第一話
短編にと思った所、長くなり連載にしました。
全5話の軽く読める物になっていると思います♪
私は、この国の王女として生まれました。
薄い金色のふわふわとした髪に白い肌。緑色の瞳はエメラルドのようと言われています。そんな私を皆は妖精の様な王女と言うのです。
それなりに大きな国で、それなりに教育され、それなりに愛されて大事にされてきました。自分の境遇に不満はありません。
でも、一つだけ耐えられない事があるのです。
それは、私に一目惚れする方は全員もれなくドSだということです。
代表的な3人をご紹介します。
まずは一人目。
私に一目惚れした宰相の息子です。彼の父曰く、赤ん坊の私を見て一目惚れをしたらしいのですが。
彼は少し年上の幼馴染という関係だとずっと思っていました。
宰相の息子だから王女の私に厳しく言うのだと。
でも、ある日気づいたのです。
私に厳しく接して、私が涙目になると笑顔になる彼がドSだと言う事に。
「姫、ダンスのお稽古ですが、中盤のステップのテンポがあってなかったですよ。お相手に怪我をして欲しいのですか?」
「姫、ピアノのお稽古は体調が悪くても毎日しなければ。30分でもいいので。そうじゃないとすぐに下手に戻りますよ。聞くに堪えない音楽は耳に毒、いや暴力ですよ?」
「姫、貴女の笑顔は作り笑いとすぐ分かってしまいます。もう少し王女らしい笑顔を勉強しなければ。この国の恥になってしまいますよ?」
等々。
最初は、純粋にアドバイスだと思って必死に聞いて改善しようとしました。
でも、やってもやっても彼だけはいつも私の欠点ばかりを指摘するのです。
そして、最終的にはこうなったのです。
「姫、ダンスというのは基本的には男性のリードに任せるのが淑女としての心得です。貴女の嫌味なほどの正確なダンスは女性としては失格です」
「姫、貴女のピアノは楽譜通り過ぎて何の感動も与えられません。いえ、むしろ寒々しい気持ちにさせます」
「姫、貴女の笑顔は完璧すぎて相手を馬鹿にしているように見えますよ? 分かっておられないのでしょうが……」
この時になってやっと分かりました。
彼はミスしても完璧でも文句を言う人間なんだと。
私は一時期、ノイローゼ状態になり彼の前だとミスばかりしてしまうようになったのです。すると、彼はそんな私を注意しつつ、本当に幸せそうに笑うのでした。
そして、ボソリと言ったのです。
「……ああ、楽しい……」
と。小さい声だったのですが、ハッキリと聞いてしまいました。
この日から、私は宰相の息子と距離を完全に置いたのです。
距離を置く理由は正直に言いました。完璧になっても彼だけが文句を言う。
それが恐怖となって彼の前では失敗ばかりしてしまうようになったと。
実際その通りなので、私付きのメイドと騎士から事実と知った父である王が彼と私を物理的に離してくれました。
一時期は婚約の噂まであったのですが……絶対にお断りです。と、父には申しました。
そして、二人目。
彼は年下の天才魔術師でした。
彼は歴代の魔術師よりも高い魔力を持って生まれた男爵家の息子だったのです。
三男だったこともあり、古い公爵家で跡取りの無い家に養子に行き、子供の頃から特別に王宮に出入りしていました。
彼と会ったのは王宮の庭だったと思います。
私が12歳で彼は9歳だったかと。
私の顔を見るなり、初対面の彼は私に向かって駆け出し飛びついて来ようとしました。当然ですが私の専属騎士が彼を止めたのです。
そうすると、彼は火がついたように泣いてしまいました。
彼は少女の様な容姿で、年齢より幼く見えました。なので、泣いている姿はそれはそれは可哀想で。騎士にこの子は例外的に警護の対象にはしないでくれと頼んだのでした。
それが、私の失敗だったのです。
彼は、それから何かと私に○○してくれ。と、頼んできました。
年下の彼を私は弟の様に思っていたので聞いてあげていたのです。
「姫、王宮の庭のお花が欲しいので摘んで下さいませんか?」
「姫、楓の木に鳥が巣を作りましたよ。見に行きませんか?」
「姫、新しい魔法を覚えたのです。披露してもいいですか?」
他愛もない物ばかりでした。
だけど、彼の望みを聞くと私はいつも怪我をするのです。
「姫、トゲが」
「姫、タンコブが」
「姫、火傷が」
彼は私が怪我をすると駆け寄り、治癒魔法で治してくれます。
