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泣くほど叶えたい夢  作者: ひらのあんな
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「もう遅い」ってわかっているのに


 泣くほど叶えたい夢がある。誰にも言えない夢がある。


 私の将来の夢は看護師。約2年半前から決まっている。もう変更はできない。大丈夫、変更する予定なんかない。

 高3、大学受験で行きたかった大学に行けなかった。でも、今の大学で頑張ろうと心に決めた。4月に入学した。すごく不便なところで、自由が利かなくて、隔離されている、まるで牢獄に入れられた囚人みたいだと思った。そのときにはもうすでに、看護師になりたい気持ちなんてなかった。どこかに落としたみたいに、持ってなかった。ただ、決められた道に進まされている。でも、別にそれでよかった。特にやりたいこともない。このままいけば看護師になれる。

 1時間半かけて牢獄に通い、宗教のように毎日何時間も座らされる。帰りたくても帰れない。「やめたい」それが口癖だったように思う。それができていたら、どれだけ楽だったろう。「今さら遅いよな」それもまた口癖だった。入学金を払っている、奨学金もらっている、授業料払っている、教科書買った、ナース服買った、聴診器買った…。引き返すには遅すぎる。やめれない理由にじゅうぶんだろう。

 何度も前向きに授業を聞こうとした。でも、お経にしか聞こえない。演習もした、実習にも行った、テストもした。でもただこなしているだけで、気持ちはついてこなかった。ただ、やらなきゃいけないからやっている。やらなきゃ単位もらえないからやっている。単位落としたらいけないからやっている。

 

 それから1年半が過ぎて、もう口癖はなくなっていた。いや、諦めたと言った方が近いのかも知れない。このままいけば看護師になれる。このままいくしかない。牢獄に行く魔の乗り物にも慣れた。牢獄にも慣れた。宗教にはまだ慣れない。案外牢獄も悪くないと思えたのは、周りのおかげだ。


 ようやく夢を見つけた。何度も言うが、もう遅い。ここまできたら看護師になるしかない。それ以外の道はありえない。でも、初めて自分で見つけた夢だ。そう簡単に諦められなくて、近づこうと検索した。でも、調べれば調べるほど、無謀だと、もう遅い、と思い知らされる。

 

 

 高校から自転車通学するようになって、毎日空を見上げるようになって、バイク通学に変わった今も、その習慣は変わらない。大学2年になって、見上げる回数も、それをiPhoneに収める回数も増えたような気がする。1日中空を見ていたいなぁ。私の撮った写真に、誰か共感する人はいないだろうか。もっといろんなところに行って写真が撮りたい。iPhoneじゃなくて、もっとちゃんとしたカメラで撮りたい。そう思ったときには、完全に夢の世界に入っていたのかもしれない。「一眼レフカメラがほしい」「私の撮った写真を見て、誰か心動かされたらいいな」「友達には、アンナらしいって言ってもらえたらいいな」そんなことを思うようになってしまった。

 完全にはまってしまったらしい。近づきたくてもっと調べる。看護師との両立は無理だ。余裕のある仕事に、休みを多くとれる仕事に、あわよくば夕方までに帰れる仕事に就職しないといけない。切羽詰まった状態では、いい写真は撮れない。写真だけで生きていけるのなら、それ以上に嬉しいことはない。でも、現実はそんなに甘くない。プロになるには、それに相当する学校に行って勉強をしなければならない。看護師では、泊りがけの写真は撮れない。結婚相手がいれば、とっとと結婚して専業主婦になって、カメラに専念できる。でも、そのあてもない。いやいや、奨学金は自分で払わなければいけないから、少なくとも数年は看護師をしなければならない。そしたら、その間は、カメラはできない。とりあえず、看護の資格を取って、夢に没頭して息詰まったら、看護師に戻ればいいと思ったけど、ブランクがあれば、いくら看護師でも入るのが難しくなるだろう。それも新人看護師だ。

 私なりにあれこれ考えた。でも変だ、いくらもう遅いからと言っても、叶えたい夢と特にやりたくない夢で、迷う必要がないではないか。プロになれなくても、趣味でやっていける職業だって見つけようと思えば見つかるし、就職が無理でもアルバイトでいいじゃないか。なんで、そんなに看護師にこだわっているのかわからなかった。でも今日やっとわかった。受かってしまったからじゃない、入学金を、教科書を買ってしまったからじゃない、奨学金をもらってしまったからじゃない、そうじゃなかった。お母さんのためだ。お母さんの喜ぶ顔が見たいから。散々迷惑かけたから、恩返しをしたいから。何より、お母さんに楽させたい、その気持ちがいつもどこかにあって、だからやめられなかった。だからカメラと悩んでた。もしかしたら、私の写真で誰かを幸せにできるときがくるかもしれない、でも私は、これから喜んでくれるであろう人を捨ててまで、未知の人の幸せに飛び込めない。

 

 やっと、やっと見つけた私の夢、調べれば調べるほど、近づこうとすればするほど、無謀だと思い知らされる。泣きたいほど叶えたい夢がある。諦められずにいることは事実だ。でも誰にも言えない夢だ。

 無邪気に夢を追いかけれなくなったのは、大人になったからだろうか。

 これからも、何気ない空を見上げて、夕陽を見て、星を見て、月を見て、それは私の1日の終わりを意味する。そして私は看護師になる。


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