表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】ひごろこと  作者: 冬月 聖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/123

浮気しちゃダメ

 週末のショッピングモールは混雑していた。店内の通路は広いとはいえ、すれ違いざまに人とぶつかってしまいそうになるくらいだった。

 瀬輝(ぜる)はふと、目の前を歩く母と手を繋いでいる小さな従妹(いとこ)──ひなたを見た。


 ひなたは涼華(すはる)の妹の子供。今日はひなたの両親が仕事で不在のため、彼女を預かることになったのだ。


 母の妹の子供ということで、瀬輝(ぜる)はひなたと赤ん坊の時から何度も会っている。元々子供好きということもあり、懐かれるのに時間は掛からなかった。


 そんなひなたはもう五歳。成長の速さには驚かされる。

 お気に入りのフクロウのリュックサックを背負って歩く小さな姿を、瀬輝(ぜる)は兄のような親のような気持ちで見つめた。

 すると、母から明るい声が聞こえた。


「ひなた、アイス食べるか?」

「うん! 食べる!」


 涼華(すはる)の言葉にひなたは嬉しそうな笑顔を見せた。

 それをかわいいなと思いつつ、瀬輝(ぜる)は少し呆れた表情をする。


「母ちゃんってひなたちゃんに激甘だよな」

「あたり前だろ。可愛いし小さいし華佳(はるか)の子供だし」


 華佳(はるか)とは涼華(すはる)の六歳下の妹だ。たった一人の妹とその家族を大切に思うからこその発言だと瀬輝(ぜる)は知っているが、自分がひなたと同じ歳の頃、母はこんなに甘くなかったと少し不満げに思う。


「ひたなばっかりに甘いから嫉妬してんのか?」

「し、してねぇよ! そんな歳じゃねぇし!」

「ちゃんと瀬輝(ぜる)の分も買うから怒んなって」

「……」


 これ以上何を言っても無駄だと悟った瀬輝(ぜる)は言い返すのをやめる。そして、心の中を読まれたような気がして恥ずかしかった。


 三人はアイスクリーム店でアイスを購入し、近くに設置されたカフェテーブルについた。


「悪い、ちょっとトイレ行ってくる」

「へーい」


 瀬輝(ぜる)は席を立つ涼華(すはる)を一瞥した後、目の前に座っているひなたを見た。

 ひなたはカップに入ったアイスをゆっくりと食べている。

 その仕草が瀬輝(ぜる)の胸をキュンとさせる。


(やっぱ子供はいいなぁ。可愛い)


 顔を緩ませてひなたの様子を見ながら瀬輝(ぜる)もアイスを食べていると、服を誰かに引っ張られた。驚いて振り返る。


秋凪(あきな)ちゃん……!?」


 思わず声が上擦ってしまう。膨れっ面の秋凪(あきな)がこちらをじっと見上げていた。何かを訴えている様子。

 その時、離れた場所から天夏(あまな)が追いかけてきた。


秋凪(あきな)、勝手にどっか行ったらダメじゃない!……ああ、瀬輝(ぜる)がいたのね」

「いや、納得するなよ」


 天夏(あまな)に突っ込んだ瀬輝(ぜる)は再び秋凪(あきな)に視線を向ける。不機嫌そうな顔がずっとそこにある。


瀬輝(ぜる)くん、その子誰?」

「へっ……!?」


 いつもより少し低い声を発した秋凪(あきな)に戸惑う瀬輝(ぜる)。不機嫌の理由はそこかと瞬時に判断した。

 慌てて説明する。


「この子は俺の従妹のひなたちゃん……! 秋凪(あきな)ちゃんより一歳下の子だよ……! 今日はひなたちゃんのお父さんとお母さんが仕事でいないから一緒にいるんだ……! あ、今トイレに行っていないけど、俺の母ちゃんも一緒だよ……!」

「ふーん」


 瀬輝(ぜる)の狼狽ぶりは、偶然パートナーに浮気現場を見られてしまった人のよう。

 そこに何も嘘はないのだが、秋凪(あきな)の不機嫌さは変わらない。

 そして、この状況を見てクスクスと笑っている天夏(あまな)の姿が瀬輝(ぜる)の視界の端に映った。


(面白がるなら何とかしてくれよ……!!)


 瀬輝(ぜる)は心の中で天夏(あまな)に訴えるが、当然届きはしない。

 すると、秋凪(あきな)が前のめりになって顔を近づけてきた。


瀬輝(ぜる)くん浮気しちゃダメだからね!!」

「えっ──」

「ね!!!!」

「う、うんっ……!」


 秋凪(あきな)の気迫に押されるまま、瀬輝(ぜる)は頷いた。

 それに満足したのか、秋凪(あきな)は離れていった。


 秋凪(あきな)と手を繋ぐ天夏(あまな)と視線がぶつかる。その顔は完全に面白がっていた。


「頑張って」


 その一言を残し、天夏(あまな)秋凪(あきな)は近くで待っていた家族のもとへ向かった。 

 瀬輝(ぜる)はそれをぐったりした様子で見送る。


「〝頑張って〟ってなんだよ……ひなたちゃん、ごめんね」

「ううん、気にしてない。瀬輝(ぜる)の彼女?」

「かのっ……!? いや、秋凪(あきな)ちゃんは俺のことを好きでいてくれているだけでそういうのじゃないよ……!?」

瀬輝(ぜる)も大変だね」

「え、あーうん……そうだね……」


 小さな子に同情され、瀬輝(ぜる)は悲しくなった。それと同時に、面倒なことになりそうなので、トイレから戻って来た母にはこのことは秘密にしようと思った。


(今度秋凪(あきな)ちゃんに会った時はどうなることやら……)


 その時になってみなければ分からないが、ある程度大変なことになるだろうと予想が出来た。僅かな頭痛が瀬輝(ぜる)を襲う。


 程なくして涼華(すはる)が戻って来た。


瀬輝(ぜる)はトイレ行かなくて大丈夫か?」

「あー、一応行っとく」


 そう言って瀬輝(ぜる)は席を立った。


 ひなたが先ほどの出来事を涼華(すはる)に話し、危惧した展開になることも知らずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