あしあと-8月30日(14ページ目)
昨日買った服を洗濯し、乾かしたので野杉が来る前にタンスに入れた。
やはりお祭りの日まで見せたくはない。
私は浮かれながら昼食を作っていた。
いろいろレシピを野杉からもらい、それを見ながら作ってみている。
オムライスだ。
卵が難しいと書いてある。
難しいのにも挑戦してみようと思いやってみているのだ。
だが、卵に挑戦することができなかった。
なぜなら、卵を料理する前に電話がかかってきたからだ。
私は急いで受話器を取った。
「もしもし」
その声を聞いた途端に眩暈がした。
いつかの電話で怒鳴ってきた声だ。
そう、確か八月二十二日の電話。
私は身体が震えた。
「またシカトか?」
あの時の怖さがよみがえる。
受話器が手から滑り落ちそうになる。
声を出そうにも震えて出ない。
「おい!!!」
その時だった。
受話器が手から消えた。
「あなたなによ!楓ちゃん震えてるじゃないの!誰なの!」
野杉の声が響いた。
振り返ってみると、野杉が受話器に向かって怒鳴っていたのだ。
しばらく受話器を耳に当てていたが、静かに私を見てこう言った。
「なにも言わずに切れたよ」
野杉は静かに受話器を置いた。
「大丈夫……には見えないね」
うずくまる私の背中を野杉はさすってくれた。
なんとか息を整えた私は電話の内容を話した。
と言っても言葉はそんなに多くはないが。
「楓ちゃんの名前と電話番号を知っているなんて……」
「私の電話番号はあの病院の人か野杉しか知らないはずよ」
「じゃあ病院の人?」
私は首を振った。
「きっと違う。私が声出せなかったこと知らなかったみたいだし」
「そうなんだ……」
私たちは唸った。
その後、野杉は夕食まで私の家に居てくれた。
また電話が鳴っても大丈夫なように。
しかし、結局その日はもうかかってこなかった。
それは良かったことなのだが、なにも分かったことはなかった。
私はもう電話がかかってこないことを願った。




