重なる光景
遊園地と水族館からバスで学校へ戻ってきた咲季たちは、学校を出た後にファミリーレストランで夕食を食べていた。
「八保喜がもうすぐ着くらしいんだけど、みんなを連れて行きたいところがあるんだってさ」
食後のデザートを食べているところに、稜秩の声が四人の耳に届く。
八保喜はこの後、連朱たちを車で家まで送る役割を担っている。
「え、どこ?」
「さあ? 着いてからのお楽しみってやつじゃね?」
隣に座る瀬輝と稜秩のやり取りを聞きながら、連朱も考える。思いついたのはショッピングモールやアミューズメント施設だった。
(どこだろう。楽しみだな)
期待を胸に、食べかけの杏仁豆腐をスプーンで掬った。
食事を済ませた五人は駐車場で待つ八保喜の元へ向かった。ワゴン車に乗り込む。
「これからどこに行くの?」
「着いてからのお楽しみじゃ」
咲季の問いかけに八保喜は笑みを浮かべ、車を走らせた。
二十分ほどかけてやって来たのは、年中開催されているイルミネーション会場。車を降りて入口近くまで来た連朱は呟くように声を発した。
「俺、一回もここに来たことなかったなぁ」
「俺も今日初めてです!」
「私もー」
嬉しそうに手を上げる瀬輝に続き、天夏も同調した。
「え、じゃあ来たことがあるのって俺らだけ?」
「みたいだね」
「それなら尚のこと、ここに来た甲斐があるのう」
六人は談笑しながらゲートを潜り抜け、会場内へ入った。
初めに目の前に広がったのは草原を思わせる淡い緑。進行方向に向かって順番に光が点滅し、風に吹かれてそよぐ草のようになっている。
そのまま進むと、川を跨ぐ橋が見えた。赤い太鼓橋がより赤く輝いている。
「すげぇ! 川の中に紅葉がある!」
瀬輝の弾む声につられて連朱たちも川へ視線を向ける。実際に水が流れている川底には、赤い光を放つ紅葉がいくつもあった。
この川は春は桜、夏は向日葵のように、季節によって装飾が異なる。
連朱は水中で揺らめく赤色の中に、扇形の黄色を見つけた。
「あ、イチョウもある」
「隠れ何とかみたいね」
「そうだね」
静かに聞こえた天夏の言葉にクスリと笑う。沢山ある紅葉に比べてイチョウはごく僅か。それを全て探し当てるのも楽しそうだと思った。
橋を渡って少し歩くと、トンネルが現れた。中は白い電飾が不規則に散らばっていて、時折流れ星のように光が動いた。
「ここ、稜秩だと手が届きそうだね」
連朱は天井に手を伸ばした。身長が178cmある自分でも背伸びをしても届かない高さ。
「余裕」
声の方を見ると、自慢げな顔で天井の電飾に触れる振りをしている稜秩がいた。背伸びをしなくても、手と電飾の距離は0になる。
「その顔ムカつく……!」
感心していると、すぐ近くで瀬輝が言葉を吐いた。それを受けて稜秩が意地悪そうに笑う。
「悔しかったら頑張れ」
「こっちは全力で頑張ってんだよ!」
「瀬輝くん大丈夫だよ。成人しても身長伸びる人っているから焦らなくても」
「おぉ、おう……」
咲季の落ち着いた物言いにまごつく瀬輝を見て、連朱は思わず笑ってしまった。声は出さなかったが、咄嗟に口元を手で隠す。
それを稜秩が見逃さなかった。
「瀬輝を見て連朱が笑ってるぞ」
「は!? そんなわけないだろ!? ね、先輩!」
「え、えーっと……ごめん」
隠せないと悟り、正直に謝る。
瀬輝はどこかショックを受けているようだった。
「でもバカにしたとかじゃなくて、かわいいなって思って笑っただけだから……!」
「そ、それならいいです」
少し恥ずかしそうにする顔を見て、連朱はひとまず胸を撫で下ろして歩く。
楽しげに笑う五人の後をついていく八保喜は、その様子を微笑ましく見ていた。
トンネルを抜けると、道の脇を柔らかく照らすキャンドルのイルミネーションがあった。灯りはゆらゆらと揺れている。
(キラキラしたのもいいけど、こういうほんのりと明るい感じが好きだなぁ)
連朱はズボンのポケットから携帯電話を取り出し、50cm間隔で置かれているキャンドルを写真に収めた。
歩いている道沿いに川があり、向こう岸にはライトアップされた城が建っている。その周りには、タキシードとドレスを身に纏った男女や動物の人形たちがいる。
「……もうすぐじゃの」
不意に八保喜が言った。腕時計を見て時間を確認している。
「何がもうすぐなんですか?」
「お城の方を見ていれば分かるよ」
八保喜に促され、連朱たちは城に視線を送る。
間もなくして城の鐘が鳴り、軽快な音楽が流れた。それを皮切りに、周りにいた人形たちが手を取り合って踊り始める。小さな舞踏会だ。
「三十分に一度踊り出す仕掛けになってるんじゃ」
八保喜の楽しそうな声を聞いていた連朱は、目の前の光景を天神地下街で見たいと思っていたからくり時計と重ねた。
内容は違えど一定時間になれば動き出すそれらは、心を楽しませてくれる。
人形たちの舞踏会は二分ほどで終了した。
(いいもの見たな)
元の位置に戻った人形たちを見つめる連朱は笑みを浮かべ、城の写真を撮る。シャッターを切りながら、動画も撮っておけばよかったなと少し後悔する。
「先輩、さっきの動画に撮ったんですけどいりますか? 途中からですけど……」
「え、欲しい!」
「じゃあ、あとで送りますね!」
「ありがとう」
瀬輝からの思わぬ言葉に驚きつつも心が躍った。
足取り軽く、次へ進む。
家の前で車が止まると、連朱は送ってくれた八保喜にお礼を言って下車した。
次第に遠くなっていく車を見送る。ふと、今日一日のことが脳裏をよぎった。時間を忘れてみんなで遊んだ遊園地。自分に似たラッコ。周囲を彩る鮮やかなイルミネーション。時計仕掛けの舞踏会。
その一つ一つが胸をいっぱいにさせる。
「楽しかったな」
自然に声に出た言葉を耳にしながら、いつか天神地下街のからくり時計を見に行こうと心に決めた。




