合格発表
桜の蕾が膨らんできた頃。
教室の自分の席に座る連朱は、朝から気が気ではなかった。どこか上の空で、早く十時にならないかなと思っていた。
しかし、十時を過ぎても心を落ち着かせてくれる一報は入ってこない。心配になりながら、先生が板書する姿と時計を忙しなく交互に見る。
「連朱くん、どうしたの?」
隣の席に座る咲季が声を潜めて話しかけてきた。内心驚いたが、連朱はそれを表に出さずに控えめな声で答える。
「今日、朱李の高校受験の合格発表があるんだ」
「あ、そっか。今日だったね。朱李くんからの連絡を待ってるんだ?」
「うん……でもまだ来なくてさ。もう結果は分かってるはずなんだけど……」
「学校に見に行ってるの?」
「うん。父さんと一緒に」
「じゃあ、中々勇気が出なくてまだ見れてないのかもね」
咲季の言葉に連朱は、確かにそれもあるよなと頷いた。
兄たちの話題に上がっている朱李は、悠閑高校の校門前でそわそわとしていた。その隣には父がいる。
「合格してますように合格してますように合格してますように……」
両手で受験票を持ち、それを額に当ててぶつぶつと念じているが、足はその場に留まったまま。
一方、合格者の番号が張り出された掲示板がある生徒玄関前からは、嬉しそうな声が飛んでくる。
「行かないのか?」
無口で無表情が常である父が、静かな声で話しかけてきた。反応した朱李は父を見上げる。見慣れた表情が自分を見ていた。
「結果を知るのが怖くて……」
「そうか」
その言葉を最後に、二人の会話は途切れた。朱李は足元に視線を落とす。
「……」
「……」
「……」
「ここにいても、怖さが倍増するだけだぞ」
「ゔっ……」
父の鋭い言葉が胸に刺さる。
「確かにそうだよなぁ……」
苦笑いを浮かべる朱李は、ジャンパーのポケットに入れていた合格祈願のお守りを取り出した。見つめていると、それをもらった時にちすずが言った言葉が脳裏をよぎる。
『課程は違うけど、同じ学校に通いたいからさ』
彼女の想いと応援が、背中を押してくれた。
「……よし」
意を決し、朱李は校門を潜る。その後に続く父は優しい眼差しをしていた。
集まった人たちの後ろから掲示板を見つめる。
(4122番……4122番……)
自分の受験番号を頭に浮かべながら、規則正しく並ぶ数字を目で追った。緊張で体中が脈を打ち、無意識に力んでしまう。
そんな時、探していた番号──「4122」が瞳に映った。
「えっ」
驚く朱李は、お守りと一緒に手に持っていた受験票を確認する。受験票に書かれた番号が、掲示板にも記載されている。
「……あった……」
目を見開いて小さく呟く。すると、隣にいた父に頭をくしゃりと撫でられた。
「おめでとう」
滅多に見られない父の微笑みが、この結果を現実だと教えてくれた。朱李の顔は次第に明るくなる。
「うん!!」
曇りのない笑顔で頷く朱李は、掲示板の受験番号を携帯電話の写真に収めた。それをちすずや兄に送る。
頻りに携帯電話を気にしながら休み時間を過ごす連朱のもとに、メールが届いた。目にも留まらぬ速さで内容を確認する。
《合格したぁーー!!!!!!》
勢いのある一文と添えられた写真が喜びを伝えてくる。それが連朱の目頭を熱くさせた。
近くにいた瀬輝たちが声を掛けてくる。
「先輩! どうだったんですか!?」
「……受かった……」
「本当!?」
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
周囲は一気に祝福ムードに包まれた。みんながこうして祝ってくれる光景を、朱李にも見せたい。そう思いながら連朱は溢れる涙を拭った。




