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運命の出会いっ!!

今回は瀬輝が中学生の時のお話です。 ※暴行シーンあり。

 蝉の鳴き声が響く午後、瀬輝(ぜる)は新しい自分の部屋で荷解きをしていた。あまりの暑さに、汗が滴り落ちる。


「暑〜……」


 開け放した窓から顔を出して風に当たる。だが、生温い風しか吹いてこない。


「涼しい風吹けよ〜……」


 ぼやきながら窓の外の景色を眺める。


「……」


 今日からここに住むんだなぁと住宅地を見渡し、ぼんやり思う。


「……そういや、中学校ってどこにあるんだろ?」


 改めて辺りを見回すが、学校らしき建物は見つからない。車でこの家に来た際も、学校は見当たらなかった。


「……」


 冒険心に駆られた瀬輝(ぜる)は残りの荷物を直ぐ様片付け、夏休み明けから通う学校を見に行くことにした。

 両親から中学校の場所を聞き、家を出る。


 住宅地を暫く歩いていると、野良猫が一匹、二匹と近付いて来た。


「やっぱ、どこの町に行ってもこうなるんだな」


 瀬輝(ぜる)は足を止めてしゃがんだ。猫たちが擦り寄ってくるので、その頭や体を撫でる。


「今日からこの町に住むんだ。よろしくな」


 挨拶をすると「ニャー」と返事が返ってきた。


 気の済むまで猫たちと触れ合った後、瀬輝(ぜる)は立ち上がってまた歩き出す。

 住宅地を抜ければ、コンビニエンスストアやカフェなどの店が立ち並んでいた。近くには川が流れ、河川敷では楽しげに遊ぶ子供たちや釣り人がいる。

 その様子を見ながら歩き続ける。

 途中、公園の前を通り掛った。


「……ん?」


 噴水のある公園だと思って通り過ぎようとした時、高校生らしき青年二人が小学生と思しき少年一人と話しているのが目に止まった。青年たちは少年から財布を取り上げ、中身を見ている。少年は泣きべそをかいていた。


(あれって、カツアゲ……!?)


