あしあと-プロローグ(0ページ目)
予告動画的なものがありますのでよろしければ見てください。
https://www.youtube.com/watch?v=amtTKCHiJps
私はなんのために生きているのか。
誰もしらないし、私も知らない。
誰にも求められてない。
生きていてなんの価値があるのだろう。
私は目の前で話している白衣を着た男を見ながら考えていた。
白衣の着た男がこの部屋まで入ってくるなんてめずらしい。
その男が口を開いた。
「申し上げにくいのだが……君の余命は後約一ヶ月だと予測されている」
私はなんとも思わなかった。
予想できていたことだし、いつ死んでもおかしくなかった。
だが、次の言葉だけは予想できなかった。
「これから一ヶ月間、外で暮らしてもらう。それは君にとってもいいことだろう?」
私は目を大きく見開いた。
「君のおかげで様々なデータが取れた。だから、君には感謝している」
それはどうでもよかった。
「だから、君にはこれから一ヶ月の間でも外で幸せになってほしい」
どの口が言っているのだろう。
『外』にいけるのか。
私はもう『外』にはずっと行っていない。
どうせ死ぬなら草原で寝ころびながら死にたい。
私は期待を胸に膨らませた。
生きることはどうでもいい。
ただ、死ぬ場所は自分で選びたい。
「家族の元へ帰るかい?」
私は口を開いた。声は出なかった。
目が回るぐらい首をぶんぶん振った。
「そうか、じゃあこちらで別荘を用意しよう」
いつから?
それを聞こうとして、勢い余って車椅子から落ちた。
「明日、外へ連れて行こう」
白衣の男は私を車椅子に乗せる。
そう言って部屋を出て行った。
それは夏の最初の出来事で、最後の夏の出来事の物語だ。