表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】ひごろこと  作者: 冬月 聖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/123

告白した日

 とある週末。天夏(あまな)咲季(さき)の家に遊びにきた。咲季(さき)の部屋で漫画を読んだりゲームをしたりしていた。今は、中学校の卒業アルバムを二人で見ている。


「そんなに年数経ってないのに、懐かしく感じるわね」

「うん。一年生の時キャンプも楽しかったねー」


 話していると、咲季(さき)が考えるように視線を上に向けた。

 天夏(あまな)は不思議に思う。


「どうしたの?」

天夏(あまな)哉斗(かなと)くんが付き合い始めたのってこの頃だったかなーって思って」

「あ、そうね」


 咲季(さき)の一言で、天夏(あまな)は当時のことを思い返す。






 中学校に入学して同じクラスとなった哉斗(かなと)とは、稜秩(いち)たちを通してすぐに仲良くなった。週末はみんなで一緒に遊んだり、家も同じ方向だからとたまに二人で下校することもあった。

 特別、哉斗(かなと)を異性として意識することはなく、男友達の一人として接していた。


 しかし中学一年生の秋。それは突然だった。


 部活動が休みだった天夏(あまな)は、一人で帰ろうと上靴から外履へ履き替えた。昇降口から校門までの間には、テニスコートがある。

 ふとコート内に視線を送ると、哉斗(かなと)が部員の一人とボールを打ち合っている様子が見えた。ラリーは途切れることなく続いている。天夏(あまな)は思わず立ち止まって見入った。


 初めて見る光景ではないのに、目が離せない。フェンスの向こう側にいる哉斗(かなと)は、キラキラと輝いて見えた。真剣な表情に胸がときめく。


(今まで何回も見てるのに、何でカッコいいと思うのかしら……)


 疑問を抱きながらも、哉斗(かなと)を目で追った。


 しばらくして休憩時間に入り、部員たちが各々体を休める。

 天夏(あまな)は変わらず哉斗(かなと)を見ていた。すると、こちらに気付いた彼と目が合った。心臓が飛び跳ねる。


(き、気付かれた……! こっちに来る……!)


 駆け寄ってくる存在に逃げ出すことも出来ず、天夏(あまな)はその場でオロオロする。


天夏(あまな)、帰るの?」

「え、ええ……今日部活ないし……」

「そっか。帰り道気を付けてね」

「ありがとう……哉斗(かなと)も、部活頑張ってね」

「うん!」


 間近で哉斗(かなと)の笑顔を目にした瞬間、天夏(あまな)の胸の締め付けは強くなり、体中が熱を帯びた。


「じゃっ、じゃあねっ……!」


 絞り出すように声を発し、急いで歩き出す。そのせいか、哉斗(かなと)がきょとんとしているのも気付かない。


(今の何今の何今の何!?)


 天夏(あまな)は混乱しながら足早に歩く。


哉斗(かなと)の笑った顔見ただけでああなるって私どうしたの!? 何があったの!?)


 自問するが答えは帰ってこない。混乱は激しくなるばかり。


(いつも見てる哉斗(かなと)でしょ!? なのに何で私ときめいてるの!? そんな要素どこにあったの!?)

「ねぇ、キミ可愛──」

「うるさいっ!!」


 冷静さを欠いた天夏(あまな)は声を掛けてきた男子高校生に一喝し、そのまま歩き去った。


 帰宅する頃には少し落ち着きを取り戻していた。

 勉強机に向かって自分の気持ちを一つ一つ整理していくと、哉斗(かなと)のことが好きだと気付く。


哉斗(かなと)のこと好きになるなんて思ってなかった。というか、私も恋するのね……)


