真冬の夜の交番
夜というのは交番に限らず変な奴が現れる。
ほら、今夜もまた変な奴が来た。
吐く息が白くなるような寒い夜、僕は交番でいつもどおり仕事をしていた。
交番の扉が空いた。
「すみません」
「はい、なんでしょう」
入ってきたのは銀髪碧眼の日本人離れした顔立ちの少女だった。
しかし流暢な日本語で話してきた。
彼女も変な部類に入るのだろうか。
「あの、ここは…どこですか?」
「伊貝前野駅前交番です」
「ここはユーペランスト王国領内ではないのですか?」
「ええ、違いますよ」
「となりの聖帝国…ですか?」
「違いますよ。ここは日本国です」
「ニホン?聞いたことないです」
「うーん。とりあえずどこから来たのか教えてくれるかな?」
それから少女は自分が王国から来た人間で、自分は僧侶でこれからサンベラン共和国で勇者とその他の仲間と合流して魔王を倒しに行く予定だったと言った。
だがしかし気づいたらこの交番の目の前にいたということだった。
「酔っぱらいですね。何か身分を証明できるものはお持ちですか?」
酔っぱらいには見えないが突飛なことを言い出すのは本当に変な奴か酔っぱらいだけだ。
「ええと、こちらが国王からの紹介状で、これが教皇から頂いた聖女の証です」
そう言って彼女はどこからともなく先に玉がついた長い棒と紙切れを一枚出した。
「どれどれ、読めん。何語で書いてあんのこれ。てか何その棒、どっから出したの?マジック?」
「文字が読めないのですね」
「いや日本語なら読めるから」
「それに棒とは失礼な方ですね。これはどう見たって高位の魔法杖じゃないですか」
「他になんかないの?」
そう聞いたら、また扉が開いた。
「聖女!ここに居られたか!魔王軍の空間魔法使いがランダムに転移させたんだ。空間魔法が使えるのは勇者の俺一人だったから転移の痕跡を追って来たんだ」
「おうふ、もっと変なのが来たよ…」
「勇者様!?よかった、来てくれて…わたし異世界に転移していたということですね」
「ああ、そうだ。さぁ戻ろう。戦士が件の空間魔法使いと戦っている」
「ええ。では名も知らぬ方、失礼します」
「え、あ、うん。お気をつけて」
ガラガラと音を立てて戸を開けた自称勇者と聖女は夜の暗闇の中に消えていった。
「うわっ」
遠くで何かが光り眩しさに目を瞑った。その光は強く、離れているはずの交番まで届いた。
「ほんとに勇者だったのかな…」
そんなことをぼやきながら仕事を再開する。
そんなある夜の交番のお話。