第二話
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この天使の様な微笑みでドS行為をする王太子は、社交辞令か聞くまでも無く、私に一目惚れをしたのでしょう。
完璧な王子様に見えた王太子は、完璧以上のドSでした……。
彼と結婚したら……もう、地獄以上の地獄になるでしょう。でも、はたから見れば一応妖精と呼ばれている私と優しいと評判の金髪碧眼の王太子はお似合いで幸福そうに見えるのかもしれません……。
イ、イヤーーーー!!
コワスギです!!
絶対に嫌ですわ。だって、逃げ場がありませんもの。
今まで私が被害にあっても遠ざける事が出来たのはハッキリ言ってしまうと、この国の王女である私より身分が低い方達がドSだったからです。
でも、相手が他国の王太子で夫なら……もうダメです。
かつてない恐怖を感じながら、王太子との顔合わせは終了しました。
お昼を頂いた後、今度は黒髪黒眼の王様とお庭でお散歩する予定です。
こちらも、私の騎士と陛下の護衛の方がいらっしゃいます。
陛下が私を見て言いました。
「よろしく頼む」
……え? それだけですか?
「はい、こちらこそ、大国の国王陛下にお会いできて光栄でございますわ。よろしくお願い致します」
私が笑顔でそう言うと、陛下はコクッっと首を縦に動かしました。
無表情だし、噂以上に気難しそうな方だわ。
「……早咲きの薔薇が見事に咲いている場所があるのです。どうぞこちらへ」
王太子に言った同じセリフを投げかけても、陛下は同じようにコクッっと首を縦に動かすだけでした。
……これはこれで、どうしていいか分からないわ……。
でも、一目惚れしたっていう相手にこの態度……。
これはSさなのかしら? でも、評判通りと言えばそうだし。
「陛下は薔薇はお好きですか?」
「普通だな」
「……そうですか。私は好きですわ」
「何色が好きなのだ?」
「何色でも好きですけれど……やはり、赤が一番好きですわ」
「覚えておく」
……意外と会話が出来たわ。
「陛下は何か好きなお花はございますか?」
「……スズランだな」
あら、こちらも意外。
「スズランですか。私も好きですわ。可憐ですものね」
「純粋が花言葉だからな」
「そうなのですね」
「再び幸せが訪れる」
「え?」
「もう一つの花言葉だ」
「陛下は博識ですのね。それに、可憐な姿に素敵な花言葉のスズランがお好きだなんて……」
「意外か」
えっと、正直に言ったら意外ですけれども。だけど。
「嬉しい意外さですわ」
「どういう意味だ?」
「陛下のお優しい御気性が垣間見れた気がして……」
小さくて可憐な花が好きで、素敵な花言葉まで知っているのだから、評判よりずっと繊細で優しい方かもと思ったのです。しかも、言葉は短いですが、どうなる事かと思った会話もちゃんとして下さいますし。
「……」
陛下は立ち止まり、私の顔をじっと見ます。
どうしたのかしら?
陛下は右手を私の頬に添えます。
「……優しいのは姫だろう」
そう言うと、陛下の顔が近づいてきます。
ん? えっ…?
「陛下ーーーー!!」
物凄いダッシュで陛下付きの護衛が駆けつけました。
「……なんだ?」
「…き…今日はまだ顔合わせの機会に恵まれただけですよ!! まだ、陛下と王女殿下の婚約が決まった訳でもありませんっ」
「……そうだな」
私付きの騎士も駆けつけたのですが、やはり格上の国の国王陛下……陛下付きの護衛が止めてくれてホッとしている様子です。
「無作法をした……」
そう言うと、陛下は軽く頭を下げました。
「……いえ、お気になさらず……」
と、私は言いつつ、胸はドキドキしていました。
髪も目も真っ黒の彼は真っ黒な軍服を着ています。
その姿は威圧的なのですが……先程近くで見た陛下の眼差しと頬に触れた手は……とても優しかったので。
基本的に私は優しい人が好きなのです。
そう思っていたら、私付きの一番年上の騎士が思い切ったように言いました。
「国王陛下。今日は王女のもう一人のお相手である隣国の王太子殿下もいらっしゃいますし、我が国の王太子の誕生祝いの宴があり他国の方も大勢いらっしゃいます……ですので、どうか……」
いつも、私を守ってくれる騎士はやんわりとですが無体はするなと忠告してくれました。
「そうだな。自重する。すまない」
そして、陛下も素直に謝ってくれました。私だけじゃなく、騎士にも謝って下さったわ。あら……やはり陛下はお優しい方なのかも。
陛下の態度はSさとは関係ないクールさなのかも…じゃあ、一目惚れは社交辞令かも……!!
そう思うと、希望が見えてきました。
一目惚れでは無いのかもしれないわ!!
「初恋の君に会えて浮かれていた」
え? ん? 初恋の君? 私の事ですか?
ここに女性は私だけですものね、私ですわよね?