最初は偶然だと思っていました。
しかし、段々私の怪我は重症化して、彼も「申し訳ありません、私がもっと注意をしていれば……ああ、お可哀想に……」と、言葉では言うのになかなか治療をしてくれません。
元々、彼と会う頻度は少なかったですし、怪我は本当に些細な物から徐々にエスカレートしていましたし治療は完璧にしてくれていました。でも流石に、三年目に私付きの騎士が忠告してくれたのです。
「姫、彼は貴女の苦痛を浮かべる顔を見て喜んでいると思われます」
最初は信じられなかった。だって、弟の様に私を慕ってきて可愛らしい容姿の彼がそんな邪悪な考えを持っているなんて。
なので、忠告後に私は痛みを我慢せず素直に言ったのです。
「とても痛いわ。すぐに治して欲しいの」
そう言うと、彼は長々と「可哀想に」「これは痛いはず」「早く治さないと」と、グズグズ言ってなかなか治してくれないではありませんか。
目をつぶって痛そうにして(実際痛いのですが)薄目で彼を見てみました。
なんと、彼はうっとりと笑っていたのです。
彼もドSでした。宰相の息子は精神的に痛めつけるタイプのSでしたが、この子は身体的に痛めつけたいSだったのです。
私は彼とも距離を置きました。
元々は、私が彼を警護対象外にしろと言ってしまいましたし、彼は公爵家の跡取りで伝説の大魔術師を超える才能の持ち主。騎士達も遠慮があったようでしたが王に進言してくれ距離を置く事が出来ました。
そして、三人目。
最後の一人は私のメイドに入ってきた子でした。
「今日から貴女が私のメイドになる子ね。宜しくお願いしますね」
そういって、メイドに顔を上げるように言ったのです。
緊張しながら顔を上げたメイドは、私の顔を見て驚いた表情をしました。そして、顔を赤らめました。
単純に王女の私に緊張しているのだと気にしていなかったのですが……。
彼女が来てから、やたらと私の部屋に虫がでるのです。王女育ち?の私は虫が苦手です。
「キャー!!」
と、私が叫ぶとメイドが駆け寄り、退治してくれました。
「姫様、大丈夫ですよ。私がいつでも退治して差し上げます」
優しく微笑み彼女は頼もしく言ってくれました。
最初は本当に頼もしかったのですが。
だけど、頻度がおかしい。場所もおかしい。見たことが無い虫が出てくるのです。
流石にこれもメイド達がおかしいと気づき、私の部屋を徹底的に調べたりしているうちに、虫を調達しているのが例の新人メイドと判明しました。
メイド長が彼女に理由を聞いたらば、彼女はこう答えたそうです。
「王女の悲鳴が、嫌がる顔が……とても美しくて甘美で……全身に快感が……」
その話を聞いて、私は鳥肌が立ちました。彼女は女性でありながら、私の悲鳴や嫌がる顔に性的な興奮を覚えていたようでした。
ドSと何かを併発させているように思われます。
当たり前のように彼女は解雇されました。
私を慕って守ってくれる人は有り難い事にたくさんいます。
問題は、一目惚れをしてくる相手が全員ドSという事です。
これ以外にも小さい頃は、庭師の孫や見習い騎士や貴族の息子にイタズラをよくされました。
しかし、私は王女。あからさまなイタズラや意地悪をする相手はすぐに排除されていたので上記の3人の件が無ければドSに一目惚れされやすいと気づけませんでした。
私は、一目惚れと言うのはもっとロマンティックで運命的な物だと思っていたのでショックでした。
魔術師の彼と距離を置いたのが14歳。宰相の息子と距離を置いたのは16歳。メイドの件は今年で、現在私は17歳です。
そして、来年は18歳になる私には婚約者がいませんでした。
王女としては結構ギリギリなのです。
第一候補だった宰相の息子は候補から外れましたし、我が国には私以外にも未婚の王子が3人います。
全員が兄ですが、23歳21歳19歳。
皆、国内の貴族の息女を婚約者にしています。
なので、国外の王族との結婚はどうかという話になっていたようです。
去年あたりから、私の見合いを兼ねた宴が催されていたようでもあります。
私は王女として、他国に嫁ぐのは納得していました。
むしろ、一目惚れなどされず、完璧な政略結婚として結婚した方が良好な夫婦関係を築けるのではないかと思っていました。
なのに、なのにです。
私に一目惚れしたと、他国の王子と王が求婚して来たと言うのです。
