あしあと-8月29日(13ページ目)
テーブルの上にはそうめんと八月三十一日に行われる夏祭りのパンフレットが乗っていた。
そうめんは二人分。
「ねぇ、これ行こうよ」
野杉が笑顔で言った。
「私はいいけど、野杉は友達とかと行ったりしないの?」
私は邪魔になってないだろうか、と思った。
「楓ちゃんと行きたいんだって!」
「いや、私は嬉しいんだけどさ……」
ぶつぶつ言いながらそうめんを口に詰め込む。
少し照れくさかった。
「さて、私は今から部活に行ってくるね」
「うん、わかった。食器は洗っておくから」
「なんか姉妹みたいね」
野杉は微笑みながらそう言った。
野杉が部活に行ったあと、食器を洗いながら隣の飯田のことを思い出した。
声も出たことだし挨拶に行こうと決めた。
さっさと食器を洗いすませ、服を一応着替えると隣の家まで行った。
チャイムを鳴らすと、スピーカーから声がした。
「はーい、今いきますんで少しまってくださーい」
相変わらずだるそうな声を出す人だ。
ドアが開き、飯田がでてきた。
「隣の楓ちゃんじゃありませんか」
飯田の咥えている火のついてないタバコが上下に揺れる。
「あの、声が出るようになったので最初のとき、いろいろお聞きしたお礼と挨拶を……」
飯田は驚いてタバコを落としそうになった。
「おお、よかったじゃないか。あと、そんな堅苦しい感じじゃなくていいよ」
「あ、はい。あの時はありがとうございました。改めてよろしくお願いします!」
「おー、よろしくな。困ったときはいつでも言ってくれれば助けれることは助けるぜ」
私は大学生という大人がとても立派に思えた。
私よりもっともっと大人というものに見えた。
「そういやさ、楓ちゃんは今月末の夏祭りには行くのかい?」
突然話を変えられ驚いた。
「はい、友達と行きます」
「ほう、友達できたのか。よかったよかった。誰なんだい?」
「野杉優香さんです」
「野杉……あぁ、知ってるよ。ま、ここは狭いからね。みんな顔見知りなんだけどな」
飯田が一瞬変な表情をしたが、ただ考えていただけなのだろう。
「まぁ、楽しんでこいよ」
飯田はそう言いながら少し笑った。
私は礼をし、家に戻った。
家に帰ってから、夏祭りに着ていく服を買おうと思った。
金なら腐るほどある。
もっとも、金は腐らないけれども放置していたらただの紙とコインだ。
私はすぐに水色のワンピースを買った店へ向かった。
野杉に内緒で買って驚かしてやろうと思ったのだ。
さすがに浴衣なんて着るのは恥ずかしいので普通の服を買おうと思った。
涼しげな服を。
私は女の子っぽいな、と一人で笑った。
そして。
生きているのが楽しいと感じた。