えーっと。初恋と一目惚れって同じ?違う?どっち?
「……陛下と私はいつ頃、どこで初めて会ったのでしょうか?」
「5年ほど前だ」
この国では王女が公の場に出ても良いのは15歳から……という事は、宴とかでは無いわよね?
「ちょうど、この庭だ」
「えっ?」
「姫は薔薇で怪我をしていた」
……え? 怪我をして痛がっている私に恋をしたの? ええ……それって。
「そうですか……陛下が我が国にいらっしゃっていたなんて知りませんでしたわ……」
「我が国の高官の息子という事にしていたからな」
「そうなのですか……」
初めて会ったと言うより一方的に見かけたという事ね。
今の所、陛下は優しそうだけれど……痛がる私を見て恋に落ちた…結局は一目惚れなのですね……なら、きっとドSですわよね……。
逆に、どんなドSなのかしら……。
王太子も陛下も残念ながら私に一目惚れしているらしいです……。
王太子の方は完璧以上のドSだと判明したけれど、陛下の方は確実なSっぽさは無いのに。
陛下は、まだ私が体験したことないタイプのドSなのかしら……。
ああ、一目惚れじゃなかったら……絶対に陛下の妻になるのに。
未知のドSは未知ゆえに怖いわ。
王太子と陛下の両方の顔合わせが終わって後は、今日の一番の行事であるお兄様の誕生祝いの宴。
ここで、お二人とダンスを踊らなければ……。
メイド達にピカピカに綺麗にして貰い、王女らしく美しいドレスと豪華なアクセサリーと素敵な髪形にして貰い化粧も綺麗に施して貰いました。
「姫。一段とお綺麗です。どうか、私と踊っていただけませんか?」
宴の中盤、初めのダンスに誘ってくれたのは王太子の方でした。
「ええ、喜んで」
そう言って、私達はダンスをします。
王太子だけあって、見事なリードをしてくれるのだけれど。
チョイチョイ王太子の指輪が私の指に変に当たって痛い。地味に痛い。
もう~この方、皆にバレ無い様に痛めつけるテクニックがスゴイわ……。
しかも、私が我慢出来るギリギリの所を狙ってらっしゃるわよね?
私も公の場なので、痛い顔など出来ないけれど痛みの度に一瞬だけ目をピクリと動かしてしまいます。
そんな私を見て、天使の様に優しい笑みで私を見つめる王太子……。
完全なるドS……。
そして、ダンスの終わりに私の手の甲にキスをする時……この方、今までで一番痛く私の手を握ったのです。
体勢的に少しうつむき加減になっていた私は、一瞬ですが目を強くつぶってしまいました。
目を開けると、上目使いで私を見ていた彼と目が合いました。それはそれは楽しそうに笑っていましたよ。
そんな私達の様子に、当然ですが皆気づいていません。
だって、気づかれないタイミングを王太子は狙っていたのですから。
公の場だからこそ、彼は王太子らしく、私も王女らしくしなければいけないこのシチュエーションを巧みに利用されていますわ……。
彼と結婚したら、こんな事が日常になるのでしょう。
……絶対にイヤーーー!!
「踊って下さいますか?」
王太子とのダンスが終わるとすぐ陛下が誘ってくださいました。
「ええ、もちろんですわ」
ジンジンと痛む手を休ませる暇もありませんが、断るなんて言語道断です。そんな事をしたら、自動的にドS王太子が私の婚約者になってしまいますもの。
王太子がそこまで計算していたらモノスゴク怖いですけれど……。
偉丈夫な陛下のリードは安定していて、安心して身を任せられました。
「……っ」
陛下は優しく手を握って下さっていたのですが、たまたま一番痛い場所に当たってしまいました。
「痛いのか?」
陛下が聞いて下さいます。
「……申し訳ありません、少し痛めてしまって」
「そうか」
陛下が言ったと同時に痛みが引きます。
「……えっ、陛下……もしや治して下さいましたの?」
「ああ。他に痛む所は?」
「いえ、ありませんわ。ありがとうございます」
「そうか」
……やっぱり、陛下は優しい。
王太子は皆に気づかれないように私に痛みを与えたけれど、陛下は皆に気づかれないように癒してくれた。
でも……未知のドSだとしたら、この優しさとの落差が怖いわ……。
そして、曲が終わりました。
陛下も私の手の甲に口付けて下さいます。
でも、手を離しては下さいません。
「陛下?」
「離したくない」
真摯な目で仰る陛下。
あら……ヤダ……顔が赤くなってしまうわ。
「テラスに行こう」
「……はい」
ドキドキしながら私は陛下と一緒にテラスに行く。
私の手を引く陛下の手は優しい。
王太子と違って私に痛みなんて彼は与えない。
「姫を一生守る。結婚してくれ」
テラスに着くなり、陛下は真剣な顔で私にプロポーズしてくれました。
その言葉には嘘が無い様に見えました。
でも……。
「国王陛下、抜け駆けは酷いのではありませんか?」
そんな私達の前に、一番下の兄と一緒にドS王太子がやって来たのです。
「それに、姫も困ってらっしゃるじゃありませんか」
困っていると言うか……迷っていると言うか……。
陛下が未知のドSだったら…って思ってるなんて言えないくて困ってますけれど。
「踊っているお二人を見ていましたが、姫は私の時は笑顔で踊っていましたが、陛下と踊っている時は一瞬脅えたような表情をしていました。そう見えませんでしたか?」
ドS王太子は隣にいた私の兄に聞いたのです。
「……確かに、王太子とは普通に踊っている様に見えましたが、陛下と踊っている時は一瞬でしたが妹の表情が暗かったように見えましたが……」
ヤダー、お兄様と一緒になって陛下を責めているわ。しかも、王太子が私の指を痛めつけたのが原因だと言うのに。やっぱり怖いわ、この方。
「こんな事を言うのは心苦しいのですが、国力を盾に姫へ強引に迫ったのでは?と、思ってしまいました」
困ったような笑顔で言う王太子がモノスゴク怖いんですけれど。
神妙な顔をしているお兄様。
完全にドS王太子の言葉を信じていそう。
ヤダー、私の身内を味方にされたら、ますます私の逃げ場が無くなるわ!!
