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第三話

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お兄様である王太子の誕生祝いの宴は、陛下と私の婚約発表の場になりました。


この事は父母や関係者にとっては想定内だった様です。

各国の客人達も、私とドS王太子か国王陛下のどちらかと婚約発表があるのでは?と、思っていたみたいです。


各国の方がいる前で、大国の国王陛下が宣言し、私の両親である王と王妃が賛成したので、滅多な事が無い限り私達の結婚は国際的に認められたも同然です。


なので今、ドS王太子がどんなに熱演をしたとしても私と陛下の結婚はもう覆せないでしょう。


そこは心底ホッとしました。

陛下がどんなドSかは分かりませんけれど、精神的にも肉体的にも痛めつけたい性癖も問題ありそうな演技派腹黒っぽい王太子より、きっとヒドイなんて事は無いでしょう……たぶん。


皆さんが祝福モードなので、私も笑顔で皆さんに答えます。

すると、そんな私の頬に陛下の大きな手が……テラスの時と同じように、熱烈な口付けをされてしまいました……ちょ…本当にどうしたらいいのですか? 人生で二回目の口付けをこんな大勢の前で……しかも、父母も他の兄も昔から知ってる者達の前で……。


うーん、でも拒否っぽい事をしてしまえば、ドS王太子がまた何かを言ってくるかもしれませんし……。

テラスの時と同じで陛下の戦略?かもしれませんし……。

ああ~もう~どうしたら~。


「国王陛下、王女殿下が戸惑っておられますよ」


そう言って来たのは何とドS王太子でした。

ああ、やっぱり彼は一瞬の私の躊躇を見逃さないわ。

イヤ~また、演技されたらどうしましょう……。


その言葉を聞いて、陛下は唇を離して下さいました。


「浮かれてしまった」


陛下は短く庭園と同じ答えをしました。

ドS王太子は、複雑そうな顔をしています。美少年の彼がそう言う風な表情をすると可哀想に見えてしまうから、この王太子は怖いのです……。

実際、彼は私に選ばれなかったのは事実です。だからこそ、陛下が自分に見せつける様に口付けをした、陛下は自分に対して配慮が無かったと言う風に皆を誘導するのでは……。


「5年越しの初恋が実り、我が国王陛下も珍しく浮かれてしまったようです。しかしながら、それほど思っていた王女殿下を陛下はきっと掌中(しょうちゅう)の珠のように大切にされるでしょう」


フォローするように陛下付きの護衛の方がそう言いました。「ほおー」「5年も」「初恋ですって」と、感心するような声があちこちから聞こえます。


「なるほど。どんな時も冷静沈着と言われた陛下がこのように熱烈に王女を想って下さるとは……この国の者として、とても光栄に思います。王女はきっと幸せになるでしょう。そう思いませんか王太子殿下?」


私には見せない爽やかな笑顔でそう言ったのは……何と、宰相の息子でした。


「……私が王女殿下を幸せにしたかったのですが……」


と、悲劇のヒーローっぽい表情と声色で王太子が言います。

うわぁ……やっぱり彼は演技派です。しかも、負けず嫌いなのかもしれません。

ほぼ決まりかけたこの状態で、皆さんの祝福ムードにも諦めないなんて……。


「王太子殿下、僕は殿下のお気持ちが良く分かりますよ。王女殿下はお優しくとてもお美しい。僕にとっても憧れの方ですからね。だからこそ僕は国王陛下と王女殿下の結婚を祝福しますよ」


そう言ったのは天才魔術師です。

久しぶりに彼を見ましたが、元々中性的な彼はドS王太子以上の美少年になっていました。実際、彼はまだあどけなさが残る14歳。そんな彼が無邪気に可愛らしく首をかしげて「殿下は?」と言外に問う姿は天使の様でした。

