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陛下の気持ち 1

ブックマーク、評価をありがとうございます♪

今年も宜しくお願いします

私は、大国の王子として生まれた。

父王が高齢で最初で最後の息子だった私は厳格に育てられた。

若くして王になる運命の私は、侮られぬよう笑顔を見せず、言葉少なで正しい決断が素早く出来る統治者となる為に。


それは私とって、とても難しく重圧と苦痛があったが何とか応えてきた。


その結果、即位して間もなく名君と呼ばれる様になった。黒い髪と瞳、体躯にも恵まれた威圧的な容姿も一端を担っているだろう。それに不満はない。


ただ、一つだけ耐えられない事がある。



それは、私を小さい時から知る部下以外から畏怖の対象として見られる事だ。



名君と呼ばれながら私の評価は冷酷無比の独裁者の様な印象があるらしい。


その中でも女性達は顕著にその傾向が表れる。


まずメイドだ。子供の頃から使えているメイド以外は、私の前では過度に緊張しているように見えた。

些細なミスでも即解雇されると思っているらしい。


なので、基本的にメイドの手を借りず、借りるとしても幼少時から使えているメイドに限っていた。

その方が私としても気が楽だったからだ。


次に、宴で令嬢達と踊る時だが……。

彼女達の父親は私に見初められるように積極的に娘を差し出す。


だが、令嬢らしく隠してはいるが彼女達は私を恐れ怯えていた。

いかつい大きな身体、さらに髪も瞳も服装も真っ黒な上、無表情で必要以上の言葉は発しない。

そんな私に怯えるなという方が無理があるだろう。


幸いと言っていいのか、父王が最優先させたのは私が王として相応しくなる事だった。その前に婚約者を決めてしまうと、年若い私を傀儡(かいらい)にしようとしたり未来の王の義父として虎の威を借る狐になってしまう危険性があるからだ。


私自身も自分に怯える女性に好意を抱くのは難しく、厳しい教育で余裕もなかったので有り難かった。それに身分を隠して王位に就く二年前から各国に視察した経験も私にとって大きかった。


自分より身分が低い威圧感がある無愛想な男に各国の王女達は容赦なく本性と本音を出してくれた。

『私の護衛にしてあげましょうか? 光栄でしょう? おいくら?』『私を見ても無表情なんて……目がお悪いのかしら? 不愉快だわ』『…………(怯えた表情)』


私への値踏みと我儘な要求。気位が高い高飛車な態度。怯えを隠さない正直な表情。大国の王太子と言っていたら聞けない言葉と態度ばかりだった。


だからこそ彼女達の本性と私への正直な評価が良く分かった。


そんな中、私は姫に会った。

正確には姫を見かけたというべきなのだろうか。


薔薇が見事に咲き誇る王宮の庭。


『姫、申し訳ありません。私のせいで怪我をさせてしまって……』

『大丈夫よ。貴方の小さな綺麗な手が傷つかなくて良かったわ』


なんて優しい言葉と優しい笑みをするのだろう。

姫と呼ばれていたが、この国の王女か……変わった姫だ。

王女に対して偏見を持ってしまった私は正直そう思った。


そして、別の日の事だ。

優しいピアノの音が聞こえた。

何とも心が温かくなる音色だ。


誰が弾いているのだろう?

好奇心で音色の場所まで行き、開いていた扉をこっそりと覗いた。

昨日の姫だった。

なるほど、笑顔が優しい姫はピアノの音まで優しいのだな。


『姫!! 楽譜をちゃんと見ていたのですか? ここはもっと強く弾くべきでした!!』


姫の側にいた少年は、弾き終わった楽譜をバンバンと指して強く叱責した。

そこまで怒る事か? 

たかが、一か所の強弱の問題で。


『そうね、ごめんなさい……。次は気を付けるわ』

『失望させるのは一度だけにして下さいね』


涙声で姫は言うと、またピアノを弾き始めた。

それに対して少年は満足そうな笑顔をした。

涙はこぼしていないが…なんて健気な……。

本当に変わった姫だ。

他の王女なら言い訳や立腹をするところだろう。


こんな王女は初めて見た。


各国を視察して分かったが、私ほど厳しい教育を受けている王族はいなかった。

だが……。


こんなにも頑張っている素直で健気な姫もいたのだな。しかも、自分より若く華奢で儚げな少女が厳しい叱責にも耐えて。

昨日だって自分に怪我をさせた少年を優しく許していた。他人に優しく自分に厳しい努力家な姫は、見た目とは違って強い心を持っている。涙を我慢した姫は、王女としての真の気高さを持っていると感じた。


