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すべては来る日のために

 結婚式の日が近付く中、早急に準備が行われていく。

 盛大な式にしようと皇帝が意気込んでかなりの金をつぎ込んだ。


 第六天使となったエブリンは上に立つ者として熱心に業務に打ち込み、その姿勢は同じ天使たちからも評価が高い。


 その裏でエブリンによって情報を引き抜かれ、帝国の戦力低下が着々と行われているとしてもだ。

 現に第二、第三天使は魔王軍と戦争になった際、完全に苦戦を強いられていた。


 そしてある日、このふたりの天使は魔王の刃に倒れることとなる。

 魔王軍の領土は拡大し、今にも王都へと魔の手が伸びそうになったときだった。


「ラーズム老、第二、第三天使が魔王の手に掛かった。最早一刻の猶予もない」


「わかってございます。あのふたりがやられる以上、敵も並ではございませぬ。かくなる上はこのラーズムめが指揮を取り、魔王を討ってごらんにいれましょう」


「うむ、レムダルトとエブリンの結婚の日が近付いておる。それまでになんとしても……」


「恐れながら異母兄上、我々も出るべきではないでしょうか?」


 皇帝の部屋に集められたラーズム老とレムダルト、そしてエブリン。

 ラーズム老が討って出ると言った際、レムダルトは自らの正義感のままに発言する。


「確かに結婚の日は迫っています。ですが、今は国の一大事。第二、第三天使がやられるという本来ならあり得ぬ状況。ここは兵力をさらにまとめあげ、俺やエブリンもまた戦陣へ赴くべきじゃ……」


「ならぬ。貴様らはこの都におれ。余の弟がこれから晴れて結ばれるというに、戦場で血に濡れるなど許さぬ。貴様らはここで執務に励み、式を待っておれ。結婚の日は越すだろうがラーズム老であるなら魔王の首を、貴様らの祝いの席の手土産に持って帰れるであろう。ハハハハハ」


 皇帝は上機嫌で酒を呷った。

 レムダルトは心配そうにしながらも、エブリンにやんわりとたしなめられる。


 それこそ夫を心配する妻のように。

 彼女の言葉にレムダルトは簡単に引き下がる。


 そのふたりの姿に、ある種の安心を覚える皇帝は、なるべく早くに式ができるよう作業を急がせた。

 急ピッチで行われる式の準備を横目に、ラーズム老は数日はかかるだろう距離にいる魔王軍のいる場所へと兵を率いていく。


「魔王の進軍がこの王都にまでこなければいいけど……」


「レムダルト様、ラーズム様のお力が魔王に劣るなどありえません。『光裁のラーズム』と他国にも名を知らしめるあのお方がしくじるなど……」


「そう、だな。うん、エブリンの言う通りだ」


「皇帝陛下もラーズム様を信頼して軍を任されたのです。きっと魔王を討ち倒し、我が帝国に安寧をもたらして下さるでしょう。そのころには、晴れて私たちは夫婦めおととなります」


「……ハハハ、エブリンはしっかりしてるな。俺、なんか心配性になってたよ」


 皇帝の部屋を出て、廊下を歩くエブリンとレムダルト。

 結婚式が近いとはいえ浮かれてはならないと気を張っていたレムダルトをエブリンは柔らかくたしなめた。


 魔王軍との戦闘で緊張感が高まる中で自分たちだけ幸せで良いのかと、レムダルトの焦燥感を感じとりながら、エブリンはそれらしい台詞で見事に彼の心を優しく包み込んでいく。


(それにしても、結婚式か。……なんだか現実感ないわ。そりゃレムダルトは皇帝と違っていい男だけど、彼にも嘘ついてるって考えると────)


 まさに虚構の世界での出来事のようだ。

 絵本を読んで、物語に浸り、終わればそっと現実へと戻ってくる。


 すべては復讐のために築き上げた偽物の役割ロールだ。

 本当の自分(セリーナ)からすれば、今の自分(エブリン)は良くでき過ぎた人格キャラクターにほかならない。


 復讐のために、この人生を最後まで演じきる。

 誰もが羨むこのシンデレラストーリーを、自分から破壊するのだ。


 すべての決着は結婚式。

 奇しくもその日は、アルマンドと出会い契約を結んだ日。


 ────帝国の孕む闇と膿に復讐の炎が起爆する。

 そんな光景をエブリンは勿論、魔王ドゴールやグリファス神父、そしてロザンナがこの数日ずっと思い浮かべながら過ごした。


 

 そして、運命の日がついにやってきた。

 同時に魔王軍と帝国軍は戦場でぶつかり、各々宿願を果たすことに。


 たとえ命枯れようとも、これまでの人生すべてを懸けて、彼ら彼女らは鉄槌を下す────。

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