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幽鬼姫伝説  作者: 奏 舞音
第三章

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第五十六話 残された側

 蓮の後ろ姿を見送ることしかできず、日比那はいまだ苦しむ華鈴を見つめる。


「オレの時は、華鈴ちゃんが助けてくれたのに……ごめんね。オレに力が足りないばっかりに」


 日比那は、自分の首にかけていた術具である数珠を華鈴に持たせる。

 少しは、気の流れがましになるだろう、と信じて。


「はあ…………蓮一人に負わせる訳にはいかないだろう。それにしても、よくまあ面倒事がこんなにも一度に転がってくるよね」


 大きく溜息を吐き、逃げようとする雄清を術で捕らえる。


「お前はただでは帰さないよ。わかるよね?」


 にっこりと黒い笑みを浮かべれば、雄清は悲鳴を上げた。蓮がいなくなったから逃げられるとでも思ったのだろうか。その悲鳴を受けて、今度は与乃が目を覚ます。


「……か、華鈴は? 無事なのか?」

「無事でないと困るよ。ほんと、誰のせいだと思ってるのかな」

「……すまない。私が、弱かったばっかりに」

「そう思うなら、少し手伝ってくれない? 君、一応神力はあるんだから」

「華鈴を刺したあたしに……? 信じて、くれるのか?」

「あぁそうだよ、与乃ちゃんにオレは頼んでる。自分のしたことを心から後悔しているなら……華鈴ちゃんを本当に友人だと思うなら、だけど。やるの? やらないの?」

「やる! 私にも、手伝わせてほしい!」


 与乃は即答した。与乃自身、現実を受け入れることは難しいはずだ。

 村がすでに滅び、自分が騙されて利用されていたなんて。

 それでも、与乃は華鈴を傷つけてしまったことに深い罪悪感を感じている。

 華鈴の純粋な優しさに触れ、本当の友人になりたいと思わないはずがない。

 そんな風に考えてしまうのは、日比那自身、華鈴に救われて心から側にいたいと思っているからだろう。

 一言でいえば、昔の自分と、与乃の姿が重なったのだ。

 だから、日比那は怯えたような瞳でこちらを見る与乃に優しくほほ笑んだ。

 華鈴もきっと、信じようとするだろうから。


「それにオレだってねぇ、蓮みたいに万能じゃないんだよね。これだけ立て続けに術を使ってたらさすがにきつくてね……ずっと結界を張るのも限界だ」


 じわり、と額に汗がうかぶのを感じる。そろそろ、負担が大きく、神力がもちそうにない。


「あたしは、何をすればいい?」

「とりあえず、そこの馬鹿を柱に縛り付けてくれるかな?」


 華鈴の側を離れないために、術で雄清を縛っていたが、物理的に縄でしばってしまえばその分消耗しなくて済む。

 それに、今は術で縛っているから、女性の与乃でも簡単に雄清を縛ることができるだろう。

 日比那は自分の帯に巻いていた飾り紐を与乃に渡す。


「これは、神力を込めて使えば、威力を増す術具だよ」


 何かあった時に備えて、日比那は数々の術具を持ち歩いている。

 弱い神力だとしても作用するようにできているから、与乃にも使えるはずだ。

 もし使えなくても、縛ることはできる。神力を使っている時と拘束力は比べられないが。


「わかった」


 力強く頷き、与乃は雄清を自分の帯を使って柱にきつく縛り上げる。

 そこには今回の恨みが込められていたため、雄清は痛い痛いとうるさく呻いていた。

 そんな叫びは無視して、与乃はしっかりと神力を込めて縛ってくれた。上出来だ。

 きっと、与乃も力の使い方を学べば、良い術師になるだろう。日比那は薄く笑みを浮かべる。


「華鈴ちゃん、早く目を覚ましてよ。あの馬鹿が、早まった真似をする前に」


 華鈴の手を握って、日比那は祈る。

 こんなことしかできない自分が情けなくて、笑えてきた。

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