表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】ひごろこと  作者: 冬月 聖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/123

初めて訪れた書店

 ある週末。

 稜秩(いち)は行ったことのない書店に行ってみようと思い立ち、自転車に乗って家から6kmほど離れた書店に来ていた。そこには近所の書店では見ない書籍もいくつかあった。

 目先の棚にはミステリーや恋愛などの小説がジャンルごとに綺麗に並んでいる。稜秩(いち)はそれらをゆっくりと見ていく。

 すると、一冊の本に目が止まった。


(あ、これ買おうと思ってたけど売り切れてたやつだ。ラッキー)


 以前から探していたホラー小説を手にし、また店内を見て回る。

 漫画コーナーにも寄ってみようかと思った時だった。


「いらっしゃいませ」


 丁度近くに来た店員の声が聞こえ、何の気なしにそこへ目を向けた。

 稜秩(いち)は久しぶりに見る顔に少し驚いた。進行方向には、咲季(さき)に好意を抱いていた人の隣によくいた人が立っている。

 その人──快風(はやて)も、驚いた顔で此方を見ている。


「……どうも」

「こんにちは……」


 稜秩(いち)は、前にもこんなことあったなと思いながら会釈をした。挨拶を返してくれた目の前の人の顔は、少しだけ引き攣っているようにも見えた。

 とりあえず話しかけてみる。


「ここで働いているんですね」

「はい。高校に通っている時からずっと」

「……」

「……」


 しかし会話は続かず、店内のBGMや足音、レジで接客をしている店員の声だけが聞こえる。

 それらに混ざるように快風(はやて)が商品の配列を直したり、台車に乗せた書籍を棚に並べ始めた。


 快風(はやて)から視線を外した稜秩(いち)の頭の中には、久しぶりに思い出した存在がいた。好きでも嫌いでもないが警戒する存在。最近は思い出すこともなかった。


「……あの人、元気ですか?」


 特に知りたいわけではなかったが、何となくそう聞いてしまった。静かな声はその場に響く。

 すると快風(はやて)が驚いたような表情を見せ、すぐに微笑んだ。


「元気ですよ」

「そうですか」

「……虹色(にじしき)のこと、気にしていたんですか?」

「全然」


 稜秩(いち)は間髪入れずに無表情で答えた。つい先程まで忘れていたのだから稜秩(いち)にとってそれは当然のことだった。


 間が一切なかった答えを聞いた快風(はやて)の顔は苦々しく笑っている。

 その顔を見ながら稜秩(いち)は続けた。


「このこと、あの人には言わないでくださいね。また動揺されても困るんで」


 伝えている途中、文化祭の準備期間中に虹色(にじしき)と男子トイレで偶然会った時のことが脳裏に現れた。虹色(にじしき)はビクビクしてぎこちなく動いていたが、それほど怖かったのだろうかとほんの少しだけ気になった。


 快風(はやて)が「分かりました」と頷いたのを見た稜秩(いち)は軽く頭を下げてその場から動いた。

 レジで会計をし、店を出て止めていた自転車のもとへ行く。


(いい本屋(場所)と思ったけど、今後来るか迷うな……)


 ため息混じりに思う稜秩(いち)は自転車の鍵を開け、それに乗る。


(……とりあえず、他の本屋にも行ってみるか)


 あらかじめ頭に入れておいた複数の書店の場所を思い出し、ここから近い店舗を目指してペダルを漕ぎ始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