一人は金髪碧眼の見目麗しい優しげな王太子。18歳。
彼の国は私の国と同程度で友好な関係を築いており、お互いの貿易も盛んです。
もう一人は黒髪黒眼の偉丈夫な王様。23歳。
彼の国は鉱山に恵まれ、軍事力もあり縁を結ぶには有益な大国です。
どちらと結婚しても我が国にとって利になるそうです。
ただ、私に良くしてくれる騎士やメイドの話だと、金髪碧眼の王太子様の方が良いのではないかというのです。
何故かと言えば、先々代の王妃が我が国の出身だったこともあり、今でも我が国へ親しい思いを抱いてくれている国民が多い。国の程度も同じで気負う事も無い。それに王太子は優しくて優秀と評判の方だからという事なのです。
では、もう一方の黒髪黒眼の王様はどうかというと。
三年前に先王が亡くなり、立派に王として国を治めている。王としては何の問題も無く優秀でカリスマ性もある。けれども、彼の笑顔を見た事のある人はおらず、夫としては難しい方なのでは無いかとの事。それに、もう王になっておられるので結婚したらすぐ王妃になってしまう。妻としての責任がとても重い。と、純粋に私の負担や幸せを考えてオススメ出来ないと言ってくれました。
なるほど。皆の気持ちは有難くて嬉しいです。
でも、私としては…それよりも知りたい事があるのです。
一目惚れというのが本当なのかどうなのか……。
この結婚は私の国だけではなく、相手の国にも有益なものになるのです。
なので、社交辞令的に一目惚れという言葉を使っている可能性もあるのです。
だったら、希望があります。
ドSではないという希望が。
でも…もし、本当に二人共一目惚れというなら。
どのタイプなのでしょうか?
宰相の息子の様に精神的に痛めつけるタイプか、魔術師の様に肉体を痛めつけたいタイプなのか……。
メイドの様に私の悲鳴や嫌がる顔に興奮するタイプだったりするのか。それとも全てを兼ね備えたキングオブドSかもしれない……それは嫌です。絶対に……。
そんな中、お見合いというか、顔合わせという機会に恵まれました。
我が国と彼らの国は3か国共それぞれに良好な関係を築いています。
なので、王女である私と相性を見てから決めると言う話に落ち着いたようです。それが一番、外交的に穏便に行くとの判断でした。
ようは、私に一任される形になりました。
でも、私としても自分の目で彼らがどんな人達なのか知りたかったので良かったのかもしれません。
しばらくすると、王太子であるお兄様の誕生祝いの宴が予定されました。
その際に、お二人とお見合いというか顔合わせの機会が設けられました。
そして、今日は宴の日。
午前中に金髪碧眼の王太子の方と。お昼を挟んで午後からは黒髪黒眼の王様と会う予定が組まれました。
天候にも恵まれたので、お二人とは王宮のお庭を散歩すると言う形にしました。
一人目の金髪碧眼の王太子様。
さあ、彼はドSでしょうか……?
「お目にかかれて光栄です。初めて姫をお見かけした日は、国の行事で遠くからしか拝見できませんでしたので。姫、今日はきっと私が生きてきた中で一番幸福な日になるでしょう」
私の手を取りそう言うと、手の甲に口付けをしました。
なるほど。噂通り、優しげで王子様らしい王太子様です。
「こちらこそ、お目にかかれて光栄でございますわ。今日は、王宮自慢の庭園をご案内いたしますね」
私も、王女らしい微笑で彼に言ったのでした。
「では、お手を」
そう言うと、手の甲に口付けした後も離さなかった手を改めて握りました。
そのまま、エスコートされるように私達は歩き始めます。
もちろん、私達の周りには私付きの騎士と、王太子付きの騎士がいらっしゃいます。ですが、私達の会話の邪魔にならない程度には離れています。
「殿下、早咲きの薔薇が見事に咲いている場所があるのです。どうぞこちらへ」
私がそう言うと、王太子は素直に付いて来てくれます。
「これは見事な薔薇ですね。姫の様に美しく可憐です。許されるなら一輪、頂きたいものです」
王太子は天使の様な微笑みで私を見ました。
普通ならトキメク場面なのかもしれません。
でも、私は同じ場所で昔、似たようなシチュエーションで似たような言葉を貰ったのです……。
しかも、彼も天使の様に微笑みました……。