衝撃的な出会いだった。


その日から姫は、私の心の支えになった。


私は今まで以上に剣や勉強に取り組んだ。視察も積極的にした。辛い時、挫けそうな時は姫を思い出し乗り越えた。


きっと姫も頑張っている。

ならば、姫より年上で屈強な私も当然頑張れるはずだと。


そして、姫との出会いから二年後、とうとう父王との別れの日が来た。


『よく頑張ったな……お前を…誇りに…思う……お前は…私以上の…王に……なるだろう……』


私の頬を触り父王は言った。

初めて見た父の涙は、私への深い愛に溢れていた。


厳しいだけだった父。

しかし、それは父が出来る唯一の愛情表現だった。

父にとっても今日までの日々は忍耐と辛さがあったに違いない。


父との別れは私にとって悲しいだけではない、大切な物を与えられた日となった。


王となった私の日々は、ますます忙しく厳しいものだった。


そんな中、浮上したのは妃問題だった。

もはや私を傀儡にしようなどという者はいない。王には王妃が必要、当然の問題だった。


宰相が言った。


『先王は陛下が誰を選んでもパワーバランスが崩れぬ様にして下さいました。ある程度の身分の方なら陛下の好みで決めて下さって構いません』


父の愛情を感じた。

ならば…と、私は躊躇なく姫の名を出した。


『……陛下が王太子であれば問題ありませんが、陛下はもう王です。王女は確か14歳。王妃には若過ぎます』


『年齢だけか? 問題は?』


『まあ、そうですね。先王の時代から国政は安定しています。王女がせめて18歳くらいならば外交強化になり、とても良いお話と言えるでしょう。陛下は若年という不利を見事に克服しました。ですが、妖精と呼ばれ正真正銘の少女には無理でしょう。陛下の足枷になるだけでしょうね』


『ならば、時を待てばいい。数年で解決する』


『しかし、陛下。王妃がいない王など!!』


『たった数年だ。問題は無い。本来なら喪に服すべきだしな、今は王妃など要らない』


『先王は陛下の為に喪に服す必要はないと決めました。先王の思いはお分かりでしょう? 陛下を支えてくれる妻と世継ぎの子を早く与えたいという思いを。14歳の王女では世継ぎも陛下を支えるのも難しい』


『だから数年で解決する。それに姫はもう二年も前から私を支えてくれている。妃は姫が相応しい、それ以外の妃など必要ない』


宰相は口を開けて驚いていた。

宰相の言葉も父の思いも私は理解している。

そして、私が理解している事を宰相も分かっている。

それなのに私が頑に拒否した事、そこまで姫を求めた事に驚いているのだろう。


私が女性に興味が無いのは周知だ。なのにすぐに姫の名を出し、さらに二年も前から支えられている事実は青天の霹靂だったろう。


結局、宰相は父王の喪に服すとして一年は妃の問題を待ってくれた。


だが、二年目以降も妃には姫の名以外挙げなかった。

そして、即位して丸三年。

妃問題は深刻さを増した。


「陛下、そろそろ本当に王妃を決めていただきませんと。陛下が男色家ではないかと噂も立っています」


「そうか。では姫に求婚しよう。姫も17歳になられたはずだ」


私は宰相にそう言った。


「……それでも、まだお若いですがね。実は私共も独自に王女の身辺調査をしていたのです。本当に陛下がそこまで思いを寄せるに相応しい方かどうか。そこで、姫付きのメイドを解雇された人物を突き止めました。それが、キナ臭いのです」


「キナ臭い?」


「そのメイドは解雇されたのですが、王女の推薦状を頂いて辺境伯のメイドをしているのです。おかしいと思われませんか?」


「……」


「メイドが不祥事を犯したなら、王女が推薦状など書く訳がない。なのに、解雇されたというのは極秘ですが事実だそうです。解雇は極秘で辺境伯にも隠しているのですよ? 推薦状まで書いて。これは王女側に問題があり口封じ的にメイドは解雇されたと見るべきでは?」


「……」


「陛下……。陛下の王女への想いは幻想なのでは?」


……確かに解雇した者に推薦状など普通は書かない。

だが、あの姫が。

あれから5年。姫は変わってしまったのだろうか?


「本日、その解雇されたメイドを呼んでおります。陛下、目を覚まして下さい」


宰相は憐れむように私を見た。

私は姫を…過去を美化していたのだろうか?





