ドS達の気持ち 1
番外編を始める事にしました♪
私は、この国の宰相の長男として生まれた。
生後半年で言葉を発し、1歳の時には数字や簡単な文字を覚えた私を皆は100年に一度の神童と言うのだった。
それなりに大きな国で、神童に相応しい教育をされ、それなりの愛情と厳しさを受けた私の境遇に不満などは無い。
ただ、一つだけ耐えられない事がある。
それは、自分が一目惚れした愛しい姫を泣かさずにはいられないことだ。
私が王女に初めて会ったのは2歳の時だった。
この国の君主である王は、宰相である父と幼馴染という事もあったのだろう。生まれて一か月程の王女を、父と息子である私に会わせてくれた。
「一か月経つと、大分人らしくなった」
言葉とは裏腹に陛下の顔はデレデレであった。
今思えば初めての女の子だからだろう。
大の大人がこんな顔をするとは……2歳の私は陛下の腕に抱かれた赤子を見た。
!!!!
衝撃が走った。
人らしいどころか……むしろ本当に人だろうか……絵本に出てくる妖精では無いだろうか……。
ドキドキと胸の鼓動が早鐘を打っていた。
そう、私は2歳で生後1か月の王女に一目惚れしてしまったのだ。
「この子をお嫁さんにしたいです」
2歳の私はつぶやいた。
それを聞いた父と陛下は笑っていた。
月日は流れ、王女はずっと妖精の様に可愛らしかった。
ふわふわとした薄い金色の髪、白い肌、エメラルド色をしたつぶらな瞳。
こんなにも美しい姫はいないのではないだろうかと思うほどだ。
そんな姫を王や王妃や三人の王子達はそれはそれは大切に大事にしていた。
愛されて育った姫は優しく純粋な性格に育った。
もちろん、周りの騎士やメイド達も優しく見守っていた。
だが、たまに姫に意地悪をする少年達もいた。
彼らは姫への好意を意地悪という形で表現していたのだろう。
分かってはいたが、猛烈に腹が立った。
お前達ごときが姫を泣かす? おこがましい。
私の怒りは姫付きの騎士が少年達を排除する事で収まった。
それと同時に疑問が浮かんだ。
私は自分以外が姫を好きになっても怒りは感じない。
なのに、どうして自分以外の者が姫を泣かすのは許せないのだろう。
どうして私は、騎士に排除されないように姫を泣かす方法を考えているのだろう。
さすがに赤ん坊の姫を泣かせたいとは思わなかった。
いつから私は……確か5歳の時。
「待って~」
3歳になった姫はトテトテと私の後を付いてくる。
可愛らしい。
「キャッ!!」
「姫!!」
転んでしまった姫に駆け寄る。
掌に傷が付いている。
「姫!! もっと姫らしく御淑やかにしなければ!!」
そう私が叱責すると、姫は瞳を潤ませながらも可愛らしい声で謝るのだ。
「ごめんなさい」
ゾクゾクゾク!!
はぁ……。姫の潤んだ瞳と反省した可愛らしい声……。
今日も一番可愛らしい姫を見る事が出来た。
だが、怪我は可哀想だ。
私は治癒魔法が使えない。姫もだ。
私は怪我をしていない姫の手を引いて姫付きの騎士と一緒に治療をして貰いに行く。治療が終わると姫は可愛らしくお礼を言う。
その顔も可愛らしいのだが、やはり先程の涙目になって謝る姫の方が何倍も可愛らしい。
そう、もうこの頃から私は姫を泣かせる事に喜びを感じる様になってしまったのだ。
それなりに賢い自分には分かっていた。
こんな自分を姫が好きになる事は無いだろうと。
むしろ、いつか完全に私は姫から拒絶されるだろう未来も見えていた。
姫の側に居たい。いや、姫の夫になりたい。
どんな望みより心から思っているのに。
なのに止められないのだ、姫を泣かせる事を。
あの涙目で必死で謝る姫を見たいと言う欲望を止める事が出来ないのだ。
私の一目惚れで始まった初恋は終わりに向かって進んでいる。
100年に一度の神童と言われた自分は破滅とわかっている行動を止められない愚か者なのだった。
そして、とうとう初恋の終わりの時は来た。
姫の騎士に排除されないように、最初の頃は姫のミスや不注意を厳しい言葉で叱責していただけだった。
素直で努力家の姫は私の叱責をちゃんと聞いて成長をしていた。
そして、成長しきって非の打ち所がない王女になった姫を私は偽りの言葉で叱責した。
そうすると、姫は私の前でだけ失敗をするようになった。
心が震えた。妖精の様に美しく完璧な王女である姫。
その姫が私の前だけで失敗し、私にだけ叱責され涙目になる……余りの喜びに私は滅びの言葉を言ってしまった。
「……ああ、楽しい……」
まさか声に出していたとは。
姫は驚いたような顔をした後、諦めたような顔をした。
どんな時も姫は、私の叱責を受け止め改善しようと前向きに努力していたと言うのに。姫の努力は私の前では無駄な事だと気づいてしまったのだ。
気づかせたのは自分だ。
そう。私は自分自身の手で初恋を終わらせてしまったのだ。
それどころか私は姫の心を壊す姫の敵。
そして、私は姫を守る騎士やメイド達によって、とうとう姫から排除されたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇
僕は、この国の裕福では無い男爵家の三男として生まれた。
生まれた時から可愛らしい容姿をしていた僕は家族全員から天使の様だと言われていた。
そして、歴代の魔術師よりも高い魔力を持っていた僕は、由緒正しい跡取りのいない公爵家の養子になった。自分の境遇は恵まれた物なのだろう。
でも、一つだけ耐えられない事がある。
それは、僕を愛し微笑んでくれていた家族と離れ離れにされたことだ。
僕の生まれた家は貧しかったが、両親も兄弟達も僕を愛し、優しい笑顔で笑ってくれていた。
なのに、公爵家に引き取られてから僕を愛し微笑んでくれる人なんていなかった。
生活は裕福で不自由など無い。でも……。
帰りたい。僕の家に。
そんな時、王宮の庭を歩いていたら優しい笑顔を振りまく少女がいた。
遠くからでも分かる美しい容姿。それ以上に……あの笑顔。
そう思った時には少女に向かって走り出していた。
飛びつこうとした時、騎士達が僕を止めた。
どうして?? 僕はあの少女の笑顔が見たいだけなのに!! やっと、やっと会えた笑顔なのに!!
