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 円香と付き合いはじめたばかりのころ、私は登下校にⅠさんが一緒になってついて来るのを邪魔に感じていた。しかしそのうち、Ⅰさんが居ないと円香との会話が数分も続かないことに気づき、それからはⅠさんが居てくれることをかえってありがたく思うようになった。Ⅰさんが居てくれると――私が楽しいと思えるかどうかは別として――とりあえず登下校の場に会話が生まれ、気まずさを感じずに済むのだった。


 Ⅰさんは――可憐な美少女だった、とここで書ければこの小説も盛り上がるのだろうが、残念ながら――ひと言で言えば「中の下」というのがぴったりの、ややブス目なルックスの少女だった。


 キツネのような細い眼が何よりもまず目立つ顔をしていて、鼻低く、唇は薄く、整えすぎた眉ももはや薄く、それら平凡な美しさの部位達がアンパンマンのようにふっくらした輪郭の中に収まっていた。色は白く、タカノフーズの「おかめ納豆」のイラストを想起させる、平安時代に生まれていればもしかしたら美人の部類に入ったかも知れない顔だった。中背で、肥満とは言えないほどではあるもののややふっくらした体型をしていた。髪だけは(今思うと、ストレートパーマをかけていたのかも知れないが)綺麗で、毛量の少ない黒髪が背中までまっすぐに伸び、それを考慮すると、全体として、ちょうど先ほど述べた「中の下」というレッテルが良く当てはまる外見なのである。


 彼女はどうしようもないヤンキーで、暴走族と改造バイクのマフラー音をこよなく愛し、その「中の下」の外貌を、ガルフィーやKANIといったヤンキーブランドのジャージに、キティちゃんサンダルを合わせたファッションで包み込んでいた。学校では「青タイ」と呼ばれる体育着を、それもジャストフィットからツーサイズもスリーサイズも大きいズボンを、腰で穿いて、通していた。ちなみに田舎根性というのはすさまじくて、この「青タイ」がけっこうなおしゃれだと勘違いしていて、地元の藤岡町だけでなく近郊の小山市などにもこのままの格好で遊びに行ってしまうのである。


 こんな、「あまりかわいくない」ヤンキー少女が、何をどう感じながら私や円香に接していたのかを、私はつい考えざるを得ない。


 Ⅰさんは自分のルックスがあまり魅力的ではないことを、明らかに自覚していた。特にそのキツネ目にはかなりコンプレックスを抱いていたようで、プリクラを撮る時には、両目をこれでもかとくわっと開いてシャッターを待ちかまえ、それをそばで見ている私に憐憫の気持ちを起こさせないではいられなかった。


 かわいくない女性は掃いて捨てるほどいるが、Ⅰさんはかわいくないうえにヤンキーなためプライドを守らなくてはならず、そのため自分の容姿に屈折した思いを強く持たずにはいられなかっただろうと思う。


 そんなⅠさんが、自分と比べるといくぶんかかわいい親友が、新しく作った年下の彼氏と一緒に登下校するのに、毎日付き合わされていたのである。特に下校時には、私の部活が終わるまでの短くない時間を、わざわざつぶして、である。Ⅰさんは決して嬉々としてこの登下校に付き合っていたのではなく、内心複雑な思いを抱きつつ一緒に歩いてくれていたのだろうと、今になって私は思うのだ。しかしⅠさんは、少なくとも表面上は常に明るく円香としゃべり散らし、だまりがちな私に時々話題を振って、三人の仲が気まずくならないように気を遣ってくれていた。


 Ⅰさんの気遣いに気づくにつれ、私はだんだん彼女に馴れていき、登下校中でもはじめよりよほど会話に入れるようになった。そうしてそのうち、Ⅰさんの家に時々電話をかけ、円香との交際についての相談などをⅠさんにするようになった。円香と話す時と違い、Ⅰさんと話すときは、無闇に格好つける必要も、会話が途切れて沈黙が訪れる恐怖もそれほど感じる必要もなく、かえって私は気楽に会話することができた。そのため私がⅠさんに電話をかける頻度はどんどん高くなり、最終的には円香にかけるのと変わらないくらいの頻度になってしまった。


 Ⅰさんは延々と愚痴のように続く私の電話相談を、いつだって辛抱強く、


「うん、――うん」


と相づちを打ちながら聴いてくれた。私が相談している時は、彼女はいつもの騒がしさを封印して、静かに話を聴いてくれるのだった。


 そのⅠさんの「うん、――うん」という優しさを含んだ声を思い出すと、今でも私の胸には、感謝の気持ちがにじんでくるのである。

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