「この度は国王陛下への拝謁、誠に恐悦至極に存じます」


この女が姫のメイドを解雇されたのか。

一見して、解雇されるようなメイドには見えないが……。

宰相が女に語り掛ける。


「今日は遠い場所までご苦労だった。今日、貴女をお呼びしたのは貴女が仕えていた王女について知りたかったからだ」


「我が(あるじ)からそう伺っております。(わたくし)にお答え出来る事ならば何でも……」


「では、まず初めに言おう。ここでの会話は私達3人だけの秘密だ。貴女が何を言っても外に漏れることはないし、貴女が正直に言うことで貴女に不利益は無いと保証しよう。だから、真実だけを言って貰いたい」


「……はい」


メイドは不思議そうに返事をした。


「私達の調べでは貴女は王女付きのメイドを解雇されたそうだが?」


「……はい、その通りです」


「解雇であるにも関わらず、どうして王女は推薦状を書いたのだ? 本当の解雇の理由を教えて貰いたい。改めて言うが貴女が言ったことは口外しない。安心して欲しい」


宰相がそう言うと、メイドは真っ青な顔をした。


「……恐れながら国王陛下は我が姫との縁談をお望みなのでは?」


「そうだ。だからこそ、真実を知りたい。貴女の身は確実に保証する、正直に言って欲しい。解雇の理由は貴女ではなく王女にあったのでは?」


「……何てこと……。姫様は、とてもお優しく、素晴らしいお方です。私が姫様に無礼を働いて解雇されて当然の事をしました」


「貴女に原因があって解雇されたと言うのか? おかしな話だ。そんなメイドに推薦状など書く訳がない」


宰相は厳しい表情と言葉で女に詰め寄る。


「……そう思うのは当然だと思います。そこが、姫様のお優しい所なのです。そもそも、解雇は姫様ではなくメイド長からでした。それを聞いた姫様はこう言って下さったのです。『確かに、この子のした事はメイドとしてあってはならないわ。でも、それ以外は優秀なメイドよ? 解雇は仕方がないと思うわ。でも、それを公にはしないで欲しいの。貴女を許すわ、だから同じ過ちはしないわね?』と、言って下さって」


メイドの目からは涙が溢れた。


「姫様は……とても……とても……お優しく、慈悲深い方なのです……」


メイドは真剣な目で私を見た。


「姫様は……こんな私の為に……推薦状を書いて下さいました。感謝しかありません……。ですから、姫様を誤解なさらないで……。姫様の慈悲を…恩を仇で返すような事は……絶対に……したくないのです……」


そう言うと、メイドは号泣しだした。

その涙に嘘は全く感じなかった。


宰相を見ると、困ったような顔をしていた。

彼の思惑とは真逆になったせいだろう。


「宰相。もういいだろう。私の想いは美化でも幻想でもなかった」


「しかし、陛下……」


「今日はご苦労だったな。姫は私と会った時と同じ、優しく思いやりがある方だと分かった。姫への失礼な疑念は晴れた、ありがとう」


私がそう言うと、メイドは涙でグジャグシャな顔を上げた。


「……ひ、姫様は……本当に……お、お優しく……全てが……う、美しい……っ……素晴ら……っ……」


もはや、会話が出来そうもない程、メイドは号泣していた。


「貴女の姫への気持ちは分かった。そこまで思われる姫の素晴らしさもだ。本当に今日はありがとう」


メイドは泣きながら首を何度も縦に振っていた。

姫について一番知りたかった事は充分過ぎるほど分かった。




「宰相。姫にもう問題は無い。姫に求婚する、いいな?」


例のメイドを落ち着かせ、丁重に辺境伯の元へ送った後、私は宰相に言った。


「……確かに、王女は容姿も教養も素晴らしい方と評判でしたし……。キナ臭いと思ったことは杞憂でしたが……」


「なんだ? 問題は無いだろう?」


「王女は王妃に相応しい方でした。陛下、問題は別になりました。求婚理由は()()()()()に一目惚れをしたにしましょう」


「何故だ? 5年前から姫に支えられていた事実を正直に言った方が私の想いを分かってもらえると思うが」


「ハッキリ言います。18歳の時点で老け顔だった陛下が、妖精と言われるほど可憐な12歳の少女にずっと執着していたと言うのは外聞が悪すぎます」


「そうだろうか……」


「そうなのです、残念ながら。王妃がいない理由が男色家も厄介ですが、少女愛好疑惑はそれ以上です。それに隣国の王太子も姫に求婚するとの情報もあります。正直、国の格はこちらが上ですが…それ以外は圧倒的に劣勢です。今はそれが最大の問題なのです。だからこそ、不利な情報をこちらから言うべきではありません」


「……そうは思わないが……」


「一般的にはそうなのです。王女が唯一、陛下が妃にしたい女性なのでしょう? 今、私達の利害は一致しています。陛下、女性は貴方に怯えます。ご自覚があるのなら私や部下を信じアドバイス通りにして下さい。王女に王妃になっていただく為です」


「……そうか」


宰相の言うことに自覚はある。

ならば頷くしかなかった。


しかも、隣国の王太子がライバルならば尚更だろう。


そして、姫との顔合わせが決まり宰相や部下に色々と教えられた。

皆、私の5年もの姫への想いと、国として王妃を迎えるという悲願を叶えようと必死だった。


圧倒的に劣勢な私に失敗は許されない。



だが、姫に再会した私は全ての教えを破ってしまう。

たぶん全3話くらいになります♪

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