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陛下の気持ち 3

申し訳ありません、完結しませんでした……。

「陛下~。宰相と俺が教えた事、忘れちゃったんですか?」


2歳年上の幼馴染は、からかう様に言った。


「いや、言われた通りにしようとした。だが、出来なかった。申し訳ない」


「やっぱり、姫への5年分の想いが溢れちゃいましたか?」


相変わらず、幼馴染の隊長は冷やかすように言う。


「ある意味そうかもしれない……だから姫の「王女としての笑み」に、あんなに動揺したのだろう」


「うーん。つまり、こうですか? 陛下の5年分の想いと姫の想いの差に「王女としての笑み」で、気づいてしまった。想いと現実の差に打ちのめされた陛下は俺達が教えた事…まぁ、演技が出来なくなってしまった……って、感じですか?」


幼馴染の彼は私の短い言葉で全てを理解してくれた。


「すまない。簡単だと大丈夫だと言ったのに不甲斐ない結果になった」


豪奢な客室には私と幼馴染しかいない。

彼は遠慮なく私に言い、私は彼に素直に謝った。


「それだけじゃないですよね? いや~焦りましたよ、陛下」


姫に口付けようとした事だろう。

止めてくれたのは彼だ。

文句を言われるのは仕方がない。


「申し訳なかった」


「姫への想いは尊敬の気持ちだって言ってませんでしたっけ?」


「本当にすまない。……今日、落ちてしまったらしい」


「ほう? 恋にですか?」


「ああ」


「へー。今日から姫は本当に陛下の「初恋の君」になってしまったんですか~」


幼馴染は腕を組み、何度も頷きながら大仰(おおぎょう)に言った。

最初から姫を「初恋の君」と、言っていた彼だ。何を今更と思っているのかもしれない。


「姫の「王女としての笑み」に狼狽えた後…姫は想い出のままの微笑みで「優しい」と、言った……教えられた演技など出来なかった私に」


私の弱さを知っている幼馴染に正直に言う。


「なるほど、だから恋に落ちたと。陛下は姫は他の王女と違うとずっと言ってましたが……。いつもの陛下を「優しい」と「思い出のままの微笑み」で言ったんですか。確かに他の王女や令嬢とは違いますね。どういう話の流れでそう言ってくれたんです?」


私は経緯を話した。


「うはー、姫はスゴイですね。姫も王女らしく演じてる所は当然あるんでしょう。だから、分かるんですかね? 陛下が王らしくしても陛下の本当の心根を。これは、こちらとしても「嬉しい意外さ」ですね」


「嬉しい意外さ?」


幼馴染は姫と同じ言葉を使った。


「姫は、人の本質を見抜ける方だという事です。だからでしょうね、姫は一度も陛下に怯えた様子はなかったですし。しかも、陛下の()()()な行動にさえも怖がってませんでした。むしろ、頬を染めてましたよね~。恋する乙女っぽく見えたんですけど」


「確かに、姫の頬は赤かったが……」


私を見る姫の目は、好意に満ちて見えた。

第三者の彼から見てもそうだったのだろうか。


「あの状況で頬を染めるのは演技じゃ無理でしょう。姫は、陛下に好意を持ってると思いますよ。ただ、それなのに……何でですかね? 陛下が『初恋の君に会えて浮かれていた』って言ったら、ちょっとテンションが下がってたような。好意がある相手からなら嬉しいと思ってくれそうなのに」


これも、私とほぼ同じ意見か……。


「やはり、宰相の言うように私の5年の想いを邪推されたのだろうか……」


「うーん。その理由だと俺はしっくりこないんですよ~。宰相みたいに思う人の方が少ないんじゃないですか~。宰相は、先王や父親の前宰相から陛下と国を守れと厳しく言われ託されてますから、少しのリスクも過剰に心配してるんだと思うんですよ。それに、現在の姫は可憐で華奢ですけど、めちゃくちゃ幼く見えたりはしないですし。普通の男でも姫を欲しがると思うんですよね~。だからこそ、姫自身が邪推するって可能性は低いと思うんですよ」


確かに、姫は可憐で華奢だ。

と同時に、王女としての気品に溢れている。

立ち居振る舞いも完璧な姫は殊更(ことさら)幼く見えはしない。

容姿は17歳らしい美しい少女だが、年齢以上の品格があり結婚相手として充分魅力的だ。それは自他共に認めるところだろう。


「だとしても、とっさに「初恋の君」と、言ってしまったのは最大の失敗だったな」


何にせよ、姫は「初恋の君」という言葉に最も悪い反応をしていた。

「5年前」という言葉にはそれほど反応は無かった。ならば、宰相の心配通りでは無い可能性が高いが。

姫にとって「初恋の君」は、何らかのコンプレックスやトラウマだったりしたのだろうか? やはり、言うべきではなかった。


「しょうがないですよ。恋すると誰もが信じられない言動をしたりします。初恋なら尚更です。でも、それ以外は普段の陛下で好感触でしたし。結果的に教えられた演技も嘘もつかなかったのが良かったかもしれません」