 事の重大性に気付いた瀬輝(ぜる)は公園に入った。


「こいつ、七千円も持ってるぜ!」

「今時の小学生ってリッチだなー」

「か、返して……!」

「ちょっとくらいいいじゃん? また親から金貰えよ」


 そう言って、青年が財布からお札を抜こうとした時。


「おい!」

「あ?」


 二人の青年は、声のした方を向く。

 威圧的な態度にも臆する事なく、瀬輝(ぜる)は青年たちを見上げた。


「カツアゲとか、くだらねーことしてんじゃねーよ」

「カツアゲなんて人聞きの悪い。俺らはこいつにちょっと金を借りるだけだ」

「金貸してくれる人間が泣くわけないだろ。どう見たってカツアゲだ」

「お前、ヒーロー気取り?」

「くだらねーことすんなって言ってんだよ!」


 言い放った後、瀬輝(ぜる)は青年たちと睨み合う。ところが不意に視線を外し、青年たちの後ろを指差した。


「すげー綺麗なお姉さん!!」

「えっ!?」


 瀬輝(ぜる)の言葉に誘われ、青年らは振り返る。

 その一瞬の隙を見て、瀬輝(ぜる)は財布を奪い返した。


「誰もいねぇじゃ……あっ!」


 気付いた頃には、財布は少年の元に戻っていた。


「早く逃げろ!」

「ありがとう……!」

「てめぇっ!」

「逃すか!」


 その場を離れていく少年を追い掛けようと、一人の青年が駆け出す。しかし、瀬輝(ぜる)がその体にしがみつき、足止めする。


「離せ、ガキッ!」

「離さねぇっ!」


 瀬輝(ぜる)は振り解かれないようにと、腕に力を込める。


「クソガキッ!!」


 もう一人の青年が瀬輝(ぜる)の足を目掛けて蹴りを入れた。

 瀬輝(ぜる)は痛みに顔を歪め、地面に倒れ込む。

 休む間も無く、四方八方から蹴りが飛んで来た。腹、背、足。体中に激痛が走り続ける。


 瀬輝(ぜる)は頭を守るので精一杯だった。

 すると、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。徐々に近付いて来る。


「やべっ、警察だ!」

「逃げるぞ!」


 サイレンの音に気付いた青年たちは、慌てて逃げる。遠退いて行く二つの足音。

 それに合わせるようにサイレンの音も消えた。

 そして、駆け寄って来る足音。


「大丈夫!?」


 心配する声が聞こえ、ゆっくりと顔を上げる。


「……」


 瞬間、瀬輝(ぜる)は心を奪われた。自分を心配そうに見つめる人の顔に。


(何、この綺麗な人……こんなに綺麗な人、現実にいるんだ……同じ人類とは思えねぇ……)


 端麗な顔立ちの少年に釘付けになる瀬輝(ぜる)の顔に、赤みが差す。


「大丈夫……?」


 不安げな顔で美少年がもう一度聞いてきた。

 二度目の問いに瀬輝(ぜる)は我に返る。


「だっ、大丈夫、ですっ!! っていうか、警察はっ!?」

「ああ、あの音はこれだよ」


 美少年は自分の携帯電話の画面を見せる。そこには動画サイトに投稿されているパトカーのページが写っていた。


「これでパトカーのサイレンを大音量で流してたんだ。意外に効果があってよかった」


 美少年は安堵したように少し笑った。

 その表情に瀬輝(ぜる)はまた見惚れる。


(〝美形〟っていう言葉は、この人の為にある言葉だ。しかも、笑った顔もめっちゃカッコいい。ああ、何でこの人こんなにカッコいいんだろう……! 俺が女なら本気(マジ)で恋してる……! というか、惚れました! 顔とか声とか優しさとか、とにかく全てに惚れました! あっ、でも恋とかそういうのじゃなくて、憧れとか尊敬って意味です!)

「何であの人たちに乱暴されてたの?」


 瀬輝(ぜる)の心の声を知らない美少年が優しく問い掛けてきた。

 瀬輝(ぜる)はなるべく落ち着いて答える。


「あ、えっと……あいつら、小学生相手にカツアゲしてたんです。それで見ていられなくて止めに入ったら、ああなりました」


 先程の状況を説明しながら瀬輝(ぜる)は立ち上がる。そうした時、腹に痛みが走った。顔をしかめてよろける。

 バランスを崩して倒れる寸前、美少年が体を支えてくれた。


「体、痛む?」


 顔を上げれば、目と鼻の先に美少年の顔。心臓が激しく暴れ回り、体が一気に熱くなる。


(かっ、顔っ!! 近っ!! 近過ぎっ!!)

「一応病院行った方が──」

「そっ、そうっ、ですねっ……!!」


 瀬輝(ぜる)は声を上擦らせて慌てて立ち上がる。体の痛みなど、()うに忘れてしまった。


「たっ、助けて頂きっ、ありがとうございますっ!! 早速、病院っ、行ってきまぁすっ!!」


 瀬輝(ぜる)は顔を真っ赤にして公園から走り去る。


「……」


 残された美少年──連朱(めあ)は呆気に取られていた。


「……というか、俺何で警察呼ばなかったんだろ……普通そっちじゃん……」


 そう気付いた時には彼の姿は見えなくなっていた。





「引っ越し早々派手にやってんな」


 特に驚きもせず、母の涼華(すはる)が言った。


「カツアゲされそうな小学生がいたから、助けたらやられた」

「勇気あるな。とりあえず、鼻血何とかしろ」


 涼華(すはる)は偶然持っていたタオルを瀬輝(ぜる)に放り投げた。


「鼻血?」


 瀬輝(ぜる)は怪訝そうな表情で受け取ったタオルを鼻にあてた。タオルを離すと、血がベットリ付いている。


「えっ、何で鼻血!? 鼻はやられてないはず──」


 言い終わる前に、脳裏にあの美少年の顔が(よぎ)った。


(あの時顔が近かったから、それで……)


