ゲームをしながら思い出す
冒頭、ホラーゲームをしています。
とある週末。
稜秩は連朱の家のリビングでホラーゲームをしていた。カーテンを閉め切った薄暗い室内には、テレビのスピーカーから流れる不気味なBGMが響いている。
このホラーゲームは、廃病院を舞台に、時折現れる幽霊たちに襲われないように肝試しをするものだ。
稜秩はテレビ画面に集中してコントローラーを操作する。今日初めてプレイするゲームということもあってか、とても楽しそうだ。分からないことがあれば、既に何度かこのゲームをプレイしている連朱に聞いている。
そして連朱は、隣に座ってその様子を黙って見ていた。
稜秩は、画面の中のキャラクターを上の階へ向かわせる。
階段を上ると、六歳くらいの女の子が目の前を左から右へ横切った。しかし、二人は特に驚きもしない。
「あれって追いかけてくるのか?」
「右に曲がったら途中で追いかけてくるから、まず左に曲がるのがいいよ」
連朱のアドバイスに従い、コントローラーを使ってキャラクターを左へ曲がらせる。病室が並ぶ廊下を進むと、一部屋だけドアが開いている病室があった。
室内に入り、手に持っている懐中電灯で辺りを照らす。ベッドが二つ置かれているだけだった。窓やベッドの下など一通り見た後、病室を出ようと振り返る。すると、病室の出入り口から入院患者と思われる男の幽霊が勢いよく現れ、襲われた。
「やべ、終わった……」
稜秩は画面に映る「GAME OVER」の文字を苦笑いで見、連朱に視線を移す。
「あれって入らない方がよかったのか?」
「うん。スルーしてナースステーションに行くのが一応正解。でも、病室に入っても瞬時に交わしてダッシュで逃げてナースステーションまで行く人もいるけどね」
「初心者には難しいやり方だな」
コントローラーを床に置き、両手を上げて伸びをする。集中していたせいで硬くなった体が解れた。
「でもこれすごい面白いな」
「でしょ? 父さんが最近買ってきたんだ」
「連朱のお父さんもホラー好きなんだっけ?」
「そう。夜な夜な一人でヘッドホンしながらやってるよ」
「すげーな。次は二人で別のゲームやろうぜ」
「いいよ」
頷いた連朱は立ち上がり、カーテンを開ける。明るい日差しがリビングに入ってきた。薄暗い空間にいたせいか、やけに眩しく感じる。
稜秩は少し目を細め、テーブルの上に置いていたお茶を一口飲む。そうしながら、明るくなった室内に視線を向けた。連朱以外の家族はそれぞれ仕事や用事で出払っている。
静かさを感じる中、ふと思った。久しぶりにこの家へ遊びに来たなと。そこで一つ小さな疑問が出てきた。
「……俺、最後に連朱の家に遊びに来たのっていつだっけ?」
「多分、中学生の時かな」
「そんなに経つか」
「高校に入学してからは稜秩の家で遊ぶことが多かったからね」
棚の中に収納しているゲームソフトを漁っていた連朱が、こちらを向いた。
「どのゲームやる?」
「連朱が決めていいぞ。俺さっき一人でゲームしてたし」
「うーん、どうしようかな」
迷う素振りを見せる連朱は二つのゲームソフトを手に取った。両手で持つそれを背中の後ろに隠し、見えないようにシャッフルし始める。
「稜秩、右か左か選んで」
「俺が選んでいいのか?」
「うん。どっちのゲームにするか迷ったから」
「じゃあ、連朱から見て右」
「右ね」
連朱が右手に持っていたゲームソフトが姿を現した。少し古いパッケージのそれは、複数人でミッションを熟し、閉じ込められた空間から脱出するゲームだ。これは、稜秩も何度かプレイしたことがあるものだった。
「お、懐かしい。小学生の時にやってたよな」
「うん」
ソフトをゲーム機にセットし、起動させる。聞き慣れた明るいBGMが流れてきた。当時の状況が蘇ってくる。
今のように二人でやったり、朱李も入れて三人でやったりもしていた。ゆるい雰囲気の脱出ゲームなので、常に和気藹々と笑いが絶えなかった。
懐かしさを感じながら、稜秩は連朱と協力してミッションを熟していく。
その最中、初めてこの家に遊びに来た時のことを思い出していた。あの日も、このゲームをやっていた。
それに付随して、二人が話すきっかけとなった出来事も自然と頭に浮かんだ。男子トイレで水をかけられ、全身びしょ濡れになった連朱を助けた日のことを。
(鮮明に覚えてんな……)
「稜秩、ありがとうね。あの時、俺のことを助けてくれて」
「……あぁ」
唐突な言葉にも関わらず、稜秩はすぐに理解した。僅かに声を漏らしながら、二人で同じ日のことを頭に浮かべていたのかとそっと笑う。
「あんなの、見過ごせるわけないからな」
「稜秩のおかげで今の俺がいると言っても過言じゃないよ」
連朱の口から発せられる言葉たちが戸惑いを連れてくる。心配になってしまい、手が止まった。
「……いきなりどうした? 何かあったのか?」
「ううん、何もないよ。ただ言いたいだけ。感謝してもしきれないけど」
連朱は穏やかな笑みを見せている。本当に言いたいだけのようだ。
こうやって時を経て改めて言われると、気恥ずかしいものがあった。稜秩は静かに頭を掻く。
「偶然通りかかったとは言え、連朱のことは気になってたから助けられてよかったよ」
「気になってたって?」
「一回、俺ら学校の下駄箱のところでぶつかってたんだよ」
「えっ、そうなの!?」
初めて聞く話に目を見張る連朱も手を止めた。
「そう。で、その時、連朱が上靴履いてなくて『何でだろう』って思ったんだ」
「ああ……それは……」
「いや、言わなくていい。そこからちょっと気になっててさ。その後のトイレの件で『そういうことか』って全部繋がったんだ」
「そっか。っていうか、俺ぶつかった時ちゃんと謝ってた……?」
「お互いほぼ同時に謝ってたから気にすんな」
稜秩がそう言った直後、テレビから軽快な短い音楽が聞こえた。ゲームオーバーのBGMだ。話に夢中でミッションを失敗したらしい。
二人は笑って顔を見合わせる。
「結構いいところまで行ってたのにね」
「もう一回やるか」
「そうだね」
ゲームをリセットし、最初から始める。先ほどとは異なるミッションが繰り出されるが、二人は終始楽しそうにそれらを熟していった。
稜秩が連朱を助けた話は、第25話「助けてくれた人」に書いてあるので、気になった方はそちらもチェックしてみてください。




