第二十九話 龍の舞
蒼龍祭二日目からは、踊り子たちが龍の舞を披露する。
時に激しく、時に優雅に、五人の踊り子たちは美しく舞う。
蒼華大神をイメージした青の衣装を身に纏う踊り子たちは本当に天女のようだ。
刺繍が細やかな青い布が腕や腰に付けられており、踊り子の動きに合わせて空気を含んでふわりと広がるようになっている。
「きれいですね!」
踊り子の美しさにも見惚れるが、楽器を演奏している楽師の腕も相当だ。
楽器に触ったこともない華鈴にはよくわからないが、心に染みわたる不思議な音色だった。
龍の舞のために作曲されたという蒼舞曲。
この曲と舞が合ってこそ、魔を払う力となる。
しかし、それはあくまで魔の存在である幽鬼を寄せ付けないようにするだけのもの。
鬼狩師のように幽鬼を滅することも、幽鬼姫のように浄化することもできはしない。
「当然だ。そうでなければ意味がない」
蓮は、美しい踊り子に見惚れることも感動することもなく淡々と言った。
闇に生きる幽鬼は美しいものを嫌う。
だからこそ、龍の舞は誰の目にも美しく、強い生命力を感じさせるものでなければならない。
「それはそうですけど……」
「なんだ?」
「今はまだ何の問題もありませんし、もう少し楽しんでもいいのでは……」
華鈴がぼそぼそと口にすると、蓮とは別のところから同意の声がした。
「ははは、その通りだよ! みんなが楽しんでるのにそんな怖い顔してちゃ雰囲気ぶち壊し……!」
「うるさい。だいたい何でお前が……」
「蓮様、私は日比那さんが来てくれて嬉しいですよ!」
蓮のお説教が始まりそうだったので、華鈴は慌てて会話に割り込んだ。
昨日、少し気まずい雰囲気のまま日比那と別れてしまったことを華鈴は気にしていたのだが、当の本人は平気な顔で現れた。
「ほら、幽鬼姫ちゃんもこう言ってるし、何の問題もないよね」
日比那はにっこりと笑うと、再び龍の舞に視線を移した。
蓮はかなり不機嫌な顔になったが、もうそれ以上何も言わなかった。
一日目の最後、踊り子たちが配った青い布地と提灯によって、蘇陵の街は赤一色から青一色へと変わっていた。
青に染まった街の中、広場に集まった多くの人々は美しい踊り子の舞と楽師の奏でる音色に心を奪われている。
それなのに、蓮は何にも心動かされた様子はなく、厳しい表情を浮かべている。
その原因はおそらく日比那なのだが、彼は火に油を注ぐようなことしかしない。
蓮の怒りが爆発する度に仲介に入っている華鈴は、いつまた蓮が怒鳴り出してしまうか気が気ではない。
(昨日、私に任せてくださいって言ったのに……!)
蓮はどうしても、華鈴と日比那を二人だけにしたくないらしい。
心配してくれるのは有り難いが、過保護過ぎるような気がする華鈴である。
華鈴は踊り子の素晴らしい舞を見ながら、昨日のことを思い返した。