「実は、私は指を痛めていたんですの。王太子殿下は気づいて下さいませんでしたが、陛下は気づいて治癒魔法で治してくれたのです」
私はドS王太子を牽制する為に、思いっきり笑顔で言いました。
「私、小さい時から強くて優しい殿方と結婚したいと思っておりましたの。恐れ多い事ですが陛下が理想の相手だと思いましたわ」
私も両国の平穏の為に(主に王太子の評判の為です)指が痛む原因を言ってないのですから、王太子も少しは私と三国の事を考えて引いて下さらないかしら……。
「……もしや、姫。そう言う風に言えと命令されたのですか……?」
何か泣きそうな顔で王太子が言ってるわ……スゴイわ。完全無欠の演技派ドSね。
私の気遣いを彼はきっと気づいているでしょうに…完全無視ですわ。
それどころか、私が貴方の行為で指を痛めた事実を一番知っているのに、正直に言えない事を良い事に、その指を治してくれた陛下を悪の権化みたいに仰るなんて……。
お兄様ーー!! 貴方もハッとしたような顔をしないでーー!!
この方の言ってる事を信じないでーー!!
「姫に命令などしない」
低い声で陛下が仰った。でも、怒っている訳では無さそう。
「先程の言葉は本当か?」
陛下は私の顔を見つめて言う。
先程の言葉……何でしたかしら?
「私が姫の理想の相手なのか?」
ああ、そうでした。そう言ったのですわね。
うーん、ドS演技派王太子はもう最強過ぎて無理だわ。
ここは、一か八か未知のドS陛下に賭けよう。
「……はい」
「そうか」
そう言うと、陛下は私を抱きしめ……何と、熱烈に口付けしてきました。
ちょ……プロポーズされ口付けされる。
そう考えるとロマンティックですけれど、王太子と実の兄の前って……どんな感情と表情で受け止めたらいいのですか? 私には分かりません!!初めてなので!!
唇が離れると、もう一度陛下は私を強く抱きしめました。
「王太子、王子。貴方達も聞いただろう。姫は確かに私を選んだ」
流石、軍事大国のカリスマ国王陛下。
空気も読まず、実力行使で簡潔にこの場を治めたわ。
そう感心していると、陛下は私の腰を掴んで賑やかな宴の席に戻ります。
そして、私の両親である王と王妃の前に連れて行くのでした。
「本日はご招待いただき有難き幸せです。そして、何より素晴らしい幸運に恵まれました。王女殿下が私を理想の相手だと、隣国の王太子殿下と兄である王子殿下の前で仰った。どうか、私と王女殿下の婚姻を認めて頂きたい」
大声で言っている訳では無いのに、陛下の低く素敵な声は思った以上に宴の場に響きました。
「おおーーっ」と、感嘆の声が聞こえます。
そして、両親である王と王妃はとても素晴らしい笑顔をしています。
娘の私からみても、王と王妃の顔の時の両親の本心は良く分かりませんが、賛成していると言う態度を示して下さってるみたいです。
「そうでしたか。王女は私達のたった一人の大切な姫です。その姫が国王陛下に見初めて貰い、本人も望んでいるのであれば反対する理由などございません。皆、聞いて欲しい。我が国の宝である王女と、既に名君と名高い若き国王陛下が婚約する運びとなった。両国の繁栄を祝って!!」
お父様である王は、持っていたグラスを掲げました。
そして、それに周りの皆は歓声と共にグラスを掲げます。
電光石火の陛下の行動で、きっと私達の結婚は決定事項になるでしょう。
陛下の未知のドSが分からないまま……。
そして、ドS王太子がどんな思いで私達を見つめていたか気づかぬまま……。