姫の悩み
イチャイチャ回になります♪
困ったわ。
結婚式も初夜も終わりました。
私の最大の悩みである一目惚れも陛下にお話し、陛下は私を守ってくれると誓って下さいました。
きっと陛下は、それを守ってくれるでしょう。
本来なら私は、陛下に守られて愛されて幸せ一杯な新婚生活のはずなのに……。
はぁ。
結婚式から1ヵ月が経ちました。いつもより早く目覚めた私は陛下の寝顔を見つめ思いました。
(……陛下の気持ちが分かってしまったわ)
この国に来て2日目の朝、私の寝顔をずっと見ていた陛下が言っていたように、とても幸せな時間を過ごして気づきます。
(あの日は「大丈夫ですか色々と」なんて思ってしまったけれど……愛しい人の寝顔って、こんなにも幸せに感じるのね)
陛下の寝顔は普段より幼く見えて、それでいて陛下の端正な顔立ちが良く分かります。
陛下の目はキリッとして目力が有り過ぎて無表情だと威圧感がモノスゴイのですが、私だけに向けてくれる優しいお顔の時や、今のように目を閉じている時はとてもとても素敵なのです。
ただでさえ愛しい人の寝顔なのに、私しか見れない特別な陛下の顔に胸がトキメイテしまいます。
だからこそ、私は困っています。
何に?
それは、もはや恒例になってしまっている朝の口付けです。
(夜なら良いのだけれど……)
朝は、もうダメだと思うのです。
結婚式までは恥ずかしいという思いが強かったけれど……今は……。
「……んっ。……姫、おはよう」
陛下が目覚めました。
気怠げですが、優しく仰って下さいます。
「……姫」
愛おしさを隠さず私を呼び、頬に手を添え口付けをされてしまいます。
「……ん……陛下っ。ダメです……」
いつものように口付けをたくさん受けていた私は何とか陛下を制します。
「陛下っ…これ以上はっ……」
私は息を乱しながら言いました。
「姫。本当に駄目か?」
陛下の悲しげな眼差しに無言になってしまいます。そんな私をしばらく見つめた後、深い口付けをされてしまいました。
本当にダメなのに……言えなかった。
前は確かに大丈夫でした。
でも、今はダメなのです。
「……んっ……あっ……」
だって今は口付けだけでは終わらないのです。
「姫っ……駄目と言わないのか?」
少しだけ荒い陛下の息。
言葉とは裏腹な目で私を求める陛下。
「次に駄目と言われたら止める」
そう言って唇以外に口付けます。
チュチュっと大事そうに私の頬に手を添えながら。
「……姫。愛している。愛したい……姫を……」
口付けの合間に甘く囁く陛下。
私だって愛して欲しい……けれど。
ダメなのです。
陛下が私の耳にチュと口付けます。
「……んっ…ヘ、陛下ぁ」
ヤダ。
自分でも驚くほど甘ったるい声がでてしまいました。
これじゃ肯定してるみたいだわ。
「姫っ……私の愛しい、可愛い姫……」
陛下の唇は首元に移動してしまいました。
ダメって言わなきゃ。
今ならまだ大丈夫。
言ったらきっと陛下は止めて下さる。
「あっ。ヘ、陛下っ」
ヤダ、言えない。
「姫……」
このままじゃ、いつも通り愛されてしまう。
今日からは断ろうと決めたのだから。
「……ダ……んっ」
「……姫?」
陛下は動きを止めました。
そして心配そうに私を見つめます。
優しい陛下は「ダ」だけで私を気遣ってくれます。
……ヤダ、もう。
そんな陛下が愛し過ぎます。
やっぱり愛して欲しいと思ってしまいます。
本当にダメだわ。
「陛下……して?」
ああ、やっぱりダメだったわ。
陛下の優しさを見てしまうと陛下への想いも情熱も溢れてしまう。
「姫、いいのか?」
「はい。たくさん愛して……」
いっその事、そうして下さい。
だって、私の心も体も陛下を求めてしまっているのだもの。なら……。
「はぁ……もっと……してっ……」
無駄になった抵抗を止め、陛下に愛して欲しいとねだってしまいます。
陛下は私の望み以上に、たくさん愛してくれました。
とても甘く素敵で愛しい時間でした。
いつも通り朝の支度前に終わりましたし……。
でも、だからダメなのです。
陛下はメイドが来ると素早く切り替えていますが、私は……。
もちろん努めて平常心を保っていますが、愛された余韻を2時間くらい引きずってしまうのです。
結婚式が終わって1ヵ月。
私の陛下への想いは溢れに溢れて大洪水です。
……陛下も多分そうです。
今も王妃としての勉強があります。
王家の細かい歴史や、戦争時や災害等の政策や対策。
とても真面目な授業です。
なのに。
赤面しそうになったりするのです。
もちろん、歴史や政策や対策にではありません。
数時間前の陛下の艶っぽく、逞しい愛し方を思い出して。
それを王妃スキルで誤魔化してはいるのですが……。
精神的に疲れてしまいます。
陛下に情熱的に朝も夜も愛されるのは平気です。
