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幽鬼姫伝説  作者: 奏 舞音
第三章

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第六十話 幽鬼姫の出自

「……華鈴ちゃん、本当にここに髃楼がいるの?」

「はい。髃楼は間違いなくここにいるはずです」


 目の前にあるのは、皇帝の住まう朱紅城しゅこうじょう

 華鈴たちはその朱紅城の門の前に来ていた。今にも動き出しそうなほどに力強い龍が扉を守るように描かれ、その扉には牡丹やアザミなどの花々が華やかに描かれていた。

 それはまさに蒼華大神に守られる、皇族の図だった。

 皇族の居住地である朱紅城は山一つ分、それ以上の広い敷地を持つ。

 当然、部外者が入り込むことはできない。

 日比那が作り上げた完璧な結界によって、許可された者しか門を通過できないようになっているからだ。


「え、でもここ、結界作ったオレでも入れないんだけど……」


 困ったような顔をして日比那が言った。

 そして、それを聞いて与乃も眉間にしわを寄せる。


「何? じゃあどうやって中に入るんだ?」

「私が行きます」


 華鈴は、目の前の朱色の門を見つめる。

 華鈴は緊張で震える手を握りしめ、気持ちを落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。


「いや、いくら彩都を守る結界が歪んでるっていっても、この朱紅城の結界は完璧に機能しているんだよ。許可なく入るなんて無理だ」


 この朱紅城に入ることができる人間は、あらかじめ結界に組み込んでおかなければならない。

 城内にいる兵士や女官たちは、結界が張りなおされる時のみしか出入りが許されず、普段は外に出ることはできない。

 それに、その結界の張り直しというのも、十年単位でしか行われないため、この朱紅城を自由に出入りできる人間は限られているのだ。

 その朱紅城に華鈴が入っていこうとしているのだから、日比那が焦るのも無理はない。


「でも、この門を許可なく出入りできる人はいますよね?」

「……? まさか……そんなはず……華鈴ちゃん、君は」


 茶色の瞳を大きく見開き、声にならない声で日比那が華鈴の名を呟く。


「なんだ? どういうことだよ」


 さっぱり会話についていけていない与乃が苛立ったように声を上げた。


「この朱紅城に許可なく出入りできるのは、皇族の血を引く人間だけなんだ」


 日比那が力なく言った。

 そして、与乃は口をぽかんと開けて華鈴を見つめた。

 初代幽鬼姫と蒼華大神には娘がいた。

 そして、その娘にも幽鬼姫の力が受け継がれた。

 つまり、皇族の血筋が重要視され、守られてきた裏には神の子としてだけではなく、幽鬼姫の力も関係していたのではないか。

 つまり、幽鬼姫は皇族の血筋に生まれる。

 華鈴の両親が彩都から出たのは、幽鬼姫に恨みを持つ髃楼から逃げるためではないか。

 そう仮説を立てると、両親が閉鎖的な胡群の村へ逃げてきた理由がわかる。

 胡群の村でどんな仕打ちを受けても村を出なかったのは、華鈴を守るため。

 それも、実際には血のつながりのないであろう皇族の血筋を引く娘のため。

 両親どちらにも似ていないといじめられたことがあった。

 そのうち似てくるよ、と両親は笑ってくれたが、それは優しい嘘だったのだ。

 どういう経緯で二人が華鈴を育てることになったのかは分からないが、面倒事しかもたらさない華鈴をちゃんと愛してくれた。

 たとえ血がつながっていなくても、華鈴の両親はあの二人だ。

 だが、怖い気持ちもある。この門をくぐることができたら、華鈴は本当にあの優しい両親の実子ではないのだと証明されてしまう。

 しかし、華鈴は前を向いて歩いて行かなければならない。

 愛し、育ててくれた両親のため。

 華鈴に道を示し、支え、守ってくれる蓮のため。

 未熟な幽鬼姫でも側にいてくれる日比那のため。

 苦しい現実を突きつけられても負けなかった与乃のため。


「いってきます」

「ダメだ。華鈴ちゃんを一人でこの先へは行かせられないよ。そんなことしたら、オレが蓮に殺される」


 日比那がそう言った時、赤い門の向こうから大勢の悲鳴が聞こえてきた。

 何かが割れる音、金属がぶつかり合う音も。静かな夜の静寂は、その音によって破られた。

 皇族の住まう城に近づくことを畏れてか、華鈴たち以外に門の外に人はいない。この朱紅城の異変に街の人たちは気づいただろうか。


「なんだ、中で何が起こってるんだ?」


 日比那の表情が険しくなる。結界が破られた訳ではない。しかし、何か嫌な予感がする。


「私が、必ず髃楼を止めてみせます。だから、彩都のことはお二人に任せます」


 日比那も納得出来ないような顔をしていたが、華鈴しか中に入れないとなると頷くしかなかった。

 華鈴は二人に笑顔を向け、朱い門へ近づく。

 そして、扉に触れた。

 強い結界のせいか、少し肌がピリピリする。

 しかし、はじかれることはなかった。


(やはり、私は皇族の、蒼華大神様の血を引いているのね)


 その事実を受け止め、思い切り力を込めて扉を開く。景色は、ぼやけていてよく見えない。


 しかしこの先に、きっといる。

 すべての元凶である男が。

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