一瞬、ドS王子の表情が変わりました。本当に一瞬でしたが……。


「……国王陛下、王女殿下。お二人の輝かしい未来を私は心から祈っております」


悲しみをこらえて笑顔で(多分演技でしょうけど)ドS王子は言いました。

彼はそう言うと、その場を優雅に立ち去りました。

彼は、健気で潔いライバルとして退場して行きました。


彼は先程、天才魔術師の言葉に一瞬イラっとした表情をしました。

自分の思惑通りに話が進まないと理解したからでしょう。

王太子は自分以上に天使の様な容姿と無邪気な彼には勝てないと一瞬で悟り、天才魔術師の言外の問いに、彼は素早くベストな答えを出したのです。


一瞬で軌道修正し、自分のイメージを壊さず退場した彼は本当に優秀な方です。

だからこそ陛下の護衛や彼らのフォローが無ければどうなっていた事か……。


それにしても、ドSの彼らが(宰相の息子と天才魔術師)まるで私を庇ってくれたような発言をした事に私は驚いていました。

しかも、宰相の息子の方は私に見せない爽やかな笑顔で、魔術師の方は一人称を僕にして可愛らしさを前面に出していましたし。


その時は分からなかったのですが、後々、彼らが何故こんな風な言動をしたか分かるのです……が、それを理解した時、私はドSとの埋められない溝をマザマザと感じたのでした。


結果的に、陛下と私の結婚は最初の思惑通り穏便に、三国の体面を守った形で国際的に正式に決まったのでした。

そして、その日から結婚式までのスケジュールがあっという間に組まれました。


まず私は、我が国の王宮で3か月間王妃教育を受け、陛下とは文通をしていました。


私はその日にあった事等を書いていたのですが、陛下からの返事はいつも短く一言です。


『早く会いたい』『会いに行きたい』

『声が聴きたい』『姫に触れたい』

『抱きしめたい』『愛している…とても』


等々、とても短い一文なのですが情熱的な手紙に、いつも胸をキュンキュンさせてしまうのでした。正直、私は一目惚れをされる事はあっても恋をした事が無いので割とチョロイのかもしれません。

そう自分で分かっていても、初めての恋人っぽい文通にトキメク事を止められないのでした。


そんな文通期間も終わり、私は陛下の国で最終的な王妃教育を受けることになりました。そして、その一か月後に挙式する事が決まりました。


私の婚礼衣装は我が国が威信をかけて作りました。

何回もフィッティングやデザインの変更をして(私の意見は無視で進められました)大変でした。でも、素敵な衣装が出来上がり私のテンションも自然と上がりました。文通と素敵な花嫁衣裳。結婚に関して不安だけではなく期待の様な物も生まれて来ていました。


そして、陛下の国に行く日になりました。私に仕えてくれる騎士とメイド達を数人連れて。最終的な荷物と共に陛下の国に着くと、陛下がお出迎えをして下さいました。


馬車に乗っていた私の所に来て下さって、手を取って降ろして下さいました。


「ありがとうございます、陛下」


「会いたかった」


そう言うと、陛下は私を抱きしめ……熱烈に口付けるのです。

えーっと、なんでしょう。最初の2回は王太子を退ける為だと思っていたのですが、もしかして陛下は公衆の面前でこんな事をして私を恥ずかしがらせるのを快感にするSなのでしょうか……。


そんな事を考えていると、陛下は私をお姫様ダッコします。

やっぱり、私が恥ずかしがる姿を見たいのかしら?


チラリと陛下を見ると、表情はあまり変わりません。

ただ、私の視線を感じると少しだけ微笑んでくれました。


あら、素敵……。

今までのドS方は、ドS行為の後に私をうっとりと見つめたり嬉しそうに微笑む事はありました。

同じ様でありながら、どうしてか陛下のわずかな微笑は……それとは違う様な気がするのです。

上手く言えませんが…でも、それは私の願望がそうさせているかもしれません。

たぶん私は恋愛関係はチョロイと思いますし。


陛下は優れた軍人でもあるので、とてもしっかりと私をお姫様ダッコしてズンズン歩いて行くのですが、何と……王の間に着いて王の玉座に座る時も私を離さなかったのです。


これは流石に……どうなのですか? ドSとかの前の問題じゃないですか?


王の膝に乗せられたまま、陛下は仰います。


「我が王妃になる姫だ。皆、未来の王妃に忠誠を誓う様に」


そう言うと、その場にいた者達は最敬礼をして私を歓迎して下さいました。

それから、陛下の重臣の方々の紹介と挨拶があったのですが、私はずっと陛下の膝の上なのです。しかも、チョイチョイ陛下が私の頭に口付けたり撫でられたりしているのですが……。


顔が赤くなってしまう私を穏やかな顔で見つめる陛下。

これは…これが未知のドSなのでしょうか? とりあえず、めちゃくちゃ恥ずかしいのですが……それが目的なのですか?