泣きだした僕を少女が慰めてくれる。
「泣かないで。怪我は無い? ごめんなさいね、私はこの国の王女なの。だから、騎士は貴方を止めるしかなかったの」
綺麗なレースのハンカチで僕の涙を拭いてくれた少女は申し訳なさそうに言った後、とても優しく微笑んでくれた。
ああ、この笑顔だ。
僕の家族と一緒の優しい笑顔。ずっとずっと、僕はこの笑顔を求めていたんだ。
「僕……いえ、私こそ王女殿下とは知らずにご無礼をしてしまって」
「いいのよ。あっ、血が出ているわ。大変!!」
「大丈夫です。ぼ……私は治癒魔法が使えるので」
騎士に止められた時に少し怪我をしたみたいだった。
「!! こんなに小さいのに治癒魔法が使えるの? もしかして貴方は……」
姫は僕の正体に気づいたみたいだった。小さな子供みたいに泣いたのを払拭したくて私と言ったけど姫の目には小さい子どもにしか映っていないのが何か悔しかった。
その後、姫は公爵家の養子で素晴らしい魔力を持つ僕は幼いだけで危険など無いだろうから特別に警護の対象外にしてくれと頼んでいた。
そして、姫は僕の治癒魔法をとても優しい笑顔で褒めてくれた。
いつから僕は変わってしまったんだろう?
最初は、褒められたことが嬉しかった。そして、優しい笑顔がもっと見たいと思った。それと、姫に大人ぶりたかった。それだけだったハズなんだ。
姫にワザと薔薇のトゲで怪我をさせたのもそうだったのに。
姫は僕を心配させないように罪悪感を抱かないように痛みを我慢して微笑んでくれた。
そして、僕が姫の治療をすると、優しい笑顔で褒めてくれた。
「ありがとう、大丈夫よ。貴方の小さな綺麗な手が傷つかなくて良かったわ」と。
僕が望んだ優しい笑顔だったのに、痛みを我慢して微笑む姫の顔の方がより美しく感じた。
僕は姫の痛みを我慢する笑顔がもっと見たくなってしまった。
だから、姫の怪我を少しずつ酷くしてしまった。
姫は、いつも謝る僕に「大丈夫よ」と、痛みを我慢して微笑んでくれる。
この微笑は、僕への愛情なんじゃないかと思った。
僕が姫に怪我をさせ「大丈夫」と、姫が許してくれる。痛いのに我慢する姫の顔……その顔は慈愛に満ちている。
僕は許され愛されていると感じた。
一体どこまで、姫は僕を許し愛してくれるだろう。
そう考えるたびに僕はゾクゾクした。
いつの間にか僕は、人とは違う喜びを感じてしまっていた。
そして、やり過ぎてしまった。
優しい姫は僕がワザと怪我をさせてる事に気づいていなかった。
でも、姫の騎士達は違った。
やんわりと姫がいない時に警告もされていた。
そして、とうとう強く言われた。
「もし、貴方が次回も姫を傷つけるのであれば……。姫は貴方を実の弟の様に可愛がっています。どうか、姫を失望させないで頂きたい」
騎士は姫の心を守ろうとしていた。
僕だって姫の心を傷つけたくは無い。
それは本心だった。
なのに、僕は我慢出来なかった。
あの日は珍しく姫が「とても痛いわ。すぐに治して欲しいの」と、言ったのに。
僕は珍しく痛みを我慢しない姫を見て、今までで一番姫に見惚れてしまった。
言い訳が出来ない程、僕は大失敗をしてしまった。
ただ、優しい笑顔を見たかった僕は、大好きな人の痛がる姿を見て喜ぶ人間になり姫にバレてしまったのだ。
そして、騎士の忠告を最後通告を無視した僕は姫に会えなくなる罰を受けた。
僕は馬鹿だった。
きっと姫は僕のした事を知って傷ついただろう。
僕は……姫の心が傷つくのは悲しかった。
僕が最初に強烈に魅かれたのは姫の優しい笑顔だったから。
姫の笑顔が素晴らしいのは姫の心が優しいからだ。
そんな姫の心を傷つけて良いわけないんだ。
……もちろん、体も。
もう、姫は僕に笑いかけてくれないだろう。
◇◇◇◇◇◇◇
姫に会えなくなって、僕はまた優しい笑顔を無くしてしまった。
もう、僕は大人ぶる必要も無くなった。
僕は普通の11歳に戻った。
そして、僕は魔力の才能を生かすことに専念した。
僕の評判は上がった。
そのうち、僕に優しい笑顔で接してくれる人が増えた。
