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幽鬼姫伝説  作者: 奏 舞音
第三章

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第五十二話 闇に囚われた幽鬼姫

 殺せ、殺せ! 殺すんだ……!

 この子は、生まれてはいけない子だ――――……。


 やめて。お願いだから。もう、それ以上何も言わないで。

 華鈴は、恐ろしい夢の中にいた。

 これは、華鈴がずっと封じていた幼い頃の記憶。


「……あなた、どうしましょう……あの子は、華鈴はやはり闇の者を引き寄せてしまうわ。この場所にいることが知られたら……」

「心配ない。彩都からこの胡群まではずっと離れている。こんな山奥まで兵士が来るはずがないよ」

「でも……村の人たちは私たちを追い出そうとしている……華鈴のことだって、怪しんでる……やっぱり、私たちの子じゃないことが……」

「やめるんだ! 華鈴は、私たちの子だ。そして、命に代えても守らなければならない存在だ」

「えぇ、えぇ……そうね。そうよね……」


 母は不安そうに泣き、父はそんな母を優しくなだめていた。

 いつだったか、華鈴は偶然二人の会話を聞いてしまった。

 まだ幼かった華鈴には詳しい内容は理解できなかったが、自分が両親の本当の子どもではないことは分かった。

 本当の子どもではないのに、両親は華鈴のために苦しんでいる。

 華鈴が、優しい二人を苦しめている。

 その現実に耐えられなくて、華鈴はこの事実を忘れることにした。

 記憶の奥底に閉じ込めて、二人の子であろうとした。

 しかし、心のどこかに罪の意識はずっとあった。

 二人は、自分の子ではない華鈴のために生贄になり、命を落としたのだ。

 華鈴は真実を知っていたことを隠して、なかったことにして、平気な顔をして二人の前で生きていたのに。

 それでも、二人は華鈴を我が子として愛してくれていた。

 これ以上ないぐらいの優しく、あたたかな愛情で。


『華鈴、お母様ね、あなたの笑顔が大好きよ。どこにいても、あなたが何者でも、愛しているわ』


『華鈴ならできる。何てったって私の子だからな。自信を持つんだぞ』


 二人の魂が天に昇る時、華鈴に優しく言葉をかけてくれた。

 二人は、華鈴が何者か知っていたのかもしれない。

 普通の子ではないと知っていながら、愛してくれた。

 自分は死んだ方がいい、生きる資格などない、華鈴は罪意識からいつもそう思っていた。

 しかし、それは二人の愛を否定することになる。

 二人の想いを否定することになる。

 両親の愛で、華鈴は今まで生きてきた。

 それに、今はもう独りではない。

 華鈴には側にいたい大切な人たちがいる。

 蓮や日比那の側に帰りたい。居場所のなかった華鈴にも、ようやく笑っていられる居場所ができた。存在してはいけないと言われていた華鈴を受け入れてくれる、優しい人たちがいる。

 生きていてもいいんだ、心からそう思えた。

 だから、今なら過去を受け入れられる。

 そして、真実を知った上で、自分は二人の子どもなのだと胸を張って言える。

 すべてを受け入れる覚悟はもう、できている。

 だから、大切な人たちのもとへ。そう願うのに、華鈴の意識はいまだ闇に囚われている。


 ……お前のせいで死んだんだ!

 殺してやる。


 そして、華鈴の死を願う、村人たちの怨念に押しつぶされそうになる。


「嫌だ、やめて……! 私は、蓮様のところへ帰りたいっ!」


 どうして。どうして。この闇から抜け出せない。

 幽鬼姫である自分が、何故、闇に囚われてしまっている。

 華鈴は混乱して、ますます自分の力をうまく使えない。

 ここは、一体どこなのか。

 この闇は、きっと日比那の時と同じだ。原

 因となる呪具があるはず。

 どこか冷静な部分では分かっているのに、人型をとった怨念にまとわりつかれ、襲われそうになって何も考えられなくなる。

 嫌だ、こんなところで死にたくない。

 必死で抵抗して、怨念から逃げる。

 しかし、逃げ場などどこにもうない。恐怖に支配される。


「蓮様、蓮様っ。助けてください……っ!」


 しかし、呪具の闇に囚われた華鈴の声は、どこにも届かない。


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