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幽鬼姫伝説  作者: 奏 舞音
第一章

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第十三話 堕ちた神

(蓮様が、先代の幽鬼姫の子?)


 幽鬼姫の力を持つ者が表に出てくることは、大昔、初代が人間に殺されてから一度もないという。

 だから、華鈴が生きる同じ時代に幽鬼姫がいたことを知らないのも無理はないが、こんな近くに先代幽鬼姫の関係者がいたとは。


「あぁ。それと、今だから言うが……山神は俺の親父だ。黙っていて悪かったな。神と人間の恋はご法度なんだ。母は山神に別れを告げたが、山神は母を今でも愛している。だから、山神は無意識に幽鬼姫の気配を探して祠をよく空けていた。御神体の側を離れれば、神としての力も弱り、幽鬼の影響も受けやすくなるってのに……」


「え……山神様がお父様で、幽鬼姫がお母様?」


 華鈴の頭の中はますますパニックになる。

 どうやら蓮が山神様に対して大きな態度をとっていたのは、鬼狩師としての立場からだけではなかったらしい。

 山神様が幽鬼姫である蓮の母を愛していたというなら、その力を継ぐ華鈴に優しかったのも頷ける。

 そして、山神様が堕神となった本当の理由は、愛する人のためだった。

 蓮の母のことを忘れ、山神様の力が満ちる祠にいれば、幽鬼の闇につけ込まれることもなかった。

 蓮はそのことを何度も忠告していたのだろう。

 しかし、山神様は諦めようとしなかった。

 神様だとしても、誰かを愛するという気持ちは人間と変わらないのかもしれない。

 ただ、人間と神の寿命は大きく違う。

 山神様は、先代幽鬼姫がいなくなった後も幽鬼姫への愛を忘れることができずに、苦しんでいるのかもしれない。


「母は山神の元を去ってから俺を身ごもっていることを知った。だから、山神は俺が自分の子どもだってことは知らない」


 蓮が静かな声で言った。

 つまり、山神様は息子の存在を知らず、先代幽鬼姫を探し続けているのだ。

 愛する者の血を引く蓮が側にいるのに、見つからない幽鬼姫を求めている。

 華鈴は思わず蓮に問う。


「山神様に、言わないのですか?」


 赤銀色の長い髪が強い突風に揺れる。

 それには構わずに、蓮はじっと濃い霧の向こう――山神様の方を見つめていた。

 転びそうになる華鈴の腰を支えてくれた手に、少し力がこもった。


「俺の母は、人間に殺された。さっきの村人たちと同じように、自分たちが守られていることにも気づかず愚かにも幽鬼姫である母を殺したんだ。幽鬼にとって救いとなる幽鬼姫が殺されたことで、幽鬼は暴走し、俺の生まれ育った村は滅んだ。酷い殺され方をした母は、強い憎しみを抱え、幽鬼となった。鬼狩師を目指していた俺が初めて狩ったのは、自分の母親だ。だが、幽鬼姫だった母を狩ったことで、俺は鬼狩師として強い力を得た……こんなこと、山神に言える訳がない」


 山神様は人間を守るべき神であり、人間を脅かす存在であってはならない。

 しかし、愛する人が殺されたと知れば、その心は容易に闇に染まるだろう。

 だから、蓮は自分が山神様の子であることも黙って、一鬼狩師として側にいたのだ。

 鬼の力を宿している、と言った時の蓮の表情の意味がやっと分かった。

 蓮は、自分が母を守れなかったことをずっと悔やんでいる。

 鬼狩師は、人々を幽鬼から守り、幽鬼を救う幽鬼姫を守るための存在だ。幽鬼姫のことは、幽鬼からではなく、主に幽鬼姫の力を恐れ、排除しようとする人間から守るのだ。

 蓮は、幽鬼姫である母を守るために、母の力になるために幽鬼に対抗する力を得ようとしていたのだろう。

 それなのに、守りたかった母は人間に殺され、幽鬼となった母を蓮が滅した。

 しかし、そのおかげで蓮は鬼狩師として強い力を得た。


「蓮様……」


 華鈴には、何と言えばいいのか分からなかった。

 ただ、必死に感情を抑えている彼の手を握る。

 その手は震えていた。

 自分が、蓮の心を支えることができたらいいのに……そう思って、彼を抱き締めた。

 蓮が華鈴を抱きしめてくれたように。


「確かに、この手で母を滅したはずなんだ。なのに、何故まだ存在している? ここに幽鬼を誘導したのは、母なのか?」


 幽鬼姫としての力を幽鬼になってもなお使えたのだとしたら。

 幽鬼を使って人間へ復讐することも可能かもしれない。

 そして、いまだ幽鬼姫を愛する山神様を利用した……。

 おそらく、先ほど幽鬼たちが騒いでいたのは先代の幽鬼姫の存在を感じたからだろう。


「俺は、また母をこの手で殺さなければならないのか?」


 一度治りかけた傷をまたさらに上から傷つけた時のように、蓮の心は血まみれだ。

 ずっと、そんな深い傷を抱えて生きてきたのに。

 さらにその傷口をえぐるようなこと、絶対にさせてはならない。

 華鈴が何とかしてみせる。

 幽鬼姫は、幽鬼を救うことができるのだから。


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