それに答える様に僕が微笑むとメイド達などは「キャー」と、叫んでいた。
……そうか、僕の才能と容姿と微笑を利用すれば優しい笑顔を貰えるのか。
そう気づいた僕は、姫に会えない寂しさを埋める様に天使の笑みを皆に振りまいていた。
初めて会った時の姫の様に。それだけが姫との接点だから。
やがてそれは姫とは似ても似つかない物になってしまったけど。
そして、僕は13歳になった。
久しぶりに王宮に参内すると、前の方から僕の一番嫌いな男が歩いてきた。
「ご無沙汰しております。最後に会話をしたのは、僕が姫に会えなくなった日でしたでしょうか?」
僕は敢えて嫌いな男に声をかけた。
何故って? それはこの男も姫に会えなくなったから。
「これはこれは。お久しぶりですね」
「えーっと、最後の会話はこうでしたっけ?『姫を傷つける者は本来は排除されるべきですが、姫の優しさと公爵家の身分とご自分の才能に救われましたね』で、合ってます?」
僕は笑顔で聞いた。
「覚えていませんね。では」
「お待ちください。この度は姫の婚約者の第一候補でしたのに姫に近づく事を王に禁止されたそうで。貴方様の心痛は誰よりも分かっていますよ」
「そうですか? 私は姫に怪我をさせて喜ぶ様な者の気持ちは分かりかねますが?」
「へぇ。姫の心を傷つけたせいで接近禁止になった方の言葉とは思えませんけどね。どう違うんです?」
「ふっ。そうですね、違わないでしょう。姫の幸せの為には私も貴方も相応しくありませんからね」
そう言うと、僕の大嫌いな宰相の息子は去って行った。
元々、姫と会っていた頃から宰相の息子が姫に厳しい事は知っていた。
そして、その現場に居合わせた事もある。
気分が悪かった。姫の努力を一切認めず、高圧的に姫を責めるあの男が。
僕は姫の事を褒める事はあっても貶した事なんて無かったから。
姫が涙目で「ごめんなさい、頑張るわ」と、言うとあの男はこう言った。「私の期待を裏切らないで下さいね」と。その時の男の笑顔を僕はこの世で一番醜いと思った。
あの日から、宰相の息子は世界で一番嫌いな男になった。
でも、一年後。彼以上に嫌いな男が現れた。
◇◇◇◇◇◇◇
今、一番会いたくない少年に会ってしまった。
天才魔術師で天使の様な容姿に公爵家の身分を持つあの少年に。
私はあの少年を世界で一番軽蔑していた。
何故なら、姫の美しい体をあの少年は毎回傷つけていたからだ。
その現場を一度だけ見た事がある。
姫が怪我をしていた。するとあの少年は天才魔術師のくせに中々治癒魔法を使おうとしない。
姫は、痛みを我慢していると言うのに。
あれはワザとだ。
あの少年は姫の苦痛の顔に喜びを感じている。
姫が気づいていないのを良い事に。
私は姫が怪我をしたり、病気になったりするのが一番辛い事なのだ。
なのにそれを癒せる力があるのに勿体ぶる少年に怒りが湧いた。
すぐさま、私は姫付きの騎士になぜ放置するのか聞いた。
「もう、最後通告はしています」と、騎士は答えた。
そして、あの少年は騎士の最後通告を無視したらしい。ほどなくしてあの少年は姫に近寄れなくなった。
よくよく聞くと、あの少年は治癒魔法をすぐ使わないだけではなく、怪我自体もあの少年が仕組んでいた事だと知った。
何て下劣な少年なのだ。
女性の体に傷を付けるなんて。
しかも、妖精の様に美しく華奢な姫に。
私には到底出来ないし、理解出来ない。
だが、そんな少年と私は同じ制裁を受けた。
あの少年が言った通りだ。あの少年と私は結局は同じなのだ。
何人たりとも姫は心も体も傷つけて良い方では無いのだ。
姫は私達の様な人種とは一緒に居てはいけないのだ。
あの少年も私も結局、姫を傷つける事を幸せに感じる。
姫を絶対に幸せに出来ない人種なのだから。
だから、この時は想像もしなかった。
姫を守る為にあの少年と共闘する事になるなんて。
そして、この少年より私より最低な人間がいるなんて。
楽しんで頂けたら嬉しいです.:。+゜
次回は王太子の気持ちです