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【完結済】ひごろこと  作者: 冬月 聖


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まさかの

 猫たちに朝ごはんをあげ、制服に着替えた瀬輝(ぜる)は机の上に置いたスクールバッグを手に取った。ファスナーを開けて中を確認する。教科書やノート、筆記用具の他に、不織布のラッピングペーパーに包まれたものが入っている。


(チビッ子、どんな反応するかな)


 微笑む瀬輝(ぜる)の胸はワクワクしていた。


 それは、昨日のこと。






 先日、咲季(さき)が描いた瀬輝(ぜる)の愛猫たちの絵が写生画コンクールで入賞したことを知った。「おめでとう」の言葉だけでは足りず、瀬輝(ぜる)咲季(さき)に何かプレゼントをしたいと考えた。


 そこで放課後にショッピングモールへ行き、プレゼントを選んでいた。何軒か店を回って探していたのだが、ピンと来るものにまだ出会えずにいる。


(かわいいものは沢山あるんだけどなぁ……)


 頭を悩ませながら様々な商品を見ている瀬輝(ぜる)の目に、ソープフラワーが映った。立ち止まってじっと見つめる。


(……こういうのって、男友達からもらって嬉しいんだろうか。彼氏とか同性の友達ならしっくり来るんだけど……)


 瀬輝(ぜる)はうーんと唸り、止めていた足を動かす。


(まあ、チビッ子なら何も気にせず受け取ってくれると思うけど)


 そう確信はあるのだが、瀬輝(ぜる)の中では「これではない」という気持ちが強かった。


 隣にある雑貨屋にも入り、女性向けのコーナーへ向かう。


 その途中だった。棚に陳列されたハンカチが目に止まった。水色のハンカチに黒猫の刺繍が施されている。

 それは、一瞬にして瀬輝(ぜる)の心を射止めた。


(何これ、すげーかわいいんだけど!!……って、これ完全俺用じゃん……)


 そう思いながら、同じシリーズの他のハンカチにも目を向ける。犬やペンギンなど、人気の動物のが並んでいる中に、うさぎもいた。


 オレンジ色のうさぎが、淡黄色(たんこうしょく)のハンカチの端で座っている。

 それを見つけた瀬輝(ぜる)は「これだ」と思い、迷わずそのハンカチを手に取ってレジへ向かう。


「いらっしゃいませ。ご自宅用ですか?」

「いえ、プレゼント用です」

「かしこまりました。ラッピングの種類を選べますが、どちらになさいますか?」


 店員の案内に従って、見本としてカウンターに置かれたラッピングペーパーに視線を向ける。種類は花柄、星柄、水玉、唐草模様の四つ。

 その中から、咲季(さき)っぽい模様を選ぶ。


「花柄でお願いします」

「かしこまりました」


 瀬輝(ぜる)は会計をし、ラッピングされた商品を受け取った。


「ありがとうございましたー!」


 店員の明るい声に会釈をし、店を出る。


(何か、明日が楽しみだな)


 そう思う瀬輝(ぜる)の心は弾んでいた。






 その気持ちを抱えて連朱(めあ)と一緒に登校した瀬輝(ぜる)は荷物を置くのも忘れて、天夏(あまな)稜秩(いち)と話をしている咲季(さき)のもとへ向かった。


「おはよ!」

「おはよー」

「あのさ、チビッ子に渡したいものがあるんだ。コンクールに入賞したお祝いにさ」

「ありがとう! 実はあたしも、絵を描かせてくれたお礼に瀬輝(ぜる)くんに渡したいものがあるんだー」

「えっ、マジで?」


 瀬輝(ぜる)は少し目を見開いた。まさか同じことを思っていたとは、と静かに笑う。

 咲季(さき)がバッグの中を漁っているのをチラリと見ながら瀬輝(ぜる)もプレゼントをバッグから取り出す。


「はい」


 そう言って、瀬輝(ぜる)咲季(さき)は同時にプレゼントを差し出した。


(──んっ!?)


 瀬輝(ぜる)は、咲季(さき)が差し出してきたプレゼントを凝視した。自分が持っているものと同じ大きさで、既視感のある星柄のラッピングペーパー。


「ありがとう!」

「お、おう。こっちこそありがとう」


 咲季(さき)のお礼の言葉にハッとし、瀬輝(ぜる)は差し出されたプレゼントを受け取る。ついさっきまで持っていたプレゼントと同じ感触だった。


「開けていい?」

「うん」

瀬輝(ぜる)くんも開けていいよ!」

「おう」


 嬉しそうに訊いてくる咲季(さき)に頷きを返し、瀬輝(ぜる)咲季(さき)からのプレゼントを開けてみる。

 そこには、昨日瀬輝(ぜる)が一目惚れをした猫のハンカチが入っている。


(マジかよっ!!)

「これ、昨日お店で見たハンカチだ」


 咲季(さき)も驚いたような顔をしている。


「俺ら、同じ店で同じものを買ってたみたいだな……」

「だね。でも嬉しいよ! これ買おうかなって思ってたものだから」


 そう言った咲季(さき)の表情は本当に嬉しそうだった。瀬輝(ぜる)は安心する。そうしながら、そこまでほぼ同じ考えだったのかと驚く。


 二人の様子を見ていた天夏(あまな)たちは、興味深そうにそれぞれのハンカチに目を向けていた。


「お揃いだね」

咲季(さき)の後をつけて同じものを買ったの?」

「そんなことしねぇよ! ただの偶然だ!」


 天夏(あまな)の冗談に少し恥ずかしさを覚えた瀬輝(ぜる)は、一切言葉を発しない稜秩(いち)を見た。二人のハンカチを見つめる表情からは、感情を読み取れない。

 慌てて稜秩(いち)に声を掛ける。


「これ、普通のプレゼントで、特別意味はないからな……!」

「分かってるよ」


 稜秩(いち)の声は穏やかだった。瀬輝(ぜる)は胸を撫で下ろす。

 そして咲季(さき)に視線を移すと、嬉しそうに笑っている顔が見えた。それだけで「買ってよかった」と思えた。






 その翌日。


「ねぇ見て見て! これ、いっちーとお揃いのペンなんだよ!」


 休み時間に咲季(さき)が満面の笑みでそれを見せてきた。パステルピンクのボールペンは、光の加減でキラキラと輝いている。


「へぇ。かわいいじゃない」

「でしょ! 昨日買ったんだー」

稜秩(いち)のは何色なんだ?」

「俺は青色」


 偶然なのか、稜秩(いち)は胸ポケットに入れていたボールペンを取り出して見せてきた。

 それを目にした瀬輝(ぜる)は顔を引き攣らせて稜秩(いち)を見上げる。


「……稜秩(いち)、昨日のこと気にしてる……?」

「別に」

(絶対気にしてる! すげー気にしてる!! ごめん!!)


 たった一言だったが、瀬輝(ぜる)はそう確信した。

 今回のプレゼントは咲季(さき)のことを思えば嬉しくなるが、稜秩(いち)のことを思えば申し訳なくなった。

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