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 今から数えて、遡っていくと、2001年の一月の下旬のとある夕暮れ――そこからこの話をはじめなければならない。


 思春期と反抗期でひどく精神をこじらせ、万引きはするが喧嘩はしたことのない、臆病なチンピラじみた不良中学二年生だった私は、通っていた学校の近くの文化会館の駐車場にある電話ボックスの中に、(たか)(あき)という友達と一緒に体を詰め込んでいた。私は緑の電話機にテレフォンカードを突っ込んで、一学年上の中川円香という女子に告白の電話をかけているところで、隆明はその野次馬だった。陽は文化会館のそばにある渡良瀬川の向こうにとっくに落ちて、駐車場は暗く、電話ボックスのそばに設置されている街灯の明かりだけがその周辺を照らしていた。


 私は特に中川円香のことが好きだったわけではない。


 この日から少し前のこと、私はやはり同じ中学校の三年生の女子に告白し、一度OKはもらったもののそのたった一週間後に振られてしまっていた。それでやけになって、ある程度見た目さえ良ければもう誰でもいいから付き合いたい、と思っている最中だった。そういう点、中川円香は美人というタイプではないが愛嬌ある顔をしていて、笑うと眼がひどく細くなって口元にえくぼができるのに可愛げがあり、まず見た目は合格だった。そのうえ、この何ヶ月か前から学校で円香の方から私に話しかけてくるようになり、先学期(二学期)の終わりには、(なぜそんなことになったのかは、今では良く覚えていないのだが)円香とその女友達と私との三人で、円香の家で半日遊んだことがあって、告白するのにまずまずとっかかりが無いわけではなかった。彼女は頭の悪い、どうしようもない不良少女だったが、類は友を呼ぶというやつで、当時の私にはそういうところも魅力に映っていた。


 私からの電話に円香は明らかに不審そうにしていた。私はそんな空気をほぐすためにどうでもいい世間話を一、二して、それから本題に入った。その口上は隆明が考えてくれたもので、要するに、この前一緒に円香の家で遊んだ時、すごく楽しく感じた。それから君のことが好きになった、よければ付き合って欲しい……という、他愛もない筋だった。


 告白はあっさり成功した。円香は私が、


「お前のこと、好きなんさ」


と栃木弁で言うと、


「え、え、マジで? そうなん、ありがとう」


と単純に声をうわずらせた。続いて、


「付き合って欲しいんさ」


という私の要望にも、


「うん、いいよ、うれしい」


とすぐに答えた。そのやりとりを聴き取るため、隆明が私に身を寄せて、受話器に耳をくっつけるように近づけている。


 私はすっかりうれしくなり、調子に乗った。そのはずみで、隣に隆明がいることを円香にばらしてしまった。


「実は今さあ、隆明がそばにいるんさ」


私が笑い声混じりでそう言うのを聞き、隆明が(バカ、言うなよ!)という顔をした。


 隆明の反応の通り、これはまずかった。


「え? なんで隆明君がいるん? ふざけてるんけ?」


円香はそれまでのうれしそうだった声を一気に低めて、うたぐり深げな、不機嫌な声をだした。


「いやいや、ふざけてないから! 告るのに緊張しちゃうから、ついてきてもらったんさ。本気で告ってるから」


「そうなん?」


 そのあとなんとか円香をなだめて、とにかく付き合うことを了承してもらい、電話を終えた。私の必死の口車が功を奏し、電話を切るころには円香の機嫌は再び良くなって、じゃあ、これからよろしくね、と彼女の方から言って、電話が切られた。


「バカお前、なんで俺のこと言うんだよ。どうなることかと思ったべ」


 電話機から出てきたテレフォンカードを私が抜き取ったとき、隆明が言った。


「いや、なんとなく。(れん)(私と隆明の共通の友人)だって、告るとき、隆明と一緒にいたんだべ?」


「蓮君は、告ってる間は真剣だったから。俺が一緒にいることなんて、言ったりしねーし」


「そうけ」


 私と円香との付き合いは、こんなふざけた告白からはじまったのだった。

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