましたが、陛下と踊っている時は一瞬でしたが妹の表情が暗かったように見えましたが……」
大変良い答えです。
「こんな事を言うのは心苦しいのですが、国力を盾に姫へ強引に迫ったのでは?と、思ってしまいました」
第三王子は私の言葉を真剣に聞いていますね。勝負ありです。
「実は、私は指を痛めていたんですの。王太子殿下は気づいて下さいませんでしたが、陛下は気づいて治癒魔法で治してくれたのです」
ほう、抵抗するのですか? 流石、私が一目惚れをするだけの姫ですね。
「私、小さい時から強くて優しい殿方と結婚したいと思っておりましたの。恐れ多い事ですが陛下が理想の相手だと思いましたわ」
素晴らしい笑顔で答える姫。
なるほど、賢い姫です。「優しい」だけではなく「強い」と言う言葉を使うとは。
「強い」という言葉で私を排除したつもりですか?
ですが、残念でした姫。陛下が「強い」という事はこちらにも武器になるのですよ。
「……もしや、姫。そう言う風に言えと命令されたのですか……?」
やはり抵抗を潰す時の快感はワクワクしますね。
泣きそうな演技をして言う私に貴女の兄上は騙されていますよ。
姫の表情が少し焦っているように見える。
ああその顔。なんて可愛らしい。
「姫に命令などしない」
した、しないは関係ないのですよ?
陛下、全ては印象とリアルさです。
そう思い、勝利に酔いしれていたのですが……。
「先程の言葉は本当か?」
「……」
「私が姫の理想の相手なのか?」
「……はい」
「そうか」
なっ!! 陛下が姫に口付けた!!
「王太子、王子。貴方達も聞いただろう。姫は確かに私を選んだ」
そう言うと、陛下は姫を宴の席に連れて行く。
まさかの強行突破だと??
落ち着け、目撃者には第三王子もいる。
強引過ぎると誘導するのは可能なはずです。
しかし……。
「本日はご招待いただき有難き幸せです。そして、何より素晴らしい幸運に恵まれました。王女殿下が私を理想の相手だと、隣国の王太子殿下と兄である王子殿下の前で仰った。どうか、私と王女殿下の婚姻を認めて頂きたい」
「そうでしたか。王女は私達のたった一人の大切な姫です。その姫が国王陛下に見初めて貰い、本人も望んでいるのであれば反対する理由などございません。皆、聞いて欲しい。我が国の宝である王女と、既に名君と名高い若き国王陛下が婚約する運びとなった。両国の繁栄を祝って!!」
何という早業。
所詮敵ではないと、自分の勝利に酔いしれていたのに……。
だが、まだ諦めるのは早いでしょう。
陛下がまた姫に口付ける。ムカつきますね……。
……よし、少しだが姫の表情が変わりました。
「国王陛下、王女殿下が戸惑っておられますよ」
「浮かれてしまった」
返しづらい言葉を使いますね。
ですが、今日の宴で第三王子に言った事をこの場で言えれば……。
姫は絶対に指の痛みの原因は言わないでしょう。第三王子も陛下と踊っていた姫の様子を見ています。
証人が姫の兄。まだチャンスはあるはず。
「5年越しの初恋が実り、我が国王陛下も珍しく浮かれてしまったようです。しかしながら、それほど思っていた王女殿下を陛下はきっと掌中の珠のように大切にされるでしょう」
!! この言葉に周りから好意的な声が上がる。
5年前の姫は12歳だとツッコミたいですが、今は17歳と23歳。貴族の世界で攻撃できる年齢では無いですね……。
「なるほど。どんな時も冷静沈着と言われた陛下がこのように熱烈に王女を想って下さるとは……この国の者として、とても光栄に思います。王女はきっと幸せになるでしょう。そう思いませんか王太子殿下?」
ざわめく周りの声と反論を考えていたせいで出遅れてしまいました。
どこかで見た様な? 嘘くさい笑顔をする男です。余計な事を。ですが……。
「……私が王女殿下を幸せにしたかったのですが……」
よし、ここから巻き返しを……。
「王太子殿下、僕は殿下のお気持ちが良く分かりますよ。王女殿下はお優しくとてもお美しい。僕にとっても憧れの方ですからね。だからこそ僕は国王陛下と王女殿下の結婚を祝福しますよ」
……何なのです? この少年は?
『優秀で優しい王太子像を守るなら何て言えば正解か分かるでしょ?』キラリン♪
少年の思惑と効果音まで聞こえそうな笑顔。
……これ以上は無理なようですね。
姫を奪還出来ない以上、いかに優しく優秀な王太子らしく華麗に去るかの方が大事でしょう。
「……国王陛下、王女殿下。お二人の輝かしい未来を私は心から祈っております」
男性は同情の目を、女性は同情と共にウットリした目を私に向けていますから成功でしょう。
私の立場は守れましたが……。
しかし……。
ほぼ、私の勝利を確信していたのに。
最後の最後で、あんな早業で全てをひっくり返されるとは……。
陛下は女慣れ女受けをしないからと侮っていましたが、彼は政治的には即決即断のカリスマ国王陛下。それを忘れてはいけなかったですね。
そして、あんな伏兵達がいようとは思っていませんでした。
悔しいですが、完全に私の失敗です。
その結果、二度までも私は完璧な妃を失ってしまいました。
……この絶望的な喪失感は、どうやって埋めるべきでしょうね……。
そうだ。姫の素敵な表情で埋めて貰う事にしましょう。そう、王妃になり今日以上に私を立てなければいけない日。
姫と陛下の結婚式。
きっと、今までで一番素敵な顔を姫にさせてみせますよ。そう思うと、とても楽しみです。
愛しい姫、一生の思い出を作らせて貰います。
それで、全て忘れて差し上げます。
きっと姫は王妃らしく許して下さるでしょうね。
そんな貴女だから私は一目惚れをしたのですから。
遅れましたが、感想やブックマークや評価をありがとうございました。楽しんで頂けたら嬉しいです♪
次回はドS三人の攻防になります.:。+゜