 瀬輝(ぜる)は一人納得し、ああいうことで本当に鼻血が出るんだなと実感する。

 そして、父が運転する車でまず病院へ向かった。

 ハンドルを握る陽智(ひさと)は、バックミラーに映る息子を見た。その姿は、高校の後輩だった妻と重なる。


「……昔の涼華(すはる)と同じだね」

「母ちゃんもよく鼻血出してたの?」

「うん。鼻だけじゃなくて口とか頬とか手足とか、色んなところを血に染めてた。といっても涼華(すはる)の場合は殴り殴られだったけど。その度に僕は心配してた。いつか死んじゃうんじゃないかって。だから瀬輝(ぜる)も人助けするのはいいけど、無理しない程度に、というか怪我しない程度にね」

「うん。心配かけてごめん。でも今日は俺を助けてくれた人がいたよ。その人がいなきゃ、俺もっとボコボコにされてた」

「その人は怪我しなかった?」

「してないよ」

「そっか。それは良かった」

「うん」


 頷いて瀬輝(ぜる)は窓の外を流れる景色に目を向けた。まだ見慣れない町並みの中で、彼の姿を探すように。





 病院では打撲と診断され、骨や内臓に異常は無いと聞かされた。

 病院を出た後は警察へ行き、同じような被害者を出さないようにと被害届を出した。


 そして帰宅すると、涼華(すはる)から「夏休みが明けるまで安静にしていろ」と外出禁止命令が出された。そりゃあそうですよねと、瀬輝(ぜる)は反論することなく大人しくそれに従った。






 そして、待ちに待った新学期。

 瀬輝(ぜる)は新しい制服に袖を通し、登校した。いつもはうるさく聞こえる蝉の声も、今日ばかりは気にならない。


(すげードキドキする……)


 担任の先生の後をついていく瀬輝(ぜる)は、緊張を解すように深呼吸を繰り返す。

 教室の前まで来ると体が震えた。


(大丈夫、大丈夫。落ち着いて、リラックスして……)


 自分に言い聞かせて、ざわつく教室へと足を踏み入れる。

 教卓だけを見つめて歩き、その横に付いて前を向いた。だから気付くのが遅れた。

 目の前の、あの時の美少年と目が合う。


「……あっ」


 声が、重なった。

 これは夢だろうか。瀬輝(ぜる)の胸が高鳴る。

 連朱(めあ)も驚いた顔をしたが、微笑んでくれた。

 それだけで「夢じゃない!」と嬉しさが込み上げてくる。


雫月麗(なつり)瀬輝(ぜる)です! よろしくお願いします!」


 (おの)ずと表情も声も、明るくなる。

 教室内は、歓迎の拍手に包まれた。

 瀬輝(ぜる)が席に着いた後は提出物の回収や、瀬輝(ぜる)に向けてクラス全員の自己紹介などが行われた。





 短い時間を経て、放課後。

 瀬輝(ぜる)は真っ先に連朱(めあ)の元へ向かった。


「あの時はありがとうございました!」


 礼を述べてから、瀬輝(ぜる)は深々と頭を下げる。

 周りのクラスメイトたちは二人を興味深そうに見た。


「そんな大袈裟だよ。体は大丈夫?」

「はい。打撲だけで済みました」

「そっか。大怪我にならなくて良かった。それに俺もお礼を言わないと」

「お礼?」

「あの時カツアゲされかけてた小学生、俺の弟なんだ」

「えっ……!?」


 連朱(めあ)の一言に、瀬輝(ぜる)は目を見張った。


「家帰って弟に話を聞かされた時、すぐにキミのことだってわかったんだ。弟を助けてくれてありがとう」


 連朱(めあ)は穏やかな笑みを浮かべた。


「……」


 瀬輝(ぜる)は不思議な巡り合わせを感じ、彼の笑顔を見つめる。



(俺、この人のそばにいたい!!)



 瀬輝(ぜる)の胸に強い思いが生まれた。

 言葉にせずにはいられない。


「先輩! 俺、一生先輩について行きます!!」

「へっ!?」


 瞳をキラキラとさせる瀬輝(ぜる)の突然の宣言に連朱(めあ)は驚いた。周りの皆も(どよ)めく。


 憧れを込めて〝先輩〟と呼ぶのは大袈裟かもしれない。しかし瀬輝(ぜる)はそれくらい、連朱(めあ)に惹かれていた。

 そして、様々な偶然が重なってこうして出会えた。


(こういうのを〝運命の出会い〟って言うんだろうな)



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