それより、陛下に愛された余韻を忘れる事。
表情に出さない事、これが難しく大変なのです。
朝に愛されてしまうと。
記憶も感触も鮮度が高過ぎます。
お休みの日なら良いのに……。
一日中、誰にも会わず陛下に愛されたい。
陛下だけを見つめて、陛下だけに見つめられて愛されて愛したい。
……はぁ。
ここに来たばかりの時とは全然違うわ。
何てハシタナイ……。
陛下だって初夜の後に仰ったのに。
『周りにもそう思って貰えるように王と王妃らしく過ごさねば』と。
陛下は仰った通り名君の名に恥じない毎日を過ごされているのに。
でも、私は。
今の所はどうにか出来ているけれど……。
近い将来、無理になりそう。
初夜の日、Sっぽいと思うほど私の体を気遣ってくれた陛下。
そんな誠実な陛下の問いに誠実に答えていたら……。
日に日に陛下の愛し方は……。
そして私の体も……。
はぁ。
陛下と二人だけの世界に引きこもってしまいたい。
浅はかで無責任な考えが脳裏をよぎります。
私の愚かな想いが知られたら、名君と呼ばれる陛下の王妃に相応しくないと思われてしまう。
それは絶対に嫌です。
だから、私は決めたのです。
朝は陛下に愛されない様に陛下を止めようと。
でも、失敗してしまいました。
……だって、陛下がお優しくて。
とても優しく愛情深く私に接して下さるから……。
____違うわ。陛下のせいじゃない。
陛下は「ダメ」と言ったら止めて下さるわ。
今朝だってそうだった。
それが充分に分かっているのに言えない私がダメなのだわ。
……いつの間に私はこんなにダメになってしまったの? どうして?
あっ。
陛下にとって私は「初恋の君」だけれど、私にとっても陛下は「初恋の君」
いつかメイド長が言ったわ。
「初恋というのは特別で忘れられない物なのです」
「それは叶わない事の方が多いからかもしれませんね」って。
そんな特別な「初恋の君」同士が結婚したら?
暴走して破滅に向かうのでしょうか?
私の不安はピークに達したのです。
一応、王妃スキルで一日を乗り切りました。
陛下と一緒にベットに入っています。
「姫? どうした?」
抱きしめる手を緩め、陛下が心配そうに聞きます。
私は精神的な疲労を隠せなかったようです。
「いえ。大丈夫ですわ、何もありません」
誤魔化さなくては。
だって、本当のことを言ったら陛下は私を軽蔑するかもしれません。
こんな私を「天使」なんて仰ってくれた陛下です。
きっと、ガッカリされてしまうわ。
陛下は私の頬に手を当ててジッと見つめます。
「大丈夫ではないだろう? 姫、我慢をするな。何度言ったら分かってくれる? 姫が我慢をすると私も傷つくと」
陛下は怒った口調ではなく、幼子に言い聞かせるような口調です。
こんな時でも陛下はとても優しい。
陛下は私をよく分かっているわ、誤魔化す事なんて出来ないのね。
嘘をついてもつかなくても陛下を落胆させてしまう。
どうしたら……。
「……陛下」
ヤダ、涙声になるわ。
陛下はこんなにも素晴らしい方なのに私は……。
「姫。私のせいか? 朝、姫は駄目だと言おうとしたのだろう?」
陛下は申し訳なさそうに言います。
「すまない。姫を求め過ぎたか?」
「……そうでは無いのです」
陛下に求められるのは嬉しいのです。
それは誤解しないで、陛下。
「ごめんなさい、陛下。私自身の問題なのです」
「本当にそうか? ……姫。私の愛は姫の体には負担が大きいのではないか?」
「それはあり得ません」
「ならば朝の駄目はどういう意味なのだ?」
陛下は私が体の不調を感じているのに、我慢して愛を受け入れていると思っているのね。
「……陛下。陛下に愛されて体に負担などありません。……その証拠に自分で言うのもアレですが。えっと、メイド達は……あの……陛下に愛されて姫様は……日々ツヤツヤとして美しくなったと……その……言われていますし……」
本当に自分で言うべき話では無いわ。
とても恥ずかしい。
でも、優しい陛下には勘違いされたくないのです。
陛下の愛が体の負担になるだなんて。
「……確かに……」
羞恥で熱を帯びた私の頬。それを撫でながら陛下は納得してくれました。
嬉しいけれど。
……それはそれで、さらに恥ずかしいわ。
「ならば姫は何が駄目なのだ?」
もう、言うしかないわね。
「……正直に言います。私……朝に愛されてしまうと……数時間……陛下の事ばかり考えてしまって……。しかも、日に日にその時間が長くなってしまうのです。ごめんなさい、陛下。ダメなのは私なのです」
何て情けない告白なのかしら。
泣きそう。
「……姫。それは愛の告白なのか?」
「えっ?」
「ふっ、無自覚か。姫は本当に自分の駄目な所を見過ぎるな。私にとっては駄目では全く無いのに……」
あら?
