手紙の理由
手紙は決して文章だけを伝えるものではない。
朝起きて、目覚めのコーヒーを口にしながら外の空気を吸いに玄関の扉を開ける。
その際、目にとまったのはポストだ。中に何か郵便物が入っている。
郵便物を手に取りながら、家に入ると起床したレレイがコーヒーを口にして聞いてきた。
「それ何?」
「ああ。手紙だ」
「てがみ?手の神様のこと?」
「違う。eメールの現物みたいなものだ」
トムはソファーに座り、手に取ったハサミで封を切る。
「お前は知らないかもしれないが、電話もインターネットのない時代、こうして手紙で近況を話し合ったんだ」
「それにどんな意味が?」
「意味なんてないよ。ただ、知り合いが生きているか死んでいるのか確認したいだけかもしれない」
「変なの」
トムは自分の祖父と話しとき、同じことを言ったのを思い出す。
祖父はそのとき、ため息をつきながらトムに言った言葉が今でも面白いと思う。
「なんでも意味を求めるのは若者の悪い癖だ。俺たちの時代は馬鹿ばっかりだったが、自由な生き方って奴を知っていたよ。
意味があるのかないのかは結果論だろ?」
「それ、お爺ちゃんが言っていた言葉、そのまま」
「ハハ、バレたか」
「昔はそうだったけど、今は違うし。便利なものを使わないと損。
限られた時間は有効活用しなければならない。ならば、無駄な時間は極力減らすべき」
トムは何を言っても無駄だと悟り、手紙を読み始める。
途中、トムがにやけ顔を見せ、気になったせレレイはトムに尋ねる。
「トム、どうしたの?」
「読んでみろよ。レレイ」
レレイはトムから渡された手紙に目を走らせる。
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来週の日曜日、クリスとデートしたいんたが、何かアドバイスをくれないか。
俺も考えたんだか、これていいのか分からなくて、迷走中だ。
デートプランを書いた紙も同封した。ダメなところがあったら、書き加えて返信して欲しい。
βy リーゼン
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「リーゼン、クリスが好きなんだ」
「そういうことらしいな」
「そっか」
レレイは少し落ち込んだ様子を見せ、オーブンに入れたトーストに合わせて目玉焼きを焼き始める。
トムはレレイの後ろ姿を見て、何かを悟ったような、どこか感慨深げな表情のまま窓を開けた。
「…………今日ぐらい妹に優しくするか」
手紙の投函、そのものに意味がある。