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【完結済】ひごろこと  作者: 冬月 聖


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88/123

合格発表

 桜の蕾が膨らんできた頃。

 教室の自分の席に座る連朱(めあ)は、朝から気が気ではなかった。どこか上の空で、早く十時にならないかなと思っていた。


 しかし、十時を過ぎても心を落ち着かせてくれる一報は入ってこない。心配になりながら、先生が板書する姿と時計を忙しなく交互に見る。


連朱(めあ)くん、どうしたの?」


 隣の席に座る咲季(さき)が声を潜めて話しかけてきた。内心驚いたが、連朱(めあ)はそれを表に出さずに控えめな声で答える。


「今日、朱李(あい)の高校受験の合格発表があるんだ」

「あ、そっか。今日だったね。朱李(あい)くんからの連絡を待ってるんだ?」

「うん……でもまだ来なくてさ。もう結果は分かってるはずなんだけど……」

「学校に見に行ってるの?」

「うん。父さんと一緒に」

「じゃあ、中々勇気が出なくてまだ見れてないのかもね」


 咲季(さき)の言葉に連朱(めあ)は、確かにそれもあるよなと頷いた。





 兄たちの話題に上がっている朱李(あい)は、悠閑(ゆうかん)高校の校門前でそわそわとしていた。その隣には父がいる。


「合格してますように合格してますように合格してますように……」


 両手で受験票を持ち、それを額に当ててぶつぶつと念じているが、足はその場に留まったまま。

 一方、合格者の番号が張り出された掲示板がある生徒玄関前からは、嬉しそうな声が飛んでくる。


「行かないのか?」


 無口で無表情が常である父が、静かな声で話しかけてきた。反応した朱李(あい)は父を見上げる。見慣れた表情が自分を見ていた。


「結果を知るのが怖くて……」

「そうか」


 その言葉を最後に、二人の会話は途切れた。朱李(あい)は足元に視線を落とす。


「……」

「……」

「……」

「ここにいても、怖さが倍増するだけだぞ」

「ゔっ……」


 父の鋭い言葉が胸に刺さる。


「確かにそうだよなぁ……」


 苦笑いを浮かべる朱李(あい)は、ジャンパーのポケットに入れていた合格祈願のお守りを取り出した。見つめていると、それをもらった時にちすずが言った言葉が脳裏をよぎる。


『課程は違うけど、同じ学校に通いたいからさ』


 彼女の想いと応援が、背中を押してくれた。


「……よし」


 意を決し、朱李(あい)は校門を潜る。その後に続く父は優しい眼差しをしていた。

 集まった人たちの後ろから掲示板を見つめる。


(4122番……4122番……)


 自分の受験番号を頭に浮かべながら、規則正しく並ぶ数字を目で追った。緊張で体中が脈を打ち、無意識に力んでしまう。

 そんな時、探していた番号──「4122」が瞳に映った。


「えっ」


 驚く朱李(あい)は、お守りと一緒に手に持っていた受験票を確認する。受験票に書かれた番号が、掲示板にも記載されている。


「……あった……」


 目を見開いて小さく呟く。すると、隣にいた父に頭をくしゃりと撫でられた。


「おめでとう」


 滅多に見られない父の微笑みが、この結果を現実だと教えてくれた。朱李(あい)の顔は次第に明るくなる。


「うん!!」


 曇りのない笑顔で頷く朱李(あい)は、掲示板の受験番号を携帯電話の写真に収めた。それをちすずや兄に送る。





 (しき)りに携帯電話を気にしながら休み時間を過ごす連朱(めあ)のもとに、メールが届いた。目にも留まらぬ速さで内容を確認する。


《合格したぁーー!!!!!!》


 勢いのある一文と添えられた写真が喜びを伝えてくる。それが連朱(めあ)の目頭を熱くさせた。

 近くにいた瀬輝(ぜる)たちが声を掛けてくる。


「先輩! どうだったんですか!?」

「……受かった……」

「本当!?」

「おめでとう!」

「おめでとうございます!」


 周囲は一気に祝福ムードに包まれた。みんながこうして祝ってくれる光景を、朱李(あい)にも見せたい。そう思いながら連朱(めあ)は溢れる涙を拭った。

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