あしあと-8月22日(8ページ目)
この日はやることがなにもなく、私は布団の上でただ寝ていた。
窓を開けているので相変わらず蝉の鳴き声がうるさい。
暑いので寝ることもできない。
水分補給を少しずつしながら私は空を眺めていた。
その時だった。
電話が鳴った。
私は重い身体を起こし、受話器を取った。
「もしもし。」
男の声だった。少し低い。
「南風楓さんですか?」
私は頷くが、電話なので相手に伝わらない。
この時ようやく、電話を取ってはいけなかったと気付いた。
「もしもし?聞こえてますか?」
声を出そうと口を開ける。
だがなにも出ない。
しばらくの沈黙のあと、受話器から舌打ちが聞こえた。
「おい、聞いてんのか?シカトしてんじゃねぇぞ!返事しろや!」
男がそういうと、受話器から大きな音が聞こえた。
勢いよく受話器を置いたようだ。
誰だったのだろう?
私は怖くて布団に潜った。
すると、いつの間にか寝ていた。
辺り一面真っ黒な中、私は立っていた。
痛みはなく、生きている感覚がなかった。
歩いても歩いても、どこまで行っても暗闇だった。
光なんて一筋もない。
いつのまにか、足音が一つ増えている気がした。
私は怖くて振り向けなかった。
後ろから声が聞こえる。
あの電話の男の声だ。
待て、と何度も叫んでくる。
私はいつのまにか走り出していた。
息が切れようと、足が痛くなろうと走り続けた。
どれぐらい走り続けただろう。
呼吸が上手くできないぐらい走り続けた。
なのに、一向に距離が離れない気がした。
そして、突然私の足が身体から離れた。
左足が転がる。
私はバランスを崩して倒れた。
次第に右足も転がる。
もう走れない。
声がどんどん近くなる。
私は怖くて振り向けない。
声が耳元で笑った気がした。
私の首にひんやりした何かが触れた。
そして、変な音がした。
私はそこで目が覚めた。
全身汗まみれだった。
両足が上手く動かない。
その時、電話がまた鳴った。
電話の声と夢の声が頭によぎる。
私はただ震えながら電話が鳴りやむのを待った。