 初めての感情に驚きながら、机の上に置いていた折り畳み式の鏡を手に取る。朝しっかりとセットした髪型は少し崩れていた。


「……明日からはもっと入念にアイロン掛けよう」


 鏡の自分に向かって頷き、今日出された宿題に取り掛かった。



 翌日。

 天夏(あまな)は決めた通り、入念に髪にストレートアイロンを掛けた。髪以外の身だしなみも綺麗に整え、家を出る。


天夏(あまな)、おはよ!」


 登校途中、哉斗(かなと)の声が後ろから飛んできた。一瞬で脈が速まる。


「おお、はよう……!」


 天夏(あまな)は自分の挙動不審さに泣きたくなった。平常心を意識すればするほど、落ち着きがない。


「今日調子悪い?」

「えっ、そんなことないわ……! いつも通りよ……!」

「そう? ならいいんだけど」


 あまりそこへ気に留めない哉斗(かなと)をありがたく思う。その反面、いつも以上に真っ直ぐに整えた髪には気付いて欲しかったと悲しくなる。


 ぎこちない接し方は、数日間続いた。

 しかしこれではダメだと思い、天夏(あまな)は昼休みを使って咲季(さき)に相談することにした。

 人気のない校舎裏で、しゃがんでひそひそと話す。


「それから哉斗(かなと)の顔もまともに見られないのよ……」


 天夏(あまな)は膝を抱え、真っ赤に染めた顔を腕の中に隠す。

 隣に座る咲季(さき)は真っ直ぐ前を見ながら言葉を発する。


「それならもう、告白したらどうかな」

「そう考えてはいるけど、もしフラれたらその後すごく気まずくなりそうで怖い……」

「そっか……でも今もちょっと気まずい感じじゃない?」

「……そう見える……?」

「うん。何かギクシャクしてるなぁって思う」

「ゔー……」


 唸る天夏(あまな)はさらに顔を伏せる。完全に顔が見えなくなってしまった。

 咲季(さき)は静かに天夏(あまな)に視線を送る。


「珍しいね。天夏(あまな)がここまで思い詰めてるの」

「……友達として接してきた人を好きになったからかな……」


 呟くように言った後、深呼吸を一つした天夏(あまな)は少し顔を上げて咲季(さき)と目を合わせる。


「……頑張って、気持ち伝えてみる」

「うん! 応援してる!」


 頷く咲季(さき)の明るい笑顔は、天夏(あまな)に勇気を与えてくれた。



 その日の放課後、天夏(あまな)哉斗(かなと)を誘って下校していた。

 しかし、二人の間に会話はあまりない。


天夏(あまな)、何かあった……?」


 哉斗(かなと)が静かに問うてきた。

 言うならここだと、自分に言い聞かせる。


「……哉斗(かなと)に、言いたいことがあるの……」


 天夏(あまな)は立ち止まり、哉斗(かなと)と正面で向き合う。心配そうにしている顔が見えた。


「私、哉斗(かなと)のことが好き」

「へっ!?」


 哉斗(かなと)の声が周囲に響いた。それ以外の音は聞こえない。


「……それって、友達として……?」

「違う。男として」


 天夏(あまな)は即答した。

 かと思えば、歩き出す。


「えっ、どこ行くの!?」


 慌てる哉斗(かなと)に腕を掴まれ、足が止まる。


「帰るの。言いたかっただけだし」

「僕、まだ何も答えてないよ」

「……」

「……僕も天夏(あまな)のことが好きだから、同じ気持ちなの嬉しい」


 哉斗(かなと)が発した言葉に目を見開く天夏(あまな)は顔を上げ、振り返る。真剣な表情が、そこにあった。


「……本当……?」

「うん。それに、すごくびっくりしてる……」


 恐る恐る問うた言葉に頷く彼は静かに呼吸を整えた。掴まれた手からは、激しい鼓動が伝わってくる。


「……天夏(あまな)のことは、初めて見た時は綺麗な子だなとしか思ってなかったけど、一緒に行動していくうちに良いなって思うようになったんだ」


 ゆっくりと話す姿を見つめていると、腕を掴んでいた手がそっと離れた。天夏(あまな)はまた哉斗(かなと)と向き合う。


「でも僕は、稜秩(いち)連朱(めあ)みたいにカッコいいわけじゃないから相手にされないと思って、ずっと諦めようとしてた。だから今、嬉しさと驚きが入り混じってる」


 哉斗(かなと)は照れ笑いを浮かべていた。天夏(あまな)もつられてそっと笑い、胸に手を当てる。


「よかったぁ……フラれるかと思ってたわ」

「あ、もしかしてここ最近僕に対してよそよそしかったのって、そのせい……?」

「そうよ。ごめんね」

「原因が分かったから気にしてないよ」


 二人は目を合わせると、小さな声で笑い合った。






「──で、その後家に帰ったらすぐに咲季(さき)に連絡したのよね」

「うん、あたしも覚えてる! 嬉しかったなぁ」


 にこにこする咲季(さき)を見て、天夏(あまな)は改めてお礼を言いたくなった。


「あの時も言ったけど、本当にありがとう。咲季(さき)のおかげて自分の気持ち伝えることができたわ」

「どういたしまして!」


 明るい声も笑顔も当時と変わらない。それが天夏(あまな)をほっとさせる。咲季(さき)がそばにいてくれてよかったと、心から思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うらやましい~! 自分にはこんなの無かったもん! いいなあ~♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