あしあと-9月7日(21ページ目)
いつも通り電車に乗る。
なぜか今日は足が痺れるので松葉杖を両手に。
いつもよりゆっくりと歩きながらあの豪邸の前まで来た。
だが、そこにはあの悲しい豪邸はなかった。
崩れた石の瓦礫の山だった。
唯一壊れていない壊れかけのベンチに座った。
座るというより、力が抜けてお尻がベンチに張り付くように落ちた。
どうして……。
私の口から音が漏れた。
目から水が滴る。
今まで我慢してきた涙だろうか。
溢れる涙を止めようと手で押さえるが、止め処なくそれは流れた。
私の中のなにかも崩れたようだった。
「馬鹿な連中がここで爆弾を爆発させたらしいな」
いつものように足音とともにその少年はやってきた。
青緑の目をした少年。
しかし、泣いてる私は振り返れなかった。
少年は泣いてる私に構わず言葉を続けた。
「結構気に入ってたんだけどな、ここ」
私の横を通り過ぎ、少年は瓦礫の前で足を止めた。
「こうして見ると、ただの石の塊だな」
座り込み、瓦礫を撫でている。
「人はこういうのを破壊と呼ぶ。でも、戻る、という言い方にはできないのかね」
私の泣き声と少年の声が混じりあっていた。
しばらく座り込んでいた少年は勢いよく立ち上がり、私に身体を向けた。
長い髪が身体に遅れて定位置に戻る。
髪に隠れていた目はそこにしっかりとあった。
「お譲ちゃん、壊れる、という事柄なんてないんだよ」
少年はとても良い笑顔でそう言った。
「この石の塊だっていつかは砂に戻り、地球の一部に戻るのさ。そうやって、物は全てなにかに変化している。その後もずっとなにかになり続け
て変化していくのさ」
私の涙はいつのまにか止まっていた。
「あなたと歳は変わらないじゃないの。お譲ちゃんなんて言わないでよ」
私は少し笑いながら少年に言った。
「そうだな、年齢なんて関係ないよな」
話が微妙に噛みあっていない気がしたがそこは気のせいということにした。
「飯田さんをこの村に来てもらうように言ってくれたのあなたよね?ありがとうございます。助かりました」
少年は少し驚いたようすを見せた。
「あいつ言ったのか」
そう言いながら私のほうへ歩いてきた。
「名前教えてくれないかしら?」
私がそう言っても黙ってこちらに歩いてくるだけだった。
そして、私の横を通ったとき、少年は自分の名前を言った。
「飛騨勇一という。じゃあな、お譲ちゃん」
その少年は通り過ぎた。
私は振り返らなかった。
きっとその少年はもういない。
そう思ったのだった。