「そうだろうか」


「もう、宰相の作戦は忘れましょう。普段の陛下でも「優しい」と、分かってくれた姫です。しかも好意を持っているような態度もされている。なら、ワザとらしい演技の優しさや笑顔じゃなく、いつもの陛下で正直に素直な気持ちを姫に伝えて王太子に勝ちましょうよ」


「……そうだな。付け焼刃の演技や嘘は姫に看破されるだろう。我儘かもしれんが、負けるなら普段の私で負けたい」


「それでいいと思います。それで負けた方が、すっぱり諦められるでしょう?」


幼馴染の隊長は笑顔で言う。

本当は「負け」など決して考えてはいけない。

そんな私に彼の態度は有り難かった。


「……すまない。皆の教えと想いを無駄にしてしまうかもしれない」


「それより、自分の5年の想いを無駄にしない事を考えて下さい。だって、最初で最後ですよ。国や国民や部下より陛下自身の想いを優先出来るのは」


2歳年上の幼馴染は兄の顔で笑った。

彼も私も分かっている。

王妃は必要だ。これは変わらない事実。

だから、これが最初で最後なのだ。


私の想いを優先させて姫を求められるのは。


姫が私を選ばなければ、次は私の想いは関係ない。

国家の為に別の王妃が選ばれ、今度はそれを私は拒否出来ない。


何故か姫の姿が目に浮かぶ。


どうしてだろう、苦しい。

とても、胸が苦しい。


辛い時、苦しい時は、いつも姫を想い出し乗り越えてきたのに。

今、姫を想うと辛く苦しいとは。


「……初恋というのは厄介だな」


「そうですよ~。言ったでしょ? 初恋は男にとって大きいモノだって。しかも叶えるのも諦めるのも難しい……だから厄介なんです。陛下はタダでさえ大きなモノを背負ってます。これ以上、重荷を背負わないように頑張って下さい。俺も出来るフォローはしますから」


彼は私の背中を強めに叩いて言った。


「そうだな。ありがとう」


……今日は絶対に失敗など許されない日だった。


だが、私は失敗した。

そんな私に幼馴染はいつもの軽口と笑顔で励まし、勝っても負けても後悔しない方法を教えてくれた。


良い意味で彼にとって私は、王である前に2歳年下の幼馴染なのだろう。

彼の優しさと言葉と想いを噛みしめる。


覚悟は決まった。


私に怯えず内面を見てくれた姫。

頬を染めてくれた姫。


姫のおかげで王らしく名君と呼ばれるまでになった私だ。その私のまま、想いのままを姫に見せよう。




____宴が始まった



私は敢えて姫も王太子も見ないようにした。

自分の中の姫への想いに向き合い平常心を保つ為に。


「陛下、王太子と姫の踊りが終わりましたよ」


幼馴染が言う。


「行ってくる」


「頑張って下さい」


幼馴染の近衛隊長の応援をあとにして姫に向かう。


「踊って下さいますか?」


姫に声をかける。

先程より一層美しい姫。

今回は狼狽えずに、心のままに動こう。


「ええ、もちろんですわ」


姫は笑顔で言ったが、少し硬いように見えた。

疲れているのだろうか?


なるべく、姫に負担が無いように踊ろう。


「……っ」


姫は自分の右手を見て、一瞬顔をしかめ小さな声を出した。


「痛いのか?」


そういえば、姫の右手は左手より熱いように感じる。

怪我をしていたのか?

