あしあと-8月31日(15ページ目)
その日は快晴だった。
夕方になったら野杉が迎えにきてくれると言ってくれた。
だから私はこの日のために買った水色のワンピースを着て、長い髪を後ろでまとめた。
準備が終わってしばらく待つとチャイムがなった。
私は玄関まで行くと野杉がいた。
桃色の浴衣を着ていた。
美しいと思った。
私は靴を履いて外に出た。
相変わらず蝉が鳴いていた。
綺麗な夕日のオレンジが木を、葉を、道を、一面を染めていた。
「いいね、楓ちゃんのその服」
野杉は微笑んでそう言った。
「私なんかより野杉の浴衣姿すごいよ。なんで彼氏がいないのか不思議なくらいだよ!」
私は野杉の浴衣姿をもう一度見て言った。
そんな私の言葉を野杉は「こんなんにいるわけないでしょ」と笑った。
屋台はさまざまあった。
「適当に買って場所を取ろう。花火上がるよ!」
私はテンションがあがった。
「じゃあ焼きそば買おうよ」
焼きそばを指差して言った。
「お、いいね」
私たちは焼きそばを買うと次になに買おうか歩いてまわった。
わたがし。私はその屋台を見つけて私は食いつくように言った。
「野杉!あれ……」
指さす先にはわたがしの屋台があったのだが、それ以上に気になることが耳に入った。
わたがしの屋台の隣にいる二人組みの制服姿をした高校生がしゃべっていた。
「野杉のやつ、今年は女の子と歩いてるよ。しかも知らない子」
「もう男はこりごりなのかな」
「だからって女の子?嫌ねー」
そんな会話が耳に入ってきたのだ。
私は野杉の腕を引いてその場を離れようとした。
「うるさい!私のなにが分かる!」
野杉が怒鳴った。
電話のときに怒鳴った声とは違う声だった。
憎しみが込められたような声。
二人の高校生はその声に驚いてその場から去った。
周りの人が野杉を見る。
そんな野杉を見るに耐えられなかった。
私は野杉を引きずるようにその場から離れた。
いつのまにか周りは木だけになっていた。
「離して!」
いきなり野杉は私の手を振り払った。
私は驚いて野杉のほうを向く。
「おまえだって私のこと酷いやつだって思うんだろ!」
私は訳が分からなかった。
ただ、野杉の視線は私に向けられてないことだけは分かった。
「野杉……」
私はただそうつぶやくことしかできなかった。
そんな私を置いて野杉は走り出した。
私は呆然とした。
それだけならよかった。
昨日、一昨日と症状が出なかったのに、いきなり足が痺れたのだ。
その場に倒れこむ。
なんとか手で顔から倒れるのだけは避けた。
私は両手だけで身体を起こそうとした。
「おやおや、こんなところに可愛い子が」
その声は私の近くでした。
そして、その声は昨日の電話の声だった。
身体が震えた。
「なかなか野杉のやつがおまえの傍から離れないから近づくのが難しかったがな」
声はそう言いながら私の肩を持ち、仰向きにさせた。
そいつは高校生ぐらいだった。
私を跨ぐように立つ。
「ずっと後をつけたりしてたのに気づかないもんな。いや、気づいたが隠れたんだった」
そうか、何回かつけられている気がしたのは間違いではなかったのか。
「電話にはなんで出てくれなかったんだ?せっかくかけたのに。シカトなんてひどい」
「私に何の用よ……」
私はやっとそう言えた。
「何って、俺はおまえが好きなんだよ」
開いた口が塞がらなかった。
そいつは私に向かって手を伸ばしてきた。
その時だった。
「待て、沢木!」
野杉の声が響いた。
沢木と呼ばれた男が振り返る。
「野杉じゃないか。久しぶりだな」
「あんたの顔なんて見たくない!楓ちゃんから離れろ!」
沢木はニヤリと笑う。
「野杉と仲いいらしいな。いいことを教えてやろうか」
野杉が「やめろ!」と悲鳴をあげる。
私にはなにも聞こえなくなってきた。
蝉の鳴き声すら聞こえない。
沢木がなにかを言っている。
野杉が泣いている。
ごつん。
鈍い音がした。
沢木という男の頭から血が出ながら倒れた。
飯田が私のほうへ駆けて来たのを見たのを最後に私は気絶した。




