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【完結済】ひごろこと  作者: 冬月 聖


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お兄ちゃんに似てる!?

 夏休みが始まって数日。平日のショッピングモールは賑わっていた。ファミリー層だったり学生だったり、様々な人たちが通路を行き交っている。


 その様子がレストランのガラス越しから見えるが、天夏(あまな)は一切目もくれず、食後のデザートを楽しんでいた。


(やっぱり甘いものは別腹ね。美味しい)


 じっくり味わいながらチョコレートパフェを口に運ぶ。

 テーブルを挟んで向いに座る妹の秋凪(あきな)はプリンアラモードを食べていた。その顔は幸せそうだ。

 天夏(あまな)はカバンの中にしまっていた携帯電話を取り出し、妹の姿を写真に収める。


 すると、秋凪(あきな)が不思議そうな顔をした。


「何で今写真撮ったの?」

秋凪(あきな)が幸せそうな顔で食べてたからついね」

「ちゃんと可愛く撮れてる?」

「撮れてるわよ」


 天夏(あまな)は携帯電話の画面を秋凪(あきな)に向け、写真を見せる。秋凪(あきな)は満足げに頷いた。その隣に座っている母の櫻子(さくらこ)も覗いてくる。


「いい感じに撮れてるじゃない」

「でしょ?」


 天夏(あまな)は明るい笑顔を見せ、携帯電話を元の場所に戻す。

 すると、母がクスッと笑った。


「自然と写真を撮るところ、冬也(とうや)に似てるわね」

「えっ!? 似てない! 似てるわけないじゃない!」

「似てるわよー。まあ、冬也(とうや)は度が過ぎてるけどね」


 母の言葉に天夏(あまな)は眉を顰める。度が過ぎている兄と少しでも似ているところがあるのは、どうも受け入れ難い。


「……というか、何でお兄ちゃんってああなの?」

「二人を溺愛してるからでしょ。天夏(あまな)が産まれた時からあんな感じよ」

「何かきっかけがあったとかじゃなくて?」

「特にこれといったことはなかったわね。常に『かわいい、かわいい』って言って率先して天夏(あまな)の面倒を見るくらいだったし。秋凪(あきな)の時も同じよ」


 天夏(あまな)秋凪(あきな)がまだ赤ちゃんだった頃を思い出す。確かに兄は、慣れた様子で秋凪(あきな)の面倒を見ていた。だらしない笑顔で「かわいい」を連呼しながら。


「おかげでお母さん助かったわ。でも、どうしてああなっちゃったのか……」

「本当ね……」

「お兄ちゃん、ずっとあのままなのかな」


 黙々とプリンアラモードを食べていた秋凪(あきな)が、その手を止めて話に入ってきた。

 天夏(あまな)はため息混じりの声を出す。


「きっとあのままよ。私と秋凪(あきな)と一緒に過ごすのがお兄ちゃんの老後の夢なんだって」

「お兄ちゃんと一緒に暮らしてもいいけど」

(いいの!?)

「私は瀬輝(ぜる)くんと結婚する予定だからどうなんだろうね」


 妹の発言には驚いた。年齢を重ねても兄と一緒に暮らしてもいいと言えることが、天夏(あまな)には理解できなかった。しかし、完全に瀬輝(ぜる)しか眼中にない様子はどこか微笑ましい。


「……そうなったら、瀬輝(ぜる)には同情しかないわ」

「お姉ちゃんはお兄ちゃんと暮らさないの?」

「結婚しても尚一緒に暮らすのはちょっと……たまに遊びに来る程度ならいいかもしれないけど」


 苦笑いを浮かべ、天夏(あまな)は止めていた手を動かしてチョコレートパフェを食べる。

 そうしながら、数年前のことを思い出していた。兄の過剰な愛情に嫌気が刺し始めた頃、恋人は作らないのかと問うたことがあった。すると兄は「作らない」と即答した。その後に発せられた言葉は、今でも耳に残っている。


「俺には天夏(あまな)秋凪(あきな)がいるから!」


 緩み切った表情は、改めて天夏(あまな)を呆れさせた。

 そんな兄と兄妹とはいえ、似ているのは嫌だと思ってしまう。


「ハァ……」


 自然と出た深いため息は、一生兄には届かない。






 レストランを出た三人は、モール内にある服飾雑貨を取り扱っている店に立ち寄っていた。可愛らしいデザインの靴下やアクセサリーなどが、多数並んでいる。


「見て見て!」


 弾んだ声につられて秋凪(あきな)を見ると、彼女は猫の顔が描かれた帽子を被っていた。立体的な耳も付いている。


「あら、似合ってるわね」

「かわいい〜」


 頬を緩ませ、妹に素直な言葉を贈る。すると、秋凪(あきな)が帽子を脱ぎながらこちらを見上げてきた。


「『かわいい』って言ったお姉ちゃんの顔、お兄ちゃんに似てた」

「え゛っ」


 思いもよらない発言に、天夏(あまな)は顔を引き攣らせる。


「……嘘でしょ……?」

「嘘じゃないよ。似てたよ……ちょっとだけ」


 気遣いなのか、最後の一言が小さく付け足された。それが余計に胸に突き刺さる。


「やっぱり兄妹ね」

「うぅ、ん……」


 肯定とも否定とも言えない声を発した天夏(あまな)は、ぎこちない笑みを見せた。


(顔まで似てるって言われたらどうしようもないじゃない……)


 複雑な心境を抱え、頭を悩ませる。

 しかし、例え兄と似た箇所がいくつかあっても、同じようにならなければいいのでは。そんな言葉が脳裏に浮かんだ。


(そうよ。そうすればいいのよ。というか、ずっと悩んでたら楽しくないから今は忘れよう)


 天夏(あまな)は気持ちを切り替え、目の前のことを楽しむことにした。

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