姫は隠せなかったことを恥じるように言う。


「……申し訳ありません、少し痛めてしまって」


「そうか」


私はすぐに治癒魔法を使った。


「……えっ、陛下……もしや治して下さいましたの?」


姫は驚いた後、私を見つめた。


「ああ。他に痛む所は?」


魔法の感覚的に相当痛みがあったようだ。

他にも痛む場所があるかもしれない。


「いえ、ありませんわ。ありがとうございます」


姫は本当に嬉しそうに笑った。


「そうか」


姫はやはり、心優しいだけじゃない。

手が痛んでいても気づかれないように我慢して……。

私に気づかれた事を恥じるなんて。


姫はすぐに「王女としての笑み」に戻ったが、今回はそれが姫の健気さに見えた。

昔も今も姫は王女として真の気高さを忘れない。

ダンスも今まで踊った誰よりも優雅で美しい。

姫も5年間、ずっと努力をしてきたのだな。


そんな姫の全てが愛おしい。


姫……貴女の隣に側に居たい。

誰よりも貴女の近くに……。

このまま、永遠に曲が終わらなければいいのに。


だが、無情にも曲は終わる。

姫の手の甲に口付けた。


「陛下?」


「離したくない」


姫に私の想いを正直に伝えた。

私の想いが伝わったのか姫は頬を染める。


「テラスに行こう」


自然と言えていた。


「……はい」


姫の手から、また熱を感じた。

この熱は、痛みでも演技でもないだろう。

期待してもいいだろうか……。

姫の熱に勇気を貰う。


私は5年分の想いを込めて言った。


「姫を一生守る。結婚してくれ」


テラスに着き、私は姫に一世一代のプロポーズをした。


「国王陛下、抜け駆けは酷いのではありませんか?」


姫が答える前に、王太子と姫の兄上がテラスにやってきた。


「それに、姫も困ってらっしゃるじゃありませんか」


困っているというより、一生の問題だ。熟考してるだけに見えるが。


「踊っているお二人を見ていましたが、姫は私の時は笑顔で踊っていましたが、陛下と踊っている時は一瞬脅えたような表情をしていました。そう見えませんでしたか?」


「……確かに、王太子とは普通に踊っている様に見えましたが、陛下と踊っている時は一瞬でしたが妹の表情が暗かったように見えましたが……」


王太子が言って姫の兄上が答える。

姫は王太子には指の痛みは隠せたのだな。

姫の兄上も知らないのだろう。

ならば脅えや暗い表情に見えてしまうか。


「こんな事を言うのは心苦しいのですが、国力を盾に姫へ強引に迫ったのでは?と、思ってしまいました」


……何を言っているのだ?


それが許されるなら初めからしている。

王太子は3か国の決め事を知らないのか?

3か国の友好を何だと思っているのか? 

優秀と評判のはずだが愚かな問いをする。


「実は、私は指を痛めていたんですの。王太子殿下は気づいて下さいませんでしたが、陛下は気づいて治癒魔法で治してくれたのです」


王太子に呆れていたら、姫が笑顔で王太子に言う。

その笑顔は牽制のようにも見えた。

姫は3か国の一番避けたい事態を理解している。

だから「王女としての笑み」で、強く否定してくれるのだな。

姫に感心していた、その時だ。


「私、小さい時から強くて優しい殿方と結婚したいと思っておりましたの。恐れ多い事ですが陛下が理想の相手だと思いましたわ」


姫が『陛下が理想の相手だ』と、言ったのだ……。


「……もしや、姫。そう言う風に言えと命令されたのですか……?」


「姫に命令などしない」


出来るはずがない。

この王太子と姫の兄上は何も分かっていないな。

だが、そんな事はどうでもいい。

今は姫が言った大事な言葉を確認すべきだ。


「先程の言葉は本当か?」


姫、答えてくれ。


「私が姫の理想の相手なのか?」


姫の一瞬の間に耐えられず、もう一度聞く。


「……はい」


!! ……姫!!


「そうか」


私は姫を抱きしめ、気づけば口付けていた。

……姫……姫!!


これは現実だろうか? 唇を離し、もう一度姫を強く抱きしめ確認する。

姫の温もり、姫のやわらかさ、芳しい香り。

そうだ、これは夢じゃない。


「王太子、王子。貴方達も聞いただろう。姫は確かに私を選んだ」


姫は私を選んでくれた。

早く姫の父母である国王と王妃に報告し、この夢のような現実を確定させたい。


「本日はご招待いただき有難き幸せです。そして、何より素晴らしい幸運に恵まれました。王女殿下が私を理想の相手だと、隣国の王太子殿下と兄である王子殿下の前で仰った。どうか、私と王女殿下の婚姻を認めて頂きたい」


「そうでしたか。王女は私達のたった一人の大切な姫です。その姫が国王陛下に見初めて貰い、本人も望んでいるのであれば反対する理由などございません。皆、聞いて欲しい。我が国の宝である王女と、既に名君と名高い若き国王陛下が婚約する運びとなった。両国の繁栄を祝って!!」


国王はそう言って、持っていたグラスを掲げた。

周りも歓声と共にグラスを掲げている。



私は、夢が現実になった幸福に酔いしれていた。

評価とブックマークありがとうございました♪

頑張ったのですが、どうしても完結が無理でした……。あと1話か2話で完結出来ると思います。

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