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 越くんのことが懐かしく、つい、話が逸れた。越くんの人生模様と、この話の筋とは、あまり関係が無い。


 とにかく、この越くんが、中学時代、私だけでなく、Ⅰさんと円香とも友人関係にあって、私の中学三年生の秋ごろに、四人で遊ぶ段取りをつけてくれたのである。


 それは私が一人で教室のベランダでしゃがみこんでいた時だった。越くんが私のそばにやってきて、ちょっといい?とその女のような高い声で言うのである。私が話を聴く姿勢を見せると、越くんは、


「誠己くん、一個上の中川円香とI・Mと仲良かったよね? 今度一緒に遊ばない?」


と言った。私は内心驚いたが、その驚きを見せないように、別にいいよと小さく答えた。越くんはその答えに、本当? ありがとう、とうれしげに言い、じゃあ、二人と日にち調整するから、また後でね、と言い残して去っていった。


 それからすぐのとある休日、越くんの声がけで集められた私たちは、地元の駅前で待ち合わせた。円香とは久しぶりに会ったが、あまり変わっていなかった。先ほど述べたように、Ⅰさんとは彼女の卒業後もしばしば会っていたので、自然と接することができた。こちらは髪を金に染めて、不良度を増していた。 


 私たち四人は電車に乗って隣駅まで行き、そこからバスに乗り継いで館林のデパートへ向かった。悲しいかな、田舎の中高生は遊ぶときもデパートくらいしか行くところが無い。


 バスに乗っている間、越くんが最近あったちょっとした事件について話した。それによると、彼は最近女友達から男のメル友を紹介された。越くんは女のふりをしてそのメル友と連絡を取っていた。仲良くなって電話番号も教え合い、やはり女のふりをして電話もしばしばするようになった。越くんは言う。


「それでこないだ、向こうから朝に電話がかかって来たんさ。それであたし、寝起きだったから声が低くって、『はい、もしもし』こんな声で電話してたんさ。そうしたら向こうが『お前、男だろ!』ってぶち切れちゃって……。前から疑われてたみたいなんね。どう思う、めっちゃ気まずくってさ……」


話を聞いた三人は失笑した。


 こんな、とりとめもない話を、女二人とオカマ一人で延々としているので、私は思っていたよりも円香に対する気まずさを感じずに済んだ。


 デパートではプリクラを撮ったり洋服売り場や雑貨店を見たり、マクドナルドで昼食をとったりした。私はプリクラをどうも撮りたくなく、三人の女子(?)が撮っているのを機械の近くで見ていた。しかし、越くんが私と二人でどうしても撮りたいと言うので、仕方なく一回だけ撮った。するとⅠさんが、


「誠己と越くんで撮るの? ははは、ないわー。私と誠己で撮るほうがまだマシじゃん」


と笑った。


 別に気まずくは無かったが、ひたすら三人がしゃべりまくってウインドウショッピングをしていくのについていくだけなので、果たして自分が遊びについてきた意味があるのかどうか、私は疑問だった。一方で、円香と付き合っていたころ、Ⅰさんと円香との三人で登下校していた時もこんな感じだったなと少し懐かしかった。


 夕方近くになって帰ることになった。帰りのバスに揺られているとき、私は隣の席に座った円香の片方の手の甲に、カッターナイフか何かで、


「死」


という字が彫られているのに気がついた。手の甲いっぱいの大きさに死という字の傷がつけられ、赤く、細くみみずばれのようになっているのである。リストカットのような、自傷行為の一種だった。傷は浅そうではあったが、死という漢字を彫り込むには相当の痛みに根気強く耐えなければならないだろうと思われた。それを盗み見た私は、(ああ、脳天気そうなこいつも、実はいろいろ苦しんでいるんだな)と思った。


 私と円香はこれをきっかけにヨリを戻そうとか、そんなことには特にならず、地元の駅に戻ると解散した。少しばかりそれを期待していた私は、拍子抜けするとともにじゃあいったい自分はなんで呼ばれたんだろう、と思った。それは今になっても良く分からないが、しかし私と違って交友関係の広かった三人のことだ、私が円香の元彼であることには特に気にせず、単純に「今度遊ぶ時、誠己でも呼ぶか」ということになったのかも知れない。


 一回私と遊んでみて、三人の女子たちの間で「やっぱり誠己、あんまり面白くないね」ということにでもなったのか、それっきり私は三人に遊びに誘われることは無かった。ただ、以前と同様Ⅰさんとはたまに街中ではちあわせた。


 私が高校一年生になっていたある日、私は学校帰りに、Ⅰさんと、彼女の中学の同級生の香林という女子が、駅前に二人でいるのに遭遇した。私はこの香林という先輩とも面識があったので、二人に混じった。二人は香林さんの家まで歩いていく途中だった。私もだいたい家が同じ方角にあったから、一緒に歩いていった。


 道すがら、Ⅰさんは元彼の石野航一に対する愚痴を言った。なんでもⅠさんは今でも石野くんと連絡を取り合っているのだが、このあいだ、ヤラせて欲しいと言われたのだと言う。


「そうしたら、同じ時期に亜美(香林さんのこと)にもヤリたいって言ってたらしいんさ、航一。マジありえねーし。付き合うならともかく、ヤリたいだけって」


 珍しくⅠさんは憤慨していた。その調子をなだめるように、香林さんは、うんうんひどいよね、と穏やかに相づちを打っている。


「男ってみんなそうなん? どうなん、誠己」


 自分の方に飛び火してきたので、私はいかにも冷静に、


「いや、そうじゃない人もいると思うよ」


と適当なことをもったいぶって答えた。


「そうなん? どうしてそういう男が私には近寄って来ないんかなあ」


 帰り道のあいだずっと、Ⅰさんは愚痴をこぼしていた。


 またある時、私はⅠさんから、彼女が高校を辞めたことを聞いた。確か、Ⅰさんの高校二年時の夏ごろだったと思う。その時Ⅰさんはやはり駅前の駐車場の端で、ヤンキー座りをして缶ジュース片手にただ暇を潰していた。そうして学校帰りで通りかかった私に座ったまま話し、やがて中退したことを打ち明けたのだった。


「だってさ、めちゃくちゃつまんなかったんさ、あの学校」


 Ⅰさんはそう言って、私を見上げて、ふふふ、と自嘲気味の笑みを浮べた。Ⅰさんが進学したのは偏差値が非常に低いので有名な、卒業するまでに三分の一の生徒が辞めるという噂のある地元の高校だった。ちなみにこの高校は十年ほど前に統合されて今は無い。


 フリーターになったⅠさんは、私の家の近所にあったコンビ二で働きだした。元々は個人の弁当屋だったのを改装した小さなコンビ二で、レジは一台しか無かった。そのレジカウンターの奥で、つまらなそうに突っ立って客を待っている彼女の姿が、時々店の外から見かけられるようになった。


 私はそのコンビ二の前を通りかかり、Ⅰさんの姿を見つけると、よく中に入ってジュースやパンを買い、レジ前でⅠさんに話しかけた。Ⅰさんは仕事をしているのを見られるのが恥ずかしいのか、はにかんだ笑顔を浮かべ、いつもより口数少なく私の話に答えながら、手際悪く商品を会計していた。

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