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【完結済】ひごろこと  作者: 冬月 聖


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春休み中のとある未明

 天夏(あまな)は何の前触れもなく目を覚ました。辺りは真っ暗。枕元に置いてあるデジタル時計に目を向けると、午前二時四十二分と示されていた。起きるにはまだまだ早いと、また目を閉じる。



 しかし、眠気はない。



 それでも天夏(あまな)は目を閉じたまま。意識は耳に集中する。自分の呼吸音だけが聞こえる室内。窓の外も静まり返っている。

 寝返りを打つと、パジャマと布団が擦れる音が響いた。


「……」


 眠れる気がしない。そう確信し、目を開けて枕元にある間接照明に手を伸ばした。スイッチを入れると、淡いオレンジ色が部屋を照らす。


(このまま起きていよう。何をしようかしら)


 ベッドから上体を起こして部屋を見回す。丁度、本棚が目に止まった。天夏(あまな)は静かに本棚の前に行き、本を選ぶ。手にしたのは『()()』という少年漫画。


 これは、ある名家に生まれた少年が、幼少期に突然いなくなった双子の兄を探して旅に出る話だ。四年程前から週刊少年誌で連載しており、今期のアニメとしても放送されている。


 咲季(さき)に勧められて読み始めたそれを何冊か手に取り、ベッドに横になりながら一巻から読み返していく。

 兄を探す旅に出たトアが、道中で知り合った少女のノルティアとひょんなことから旅を共にすることになる。


(ノルティアって本当可愛いわよね。最終的にはトアとくっつくんじゃないかしら。というかそうなって欲しい)


 思いを巡らせながら二巻へ移ろうとした時、天夏(あまな)喉の渇きを感じた。

 何か飲み物を取りに行こうと、静かに部屋を出る。みんなを起こさないようにそっと階段の電気を点け、音を立てずに階段を降りる。掛け時計の秒針の音がリビングから漏れてきている。


 それを耳にしながらリビングを通ってキッチンへ向かった。冷蔵庫から豆乳を取り出して戸棚にあった自分のコップに注ぎ、二口飲む。


 少し喉を潤した天夏(あまな)は豆乳を元の場所にしまい、自分の部屋へ戻った。

 コップは時計の隣に置き、漫画の続きを読み進める。





 それからどれくらい時間が経ったか。何気なく窓に視線を向けると、窓の外が明るくなってきたことに気付いた。

 天夏(あまな)は漫画を置いてカーテンを開ける。外は日の出間近だった。


 綺麗な空が広がっている。


 窓を開けると、心地よいゆるやかな風が頬を撫でた。


「こういうの、いいわね」


 呟いた後に深呼吸をする。新鮮な空気が体中に巡っていく。そう感じた。それと同時に心が弾んだ。


(今日は特に予定はないけど、ちょっとお洒落して出掛けようかしら。秋凪(あきな)も誘って……あー、お兄ちゃんって今日バイト休みだったわよね。ついて来そう……まあ、いいか)


 あれやこれやと考えていると、太陽の光が天夏(あまな)の顔を照らした。清々しい夜明け。


「楽しい一日になりそう」


 微笑む天夏(あまな)は早速、今日着る服を決めるためにクローゼットを開けた。

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