ホットミルクの効果
夜が明け、カーテンの隙間から溢れる朝日で明るくなった部屋に、オルゴールのアラーム音が響き渡った。
静かな音色で目を覚ました連朱はゆっくりと起き上がり、今自分がいる位置を確認する。
連朱の体は敷布団ではなく、フローリングにあった。横に二回転すれば布団の上に戻れる距離。
「俺、フローリングで寝た方がいいのかな……」
ため息混じりに言いながら立ち上がってアラームを止め、カーテンと部屋の窓を開けた。心地のよい風が入ってくる。
(旅行先とか誰かの家とかだと寝相が良いのに、家で寝る時は何でこんなに寝相が悪いんだろう……)
連朱は窓の外を見ながら思った。自宅での寝相の悪さは、小さい頃から何一つ変わっていない。一緒に寝ている家族を蹴飛ばす、布団から離れてあらぬ場所で寝ている、目覚めたら枕に足を向けていたなど日常茶飯だった。
心配した両親が連朱を病院に連れて行ったこともあったが、特に異常はなかった。
(子供の頃なら寝相が悪いのは当たり前みたいな感じだけど、さすがに高校生でこうだとなぁ……)
そう思う連朱の視界に、折り畳まれた状態のベッドが映った。
フローリングに布団を敷いて寝ると決めた日から、それは部屋の隅に置いている。おかげで、高いところから落ちる夢を見ることも、実際に落ちて体を打つこともなくなった。
しかし、両親にねだって買ってもらったベッドを使わずにそこに置いておくのは連朱にとっては心苦しいものだった。
(せっかく買ってもらったのに使わないのはさすがになぁ……でもベッドから落ちて怪我したくないし……そうだ)
連朱は枕元に置いていた携帯電話を手にし、寝相の悪さの原因について調べ始めた。該当ページには自律神経の乱れや睡眠環境が良くないことなどが原因として挙げられていた。
そして、改善方法として寝具を変える、寝る前に温かい飲み物を飲む、軽いストレッチをする、といったことがいくつか記載されていた。
「へぇ、こういうの考えたことなかったな」
この中から何かやってみようと思った連朱は、とりあえず寝る前に温かい飲み物を飲むことにした。
その夜、連朱はホットミルクを飲み、床についた。その胸は少しワクワクしている。
(明日どんな感じか楽しみだな。あ、でもこういう状態で寝るのは良くないか)
そう考え、ゆっくりと深呼吸をする。
それを何度か繰り返していると、徐々に眠気がやってきた。
明くる朝、決まった時間に目覚まし時計が鳴ると、連朱はすぐにアラームを止めた。
そして起き上がって体の位置を確認する。片足は敷布団からはみ出ているが、それ以外に寝相の悪さは見えない。
(……これは効果があったってことかな?)
思わぬ即効性に、連朱は少し嬉しくなっていた。この方法を続けてみようと意気込む。
その結果、多少の寝相の悪さはあったものの、フローリングの上で寝ているということはなくなった。
連朱は嬉しさのあまり、登校中に瀬輝にその話をした。
「──それで結構寝相が良くなったんだ!」
「ホットミルクの効果ってすごいですね」
「うん! これならまたベッドで寝られるかもしれない」
連朱は満面の笑みだ。嬉しさが表情にはっきりと表れている。
そして、隣で話を聴いている瀬輝はその姿に見惚れていた。