過去を思い出し不安になりつつ、私は「よろしかったら差し上げますわ」と、薔薇に手を伸ばしました。私は治癒魔法は使えませんが、一般的な魔力は持っていましたのでトゲの無い所を持って魔力で茎を切ろうとした時でした。
「……っ!」
……トゲの無い場所を取ったはずなのに、私の人差し指にはトゲが深々と刺さっていました。
「!! 姫、大丈夫ですか?」
王太子は慌てた様子でトゲの刺さった私の人差し指を握り、トゲを取り……何と、指を自分の口に含みました……そして、血を吸いとるとペッと吐きだします。そして、治癒魔法をかけてくれました。
その姿は優雅だったのですが、私はゾッとしました。
……同じだわ……。
そう、天才魔術師が昔……全く同じことをしたのです。
あの時は、自分の不注意かと思っていたのですが、真実を知ってからは薔薇を摘む時は人一倍慎重にしていたのです。
王太子はおそらく、彼と同じようにトゲを魔法で移動させ私の指に刺さる様にしたのです。
「……」
「どうしました? 姫? 治療は完璧にしたつもりなのですが……」
本来ならお礼を言う場面で何も言えなかった私に、王太子はしょんぼりした顔で私に聞いてきます。
「……申し訳ありません、治療して下さってありがとうございます」
私は何とか笑顔で答えました。
「……もしかして、姫の指を口に含んでしまったので……それで、そのようなお顔を?」
先程より、もっと悲しそうな顔で王太子は聞いてきます。
普通は見目麗しい王子に、こんな治療をされたら顔を赤らめる場面なのでしょうが……一度、同じ目に遭っている私は、その問いにゾッとしてしまいました。
「姫、何かございましたか?」
私付きの騎士が駆け寄ってきます。
「大丈夫よ」と、私が答えるよりも早く王太子が答えました。
「私の我儘で、姫に怪我をさせてしまって……大事な王女殿下に申し訳ない事を……」
とても、反省したような顔で騎士に言う王太子。
「……薔薇を一輪所望されたので、差し上げようと思ったらトゲを刺してしまっただけよ」
私が補足するように騎士に伝えました。
「私がそんな我儘を言わなければよかったのです。しかも、治療の為とはいえ、姫の清らかな指を穢すような真似をしてしまって」
すると、私の騎士と一緒に駆け寄って来ていた王太子付きの騎士が言いました。
「王女殿下、殿下は王女殿下を治療しようと思っただけでございます。それ以上の他意はございませんので、どうか……」
どうやら、私の笑顔がぎこちないのは怒っていると誤解しているようです。
「……もちろん、承知していますわ。ごめんなさい、私も王太子殿下に対して緊張をしているものだから……私の不注意よ。心配かけてしまったわね」
私は王女の微笑をしました。
一応、不穏な?空気は変わったように思いますが……スゴイわ……私が被害にあっていると言うのに、まるで王太子が被害者の様……。
「……あ、そうですわ。お約束の薔薇をどうぞ……キャーー!!」
私は薔薇を王太子に差し上げようとしました。しかし、その薔薇の茎に小さい小さい緑のクモが付いていたのです。私は持っていた薔薇を離してしまいました。
「姫!! 大丈夫ですか?」
王太子の心配気な声の後に私付きの騎士が答えます。
「姫は虫が苦手でして、おそらく虫が薔薇についていたのでしょう……」
「そうですか……」
王太子がそう言うと、地面に落ちた薔薇は灰になってしまいました。
「姫、もう大丈夫ですよ」
そう微笑む王太子の頬は何故か赤くなっていて、目が潤んでいます……これは、私の侍女だった子と同じ……。
まさか、私の悲鳴と嫌がる顔に興奮している?? しかも、王太子の顔は私にしか見えない位置だったので余計に見てはいけない物の様に感じました。
こ、この方は、ヤバ過ぎですわ……。
この方は、宰相の息子の様に誰が聞いてもキツイ言葉では無く、優しい言葉で私が悪い様に誘導する言い方をナチュラルにされる……。
この方は、キングオブドS以上のヤバイ方ですわ。
だって、彼の評判は国内外でも優しいって事になっています。
という事は……私が彼をドSと言っても誰も信じてくれませんわ。
「……お見苦しい態度をしてしまいまして……申し訳ございません」
「いえ。そんな貴女もお可愛らしいですよ」
相変わらず天使の笑みで私に言う王太子に、私はゾクリと寒気を感じたのでした。
楽しんで頂けたら嬉しいです(人´∀`)