正確に伝わってないのかしら?
「告白は告白でも王妃らしく出来ないと言う告白ですわ」
「私が愛し過ぎてか?」
「……」
「違うのか?」
「……」
「姫は私が愛し過ぎて、朝に愛されると私の事ばかり考えるのだろう?」
「……はい」
「それが駄目なのか?」
「はい。だって、このままでは王妃らしく出来ません。陛下に相応しくない王妃になってしまいます」
私は必死に訴えるのですが。
「そうか。そこまで愛してくれているのか……姫は」
陛下はとても嬉しそうです。
ええっ……私は真剣に悩んでいるのに……。
ちゃんと聞いてます?
「……陛下」
「私の朝の愛は姫の体の負担にはならないが、姫の心に負担をかけているのだな?」
「……そうなりますね」
「そうか。ならば夜に愛せばいいのだろう? 朝の分も」
「……」
「簡単な話だ」
そう言うと、陛下は私に口付けます。
「姫……」
「……陛下……」
何でしょう。
いつものように…いえ、いつも以上に甘くて情熱的な空気になっています。
「姫と同じくらい私も姫を愛している」
「……でも、陛下はいつも王らしくされています」
「5年前から私は姫を想うと頑張れたからな。姫は私の原動力だ」
「……本来なら私も…そうであるべきなのに」
「あまり愛しい事を言うな。今夜こそ姫の体に負担がかかるかもしれない」
「……陛下は私に甘過ぎです」
「嫌か?」
「……いえ」
「本当に姫は可愛いな。もっと甘やかしたい。心も体も私無しでは生きられないくらい」
「……もう、そうなっていますわ」
「やはり姫は、天使の様で悪魔の様だな」
「……陛下……」
「天使でも悪魔でも姫は愛しい妻だ。永遠に……」
「あっ……」
「どうして欲しい?」
明日の朝は愛されないのよね。
なら……やっぱり。
「……たくさん……愛して……」
「仰せの通りに」
陛下は一度目は情熱的に、二度目はゆっくり、三度目は……私が陛下を求めてしまいました。
充分に愛し合って眠りにつきました。
チュンチュン。
朝だわ。
「姫。おはよう」
陛下は爽やかな笑顔で仰います。
昨夜はあんなに愛し合ったけれど、陛下はツヤツヤしています。
……きっと私もそうなのでしょう。
「おはようございます。陛下」
微笑んでそう言うと、陛下が口付けようとしました。
私は慌てて顔の前に両手を出しました。
陛下は私の掌に口付けをしてしまいます。
「陛下……ごめんなさい。ダメです」
「……口付けも駄目なのか?」
「はい」
「……そうか」
何となく陛下はしょんぼりして見えて、ちょっと切なくなってしまいました。
でも、最近の口付けはとても進化してしまったので。
「姫。抱きしめるだけならいいか?」
「はい。それなら」
そう言うと陛下は私を抱きしめ頭を撫でます。
この国に初めて来た夜を思い出します。
清らかだった日々を懐かしいと思ってしまいました。
「……結婚式の前日までを思い出すな」
陛下も私と同じ思いだったみたいです。
「そうですわね」
「あの日は、それが終わるのが惜しいように思えたが……」
「そうなのですか。では、良かったですね。これから朝はあの日までの日々と同じですわ」
「……」
陛下は何も仰らず、優しく髪を撫でてくれました。
その日は一日、お妃教育も全ての政務も集中して出来ました。
私の悩みは解消されたのです。
そんな日々を過ごしていると、今度は陛下の様子がおかしいのです。
夜にベットに入り、私は陛下に聞きます。
「陛下? 最近、お元気が無いような?」
「そうか」
「陛下。私が力になれる事なら仰って下さい」
「……だが」
「夫婦なのですから、お互い支え合うべきですわ」
「……」
「陛下。お願いします、私を愛しい妻だと思うなら正直に言って下さい」