私と共に来た騎士やメイド達も最後に紹介されたのですが、彼らも私のこの状況に戸惑っている様に見えました。


でも、それに反比例するように陛下の部下の方達は陛下のこの様子を受け入れているみたいです。

うーん。王宮の庭で陛下が私に口付け?ようとした時は止めて下さったけれど、王妃として内定している今は…何でしょう、陛下の好きにさせるスタンスなのでしょうか?


これが、陛下の未知なるドS行為だとして、この国の方達は受け入れていらっしゃるという事ですか?

じゃあ、助けて貰えないのでしょうか?

皆の紹介も終わり、そんな事を考えながら陛下を見つめていました。


すると……また、陛下が熱い口付けをなさるのです……今日一日で2回目。トータルで4回目です。

やっぱり、こういうタイプのドSなのですか? 回数はもっと増えるのですか? 誰かが見てないとダメなのですか? 


「陛下、王女殿下を王妃として迎えられる事の喜びは充分に我々は理解しておりますが……婚礼までは節度を守って頂きませんと……」


そう言ったのは、40代くらいの宰相でした。あら? 助けて下さるの?


「守ってるつもりだ」


ええー。守ってるつもりなのですか陛下? 本気ですか?

まさか、無自覚の羞恥系のドSなのですか?


「……陛下が言葉よりも行動で示す方だと我々は知っておりますが、王女殿下や殿下について来て下さった皆様にはまだ浸透していませんので……」


「……そうか」


ん? 言葉より行動で示す……。王妃教育の中で即決即断で政治を動かす方だとは聞いていたけれども。全てにおいてそうなのですか? 

えーっと、じゃあ、これはドSになるのかしら? 


「嫌だったか?」


陛下が私に聞いて下さいます。

嫌って言うか、普通に恥ずかしいのですけれど……恥ずかしいと言ったら止めて下さるかしら?


「やはり、人前で口付けは流石に恥ずかしいですわ……」


「そうか」


そう言うと陛下は口付けはなさいませんでしたが、ギュウっと抱きしめるのでした。うーん、これもどうなのかしら? 

そもそも、玉座に私をお姫様ダッコのまま膝に乗せているのもいかがなものなのでしょうか?


「……そういう所ですよ、陛下」


宰相が、ヤレヤレという感じで陛下に忠告します。

ですよね。この国の宰相から見てもダメですわよね?

陛下って人の話を聞いてくれるようで聞いてくれませんわ……。

やっぱり、そういうSなのかしら?


「どういう所だ?」


心底不思議そうに陛下が仰っています。えーっと、この方はドSと言うか天然なのでしょうか?

天然と見せかけたドSなのでしょうか?


「玉座に王女殿下と一緒に座るのは今日だけにしていただきます。それと、人前で口付けたり抱きしめたりするのは結婚式くらいにしていただきます。それ以外はご遠慮ください」


「そうか」


一応、陛下は納得して下さったみたいです。


「姫、今日だけは我慢してくれ」


あっ、やっぱり今日だけはこのスタイルを貫くのですね。

困ったような顔の私に陛下が仰います。


「すまない、今日を楽しみにしていたのだ」


……まさか、私に会えて(はしゃ)いでいるのですか……ヤダー、見た目とのギャップがあり過ぎてスゴイ可愛らしいわ……。


「いえ、私も陛下にお会いしたかったです」


私がそう言うと、陛下がまた顔を近づけます。


「陛下!!」


宰相がビシッと言うと、陛下は動きを止めました。

これが陛下のドSだとしても陛下は部下の言葉に従ってくれますし、一応…恥ずかしいと言った口付けもしませんでしたし、未知のドSは何とかなりそうな気がします。


「すまん」


陛下はそう言うと、私の頬を撫でるのでした。

謝って下さるのは嬉しいですけれど。

うーん、何とかなると思いましたが、こんな大勢の前でお姫様ダッコ&頬を撫でるのも結構恥ずかしいですわ。これが陛下のSなら全てクリティカルヒットです。


でも、私の恥ずかしがる顔が見たいと言うより、私を……ものすごく愛して下さってるだけの様な気もします……。

ヤダー、ドキドキしてしまうわ。


いや、落ち着いて。恋愛初心者の私には、陛下の行動が「甘さ」なのか「Sさ」なのか判断が出来ないだけかもしれないわ。


そうね、早とちりしてガッカリしないようにしなければ。


挨拶が終わり私は用意された部屋に案内されました。

私のメイド達と、こちらのメイド達でテキパキと荷物を片付けてくれます。


えーっと、とても広くて豪奢なのだけれど。

ここは、王と王妃の寝所では?


