あしあと-9月4日(18ページ目)
青緑の目をした少年に言われた言葉が頭の中で反響している。
祭りの日に着ていた服を着ると、私は外へ出た。
相変わらずの日差しが私の皮膚を刺してくる。
私は野杉の家へ足を向ける。
震える足を一歩一歩進ませるのがやっとだった。
野杉の家へ近づくにつれて思い出す。
野杉の過去。
そして。
一度、野杉の家まで行ったときの記憶。
足だけじゃなく、身体まで震えている。
歯と歯が擦りあってる音が周りに聞こえているのではないかと思うほど。
なにをそんなに怖がることがある?
私は自分にそう言い聞かせる。
『……そんな………さん、でもそれじゃ………………楓ちゃんが……………わかりました…はい…………では……』
あの時の野杉の声が蘇る。
きっとあの白衣の男たちとの電話だ。
それしか思い当たらなかった。
私はなぜか両親の名前が思い出せない。
顔も声も思い出も。
なにも思い出せなかった。
ずっと寝たきりで誰とも話さなくて、ずっとあの薄暗い部屋にいたからだ。
それ以降の記憶が全くないのだ。
考えていると頭がくらくらしてきた。
木と木が絡み合って回る。
雲が空を掻き混ぜる。
蝉の鳴き声だけしか聞こえない。
私は目を回し、その場に倒れた。
目が覚めれば、そこは野杉の家だった。
「ああ、よかった。気がついたのね」
気がついた私に野杉は安堵した声を出した。
「驚いたよ。出かけようとしたら玄関前で楓ちゃんが倒れてるんだもの」
そうか、私は気力だけで野杉の家の前まで歩いてきたのか。
まったく記憶にない。
「ごめんね、心配かけて。もう大丈夫だから」
私はそう言って立ち上がった。
視界がぼやけ、身体が揺れる。
「ほら、寝てないとダメよ」
野杉は慌てて私の肩をおさえた。
「飲み物取ってくるから寝てて?」
そう言って野杉は出て行った。
どうやら起きるまでずっと看病していてくれたようだ。
私は申し訳なかった。
野杉を元気付けるためにきたのに……。
野杉はアクエリアスが入ったコップを手に持って帰ってきた。
「アクエリを薄めたものだよ。そのまま飲んだら塩分が多いらしいから」
私はありがたくそれを一口飲んだ。
「あのね、野杉」
私はそう言うと一息ついた。
呼吸を整える。
「また、あの場所へ行きたいの」
野杉はどこのことか分からないらしく、少し顔を傾けた。
「私の声が出たところ。あの時、道見えなかったから……」
実は昨日、どこを探してもあの場所へ行けなかった。
野杉がお気に入りの場所と言っていたのも思い出し、丁度良いと思って言った。
「いいよ、行こう。私も行きたかったんだよね」
野杉は笑顔でそう言う。
笑顔でそう言ってくれた。
分かっている。
本当は笑っていないことなんて。
無理して笑顔を作ってくれていることを。
でも、私は嬉しかった。
「いつ行こうか」
野杉は予定表らしき手帳を出し、日付を確認する。
「私はいつでも大丈夫だよ。野杉に合わせる」
私は言葉の一つ一つに気をつけて言った。
それに野杉はまた作り笑いをする。
「そうね……11日とかどう?」
私はすぐにそれを了承した。
私は九月十一日がとても楽しみです。




