第四十五話 幽鬼姫の宿命
蒼龍祭が終わったと同時に年が明け、今度は迎春のために人々が浮き足立っている頃、華鈴は雪の積もった真っ白な庭で一人、暗い空を見上げていた。
分厚い雲に覆われて、夜の星は姿を消している。
『僕はね、大切なものをすべて壊され、奪われ、絶望を詠う幽鬼姫が見たいんだ』
呪いのようなこの言葉は、華鈴の心に深く残っている。
蘇陵でぶつかったあの男は一体何者だったのか。
何故、華鈴が幽鬼姫だと知っていたのか。
それは、すべて蒼華大神の言葉で繋がった。
「髃楼は〈幽鬼姫〉に執着しておる」
もう明日には髃楼を探すために彩都へ発つ。
そんな時、蒼華大神が華鈴の夢の中に現れてこう言ったのだ。
その表情は険しく、同時に心配そうな瞳が華鈴に向けられていた。
蘇陵で華鈴にあの言葉を吐いた青年が、きっと髃楼だ。そう華鈴は確信した。
「これも、〈幽鬼姫〉が背負う宿命なのかもしれぬ……」
華鈴には何のことだか全く分からなかった。
しかし、蒼華大神が〈幽鬼姫〉の宿命だというのなら、華鈴が逃れることはできないのだろう。
ならば、受けて立つまでだ。
謎の具術師、髃楼。
幽鬼姫に執着していて、幽鬼を操る呪具を扱う。
髃楼の呪具に宿る力は、凛鳴や山神様が幽鬼化していた時と似た力と似ていた。
もしかすると、すべての幽鬼騒動の裏には髃楼の影があるのかもしれない。
髃楼は、幽鬼姫の絶望を望んでいるのだから。
(もしかして、初代幽鬼姫が救いたい人って……)
深紅山の陵墓内で見た美しい初代幽鬼姫。
彼女は死してなお、涙を流して祈り続けていた。
もし、その救いたい相手が髃楼なのだとしたら、自分を苦しめようとしている人を救うことになる。
初代幽鬼姫と髃楼は一体どういう関係なのだろう。
そもそも、初代幽鬼姫と髃楼とでは生きている時代が違う。
それなのに何故? 疑問は次から次へと湧いてくる。
華鈴の頭の中だけでは解決できそうになかった。
真っ暗な空を見つめても、答えは帰ってこない。
誰も、答えなど教えてくれない。
どうすればいいのか、どうするべきなのかは自分で考えなければならない。
これも、幽鬼姫である華鈴に与えられた宿命だというのなら、蓮や日比那に頼る訳にはいかない。二人のことは華鈴が守るのだ。
守られるのではなく、守る側になるのだ。
大切な人を守るだけの力を、きっと幽鬼姫は持っているはずだから。
華鈴は答えを探して空を見上げるのをやめた。
そして、覚悟を決めて部屋に戻った。
その後ろ姿を、蓮が心配そうに見つめていた。