初めの話では結婚までは同衾(どうきん)は無いって聞いていたのですが。


……聞いた方が良いのかしら。

今日持って来ていた荷物は最終的なわずかな物だったので、いつの間にか片付けが終わった様です。


陛下の配慮なのか私の騎士数名を残し、それ以外の者達も自分の部屋と荷物の整理に向かわせてくれました。


陛下のメイド達がお茶とお菓子を用意してくれます。


一応、我が国から騎士やメイドを連れて来ましたが、敵国で人質的な婚姻では無いので丁重にメイド達は給仕してくれます。


お茶を飲んで一息つきました。部屋を見渡します。たぶん、前もって送っていた荷物もここにあるっぽいのだけど。一人の部屋にしては豪華すぎるわよね……どう見ても。


「ところで、この部屋は王と王妃の寝室ではないの?」


「はい、そうでございます」


「結婚式までは、陛下とは別々のお部屋と聞いていたのだけど?」


「…(わたくし)共もそう聞いていたのですが…陛下が急遽こちらにと…」


詫びる様にメイドが言いました。


「そう。では、陛下に聞いてみるわね」


「……申し訳ございません」


「いいのよ。陛下がお決めになった事なら仕方が無いわ」


私は微笑んで言いました。陛下がそう言えばメイド達は従うしかありません。彼女達に説明を求めるのも責めるのも抗議をするのもお門違いです。


ホッとしたようにメイド達は私のお世話を一生懸命してくれます。

元々、友好的な関係ですし、一応、陛下が私を求めてくれて二人の候補の中から選んだと言う経緯があるせいか、本当に最上級のおもてなしをしてくれているみたいです。


長年、私に仕えてくれたメイドも騎士達もいますし、この王宮の皆様方も私はもちろん私の国の者達にも優しく親切にしてくれています。

普通に考えればこれ以上恵まれた婚姻は無いでしょうね……。


「片付いたようだな」


陛下がいらっしゃいました。


「姫と二人になりたい」


陛下がそう言うと、私付きの騎士もこの王宮のメイド達も部屋を出て行きました。

もちろん、騎士達は扉の向こうで待機はしていますが。


私が座っているソファーに陛下も腰を掛けます。

陛下は私を抱きしめ……本日3回目の熱烈な口付けをしてきました。

確かに今は人前では無いですが……。


この状況で、今日から同じ部屋で眠るのでしょうか……流石に、結婚式までは清らかな体でいたいのですが……。

三か月の文通で心の距離的な物は埋まっていたかもしれませんが、こういう物理的な距離感も出来ればゆっくり縮めていただきたかった。


「姫……」


陛下はそう言うと、やっと唇を離してくれましたが、今度は体の方をしっかりギュッとして離しません。

私は貞操を守れるかしら……。


「……あの、陛下? 私達は今日から一緒の部屋なのですか?」


「そうだ」


「……結婚式までは別の部屋と聞いていたのですが……」


「嫌か?」


「……嫌とかでは無く……慣例と違うのでは?」


「姫と離れたくない」


「……」


「この三か月、一生分の我慢をした。もう出来ない」


そう言って陛下は、ますますギュッっと抱きしめるのですが……。

う、うーん。出来ないって断言されてしまうと……。

でも、私にも王女としての立場もありますので。


「結婚式には……清らかな身のまま出たいのですが……」


「それは守る」


え? 本当に?


「宰相にも言われた。口付け以上の事はしない」


「……そ、そうなのですか」


そう言われても、最初聞いていたのと違い過ぎて心の準備が整っていないのに。


「姫が嫌がる事は絶対にしない。誓う」


あらー。素敵な言葉。


「そのお言葉、絶対に守って下さいませね?」


「ああ。神に誓って」


ここまで言われてしまうと、もう部屋を別にして何て言えないわ。

うーん。私の嫌がる事はしない……ドSらしからぬ発言だわ。


陛下は私に一目惚れをしたはずなのに……。

未知のドSは奥が深いわ……。


陛下の未知のドSは何とかなったとして、私の結婚式には他のドS3人が全員出席します。

どうか、彼らも晴れの舞台で私の嫌がる事は絶対しませんように……。

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