あしあと-8月25日(11ページ目)
七時のアラームが鳴り、私は目を覚ました。
相変わらず寝起きは足が痺れている。
私はカーテンを開けた。
快晴だった。
雲が一つもなく、綺麗な水色が空を染めていた。
私は朝食と薬を摂り、歯を磨いて服を着替えた。
昨日買ったワンピースは一度洗濯していた。
もう乾いているので、それを私は着た。
たまに吹く風がワンピースを通り抜けていく感覚がした。
松葉杖を一応持ち、私は出かける準備を終えた。
チャイムが鳴り、私は麦わら帽子をかぶると、玄関のドアを開けた。
「お、やっぱ似合ってるね。可愛いわ」
野杉は私を見るなりそう言った。
少し照れて私は下を向いた。
「ここからまっすぐ行ったら駅があるから、そこまで歩くよ」
野杉が指さした方向を見ると、どこまでも道が続いてるかのような一本道があった。
ひたすら歩いていたら小さな駅が見えた。
切符を買い、電車に乗り込んだ。
電車は小さく揺れたり大きく揺れたりしながらゆっくりと走った。
「久しぶりに電車に乗るわ。何年ぶりだろう」
野杉は外を見ながらそう言った。
私も電車なんて久しく乗ってない。
町から村へ、どんどん家が少なっていく。
田んぼや畑ばかりになり、線路にまで草が生えているようなところまで来た。
「次降りるよ」
野杉は私にそう声をかけた。
電車が止まり、私たちは降りた。
私は野杉の後を追いかけるように歩いた。
しばらく歩くと突然、野杉が振り返った。
「ねぇ、私がいいって言うまで目瞑ってて?」
私は頷くと、目を瞑った。
真っ暗な中、野杉が私の手を握ったのが分かった。
野杉に引っ張られていく。
暗闇の中、どこを歩いているのかもわからない。
「いいよ」
暗闇の世界に野杉の声が響いた。
私は目を開けた。
目の前に広がるどこまでも続く草原と、青い海のような空が水平線の彼方でつながっている。
その途中に、いつの時代なのか家が埋まっていた。
「わぁ……」
幻想的な世界に私は口を開けた。
「あれ?」
野杉は驚いたような声を出し、私の顔を覗き込んでいた。
私は野杉の不思議そうな顔を見ながら首を傾げた。
「ねぇ、楓ちゃん。今、声出なかった?」
私はその言葉に驚き、声を少しずつ出してみた。
「あ……ああ……声が………出せる………」
しばらく使ってなかったせいか、声が掠れているが、声が出たのだった。
「病気のせいで出せなくなったんじゃないの?」
「違うよ……いつの間にか……声が出なくなって……」
「そうなんだ…」
私はこの景色と、ここに連れてきてくれた野杉に感謝した。
「ありがとう」
私はこの言葉を絞り出すと、その場に倒れた。
心配そうな表情の野杉の顔がどんどんぼやけていった。




