第五十八話 神の愛と罪
闇に襲われた直後に、白い光に包まれた。
その光があたたくて、警戒はしなかったものの、そのまま初代幽鬼姫の記憶を辿ったことに華鈴は驚いた。
しかし今、目の前にいる人物を見て納得してしまった。
「私に、初代幽鬼姫の過去を見せたのは蒼華大神様だったのですね」
華鈴は、真っ白な世界にいた。目の前には、おじいちゃん姿の蒼華大神がいた。
「うむ……で、どうじゃった?」
「初代幽鬼姫は、本当に美しい人ですね。蒼華大神様が愛する気持ち、分かります」
そう言って微笑むと、蒼華大神は懐かしむように目を細めた。
「愛しておったよ。この冥零国をつくったのは、蘭華のためであったからのぅ」
蘭華、それが初代幽鬼姫の名前。
冥零国の守護神、蒼華大神は愛する者のためにこの国を守ったのか。
「蘭華は、みなが笑ってくらせる明るい国を望んでおった。人の怨念によって幽鬼が生まれても、人の笑顔でまた幽鬼が光へと還ることができるように……と。だから、あの頃のわしはその願いを叶えるために人へと姿を変え、皇帝をしておった。蘭華は王宮が嫌いで、すべてのことはわしに任せていつも人の集まる場所へ行ってしまってのぅ。幽鬼のことが心配だったのだろうな……」
愛する者のために、蒼華大神は人間として国をつくり、皇帝になった。冥零国の初代皇帝は守護神である蒼華大神自身だったのだ。蒼華大神にとっては大昔の話だろうが、初代幽鬼姫のことを話す蒼華大神は、話を聞いている華鈴までもが幸せな気持ちになるぐらい優しくてあたたかな表情を浮かべていた。まるで目の前に彼女の姿が見えているようだ。
「じゃがの、蘭華は守ろうとした人間によって追い詰められ、死を選んでしまった。わしは自分の持つ力で人間を滅ぼそうとした。しかし、できんかった……娘がいたからの」
華鈴はさきほど見た過去を思い出す。人々に追い詰められ、自ら崖に飛び込んだ彼女を。
「もしかして、その娘さんも?」
「うむ、幽鬼姫の力を受け継いでいた。それに、母の蘭華によう似ておったわ。純粋で、きれいな心を持っていた。しかしな、神でありながらわしは人間の世界に干渉しすぎた。蘭華を失った悲しみと怒りが地上に与えた影響は、あまりにも大きかったんじゃ……わしは、もう人とは生きぬと決めた。だから、大切なものを守れる者に託して地上を去ることにした」
「それが、鬼狩師ですか?」
幽鬼姫を守るために存在する鬼狩師。
しかし、その存在は幽鬼姫の意志とは真逆の幽鬼を滅する役目を担っていた。華鈴は、ずっと不思議に思っていたのだ。
何故、幽鬼姫は幽鬼を闇から救いたいのに、側にいる鬼狩師は幽鬼を滅してしまうのだろうか、と。
それは、幽鬼姫を何ものからも守るためだったのだ。
もし、幽鬼の力が強く、幽鬼姫が敵わない相手だった場合、鬼狩師は幽鬼姫を守るために幽鬼を狩る。
「もう二度と、大切なものを奪われたくなかったからの。鬼狩師となる者の魂には、幽鬼姫を守るよう命を刻むのじゃ。蓮は凛鳴を狩ったからだと思うておるが、幽鬼姫の言霊が効くのはわしの命が魂に刻まれておるからじゃ」
「そんなっ! 私は、〈幽鬼姫〉はそんなこと望んでいません」
華鈴は蒼華大神に初めて強く反論した。
鬼狩師の自由を奪ってまで、守られたいとは思わない。
救うための力を、誰かを縛る力にしたくない。
思わず強く言葉を放ってしまい、言霊を発動させてしまったことはあるが、華鈴は自分の側にいてくれる鬼狩師二人の自由を奪いたくはない。
心から笑っていてほしいのだ。
今までの幽鬼姫たちだって、きっとそんなことを望んではいないだろう。
「分かっておるよ。じゃが、その魂に刻んだ命は取り消すことはできぬ。そして、わしがある男に与えた影響も、消すことはできぬ」
蒼華大神が華鈴に過去を見せ、話をしたのは、このことを伝えるためだったのだ。
「あの青年が、髃楼なのですね」
初代幽鬼姫を追い詰め、死に追いやった青年。
蒼華大神の怒りの矛先は、当然その青年に向かう。
そして、そのことが青年にある影響をもたらしてしまったのだ。
「わしの過ちがすべてを狂わせてしまった。どうか、奴を止めてくれ」
その言葉を最後に、華鈴の意識は現実へと引き戻された。




