イメージチェンジ
天夏は、自分の部屋で咲季と一緒に双六で遊んでいた。今は咲季がリードしている。
順番が回ってきたので賽子を振ると、三が出た。駒を動かして、マスに書かれている文言を読み上げる。
「『雨が続き、髪のセットが上手くいかないので一回休み』……って、そんなことで休むんじゃないわよ」
双六に突っ込むと、向かいに座る咲季が「そうだね」と笑って頷いた。
「それにしても、現実もよく降る雨よね」
天夏は窓の外に視線を向けた。どんよりとした雲から、雨が途切れることなく降っている。それは、朝から変わらない景色だった。
「明日も雨みたいだよ」
「もう雨はいいわ。この双六じゃないけど、髪が広がって言うこと聞かないし」
ため息混じりの声を発して自身の髪に触れる。サラサラと触り心地はいいのだが、湿気を吸収しているせいでいつもより広がっている。
「それなら、たまにはウェーブ巻きにしてみるのはどう?」
「ウェーブ?」
突然の提案に顔を上げる。目の前の咲季は微笑んで首を縦に振った。
「うん! 絶対似合うよ!」
「ウェーブねぇ……」
天夏は小さく唸る。元々、癖毛が嫌だったせいでそういうアレンジはしてこなかった。しかし、咲季からの提案ということもあり、どうしようかと悩む。
答えは割とすぐに出た。
「……咲季、やってくれる?」
「うん! でも、初心者だから多めに見てね」
「大丈夫。私も初心者だから気にしないわ。アイロン取ってくるわね」
天夏は洗面所に向かい、棚に置いていたカールアイロンを手にして部屋へ戻った。持ってきたそれをコンセントに刺し、床に座る。
携帯電話で髪の巻き方を調べていた咲季が、該当ページを見ながらスタイリングを始める。
最初に天夏の髪のクセを直してから、巻く作業に移った。
今回は外巻きと内巻きを混ぜた、ミックス巻きを施していく。髪の毛を上下で分け、上の部分をピンで留めて下半分の毛先を外側に跳ねるように巻く。
それを全体に施すと、ピンで留めていた髪の毛を下ろし、外巻きと内巻きを交互に繰り返した。
全て巻き終えると手櫛で慣らし、スタイリング剤を揉み込む。
「出来た!」
一部始終を手鏡で見ていた天夏は、完成した髪型に惚れ惚れとする。
「これ可愛い」
「だよね! すごく似合ってるよ!」
「ありがとう」
「どういたしまして!」
咲季と顔を合わせてお礼を言い、鏡に映る自分の髪を再び見つめる。上品そうに見えるヘアスタイルが、胸をワクワクさせた。
(今度デートする時、この髪型で行こうかしら。巻き方の練習しなきゃだけど)
その時、哉斗は何と言ってくれるのか。考えるだけで緊張してしまう。
それを緩和させるように、咲季に問いかけた。
「咲季も髪巻いてみる?」
「いいの?」
「ええ」
「じゃあお願い!」
屈託のない笑顔を見せる咲季と場所を変わり、天夏はその髪を同じ工程で巻いていく。
しばらくして、咲季の髪も綺麗に仕上がった。髪型の効果もあり、より一層ほんわかとした雰囲気になった。
「咲季もすごく可愛い」
「へへ、ありがとう」
照れ笑いを浮かべる咲季も嬉しそうで、天夏は顔を綻ばせる。初めて髪を巻いたが、こういう髪型もいいなと思えた。
咲季が帰った数分後、出掛けていた冬也と秋凪が帰宅した。「おかえり」と声をかけると、妹の大きな目が丸くなる。
「お姉ちゃん、その髪可愛いね! お姫様みたい!」
「ありがとう。咲季がやってくれたのよ」
秋凪の例えに天夏は気恥ずかしくなったが、満更でもなかった。咲季に感謝する。
しかし、次に発せられた兄の言葉で気持ちが若干沈んだ。
「本当にお姫様だ! ティアラがあればいいのに! 待って、今写真撮るから!」
「いや、撮らなくていいわよ……!」
止めようとするが兄は聞く耳を持たず、物凄い勢いで携帯電話のカメラのシャッターを切り続ける。撮影中も冬也から「可愛い」や「こっち見て」など、言葉を投げかけられた。
そんな兄の要望にとりあえず応える天夏は、深いため息をつく。
すると、生き生きとした妹の声が飛んできた。
「お姉ちゃん! わたしもその髪型したい!」
「秋凪も?」
「うん! したい!」
「んー、じゃあ毛先だけね」
「やったー!」
秋凪は満面の笑みを浮かべ、リビングへ走っていく。
はしゃぐ姿を微笑ましく思っていると、冬也が瞳を輝かせながら興奮気味に言う。
「あとで二人の写真撮らせて!」
「あーはいはい好きにしてー」
感情のない声を発して兄を軽くあしらう天夏は、ヘアアイロンを取りに行くため自分の部屋に向かった。