私は強く陛下に言いました。陛下も諦めた様に口を開きます。
「では……正直に言う。朝の姫が足りない」
「えっ?」
「夜に姫を愛しても、朝も愛したくなる。抱きしめるだけでは足りない」
「……そうだったのですか」
確かに、私しか力になれない事だけど……。
私は朝の清らかな抱擁で満足していたけれど……。
「やはり、姫を愛することは私の原動力になるらしい」
「……そうなのですね」
困ったわ。
朝は抱擁だけにして貰って一週間。
とても王妃らしく過ごせた毎日でしたけれど。
今度は陛下が……。
どうしましょう。
……体は愛されても平気だけれど。
「姫。やはり、朝に愛するのは心の負担になるか?」
「……まだ、そうかもしれません」
「そうか。なら、先程の事は忘れてくれ」
「そんな。忘れられませんわ」
陛下は私の気持ちを尊重して下さるのね。
でも、私だって陛下の気持ちを尊重して差し上げたい。
私さえ心を強く持てばいいだけの話だわ。
「……陛下。陛下も私をそこまで愛して下さっているのですね。妻として夫の愛を受け入れるのが正しいと思います、だから……」
「姫。そんな泣きそうな顔で言うな」
陛下は私が言い終わらない内に優しく微笑んで止めます。陛下に泣きそうな顔を見せてしまった。どうして私の心はこんなにも弱くてダメなの?
「……やはり、初恋は上手くいかないのでしょうか……」
ボソリと呟くように言ってしまいました。
「……姫?」
「……初恋は特別なのだそうです。……叶わない方が多いから……。でも、初恋同士の私達は叶ってしまいました。だから、お互いが愛し過ぎて上手くいかないのでは?」
ヤダ。
不安な気持ちが言葉を紡いでしまいました。
「姫。私は姫を守ると言った。だから、先程の事は戯言だと忘れてくれ」
「いえ。陛下に守られてばかりいては王妃として失格ですわ」
陛下にばかり甘えたり、陛下にだけ我慢をさせるなんて私だって嫌だわ。
少しの沈黙の後、陛下があっさりと言います。
「そうか。ならば一日置きにしようか」
「えっ?」
「姫の我慢は私が傷つく。逆もそうだろう。ならば、交互に我慢するのが一番良いだろう」
とてもシンプルですが、未熟で私さえ我慢出来ればと思いがちな私には思い付かない案でした。
「……なるほど」
「それでいいか?」
「はい」
「……良かった。姫を泣かせる所だった」
陛下はホッとした様に、優しい笑みで言います。
私は弱音と意地だけを主張したけれど、陛下は冷静に平等な解決策を素早く提示してくれました。
本当に陛下は世界一の夫です。
「陛下、大好き。貴方が世界で一番好き。貴方は私の特別で唯一です」
「私もだ。……初恋は時に厄介なのかもしれないが、私達なら乗り越えられる」
「陛下はいつも私を守ってくださいますね」
「姫だってそうだ。愛している姫……」
「だったら良いのですが……んっ」
情熱的で甘く夜が始まってしまいました。
どちらが求めたのかも回数すらわからない程、溶け合うような愛し方をしてしまいました。
そして、朝。
「陛下、おはようございます」
「おはよう、姫」
そう言うと、陛下は熱烈な口付けをして私を愛します。それを私は受け入れます。
そして次の日の朝は、優しく私を抱きしめてくれます。陛下の眼差しはとても穏やかです。
一方だけが我慢して守られるだけじゃない新婚生活が始まりました。
そして、お互いに王と王妃らしく過ごしています。
それは時に厳しく、甘く、切なく、忍耐も必要です。
だけれど、以前よりずっと夫婦らしく王と王妃らしくなっています。
色々な困難を乗り越えた私達は今、とても幸せなのです。
ブックマーク評価をありがとうございます♪
陛下目線も書きたいです。
新連載も書いているので長い目でお待ち下さいませ。




