表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】ひごろこと  作者: 冬月 聖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/123

おくりもの

 もうすぐ冬休み。と同時に、クリスマスもやってくる。

 瀬輝(ぜる)秋凪(あきな)に何かクリスマスプレゼントをあげたいと考えていた。


(これは、前にお土産をもらったからそのお礼だ。特別意味があるとかではないからな)


 誰に対してなのか、心の中で言い訳をしながら雑貨屋に足を運ぶ。


秋凪(あきな)ちゃんが好きそうなものあるかな)


 瀬輝(ぜる)は店内を隈なくチェックする。帽子やカバン、キャラクターが描かれた小物など、様々な物が置かれている中〝いいな〟と思うものが見つからない。

 そんな折、クッションコーナーに気になるものを見つけた。猫型のクッションだ。


(すげーかわいいんだけど!)


 クッションに心惹かれた瀬輝(ぜる)はそれを手に取る。ふわふわとして、ずっと触っていたいと思うくらいに触り心地もいい。


(これ、いいな)


 すると、瀬輝(ぜる)の脳裏に秋凪(あきな)の笑顔が浮かんだ。無邪気に笑う顔。


(……秋凪(あきな)ちゃん、喜んでくれるといいな)


 その期待を胸に、瀬輝(ぜる)はレジへ向かった。






 十二月二十四日。午前中に終業式を終えた瀬輝(ぜる)は、天夏(あまな)と並んで歩く。一足先に冬休みに入った秋凪(あきな)が待つ家に行くためだ。その手には秋凪(あきな)へのクリスマスプレゼントがある。


「あー……緊張する」

瀬輝(ぜる)でも緊張するのね」

「当たり前だ。天夏(あまな)だって哉斗(かなと)にプレゼントする時って緊張するだろ。どんな反応するかな、とかさ」

「それもそうね」


 天夏(あまな)と会話を交わすが緊張は解けない。

 そのまま、あっという間に目的地に着いてしまった。


「寒いから上がって。今お兄ちゃんいないし」

「いや、俺猫の毛が付いてると思うから外で待ってる」

「そっか。じゃあ、ちょっと待ってて」


 そう言い残し、天夏(あまな)は家の中に入った。

 瀬輝(ぜる)はそわそわとしながら秋凪を待つ。


(ドキドキするなぁ……元カノさんにプレゼントを渡す時もこんな感じだった──いや、秋凪(あきな)ちゃんは彼女じゃないけどさっ……!! 違うんだけどさっ……!!)


 思ったことを一人で必死に否定していると、玄関のドアが開く音がした。そこへ目を向けると、秋凪(あきな)が慌てて出てくるのが見えた。驚いたようにも嬉しそうにも見える表情は、瀬輝(ぜる)の頰を緩ませた。


秋凪(あきな)ちゃん、こんにちは」

「こんにちは……!」


 駆け寄ってくる秋凪(あきな)と目線を合わせ、瀬輝(ぜる)はプレゼントを差し出す。


「これ、秋凪(あきな)ちゃんにクリスマスプレゼント」

「いいの?」

「うん。前にお土産もらったから、そのお礼を込めてね」

「ありがとう!」


 プレゼントを手にした秋凪(あきな)は満面の笑みを見せた。喜んでもらえて良かった。瀬輝(ぜる)は胸を撫で下ろす。


「風邪引くといけないから、もうお家に入ろうか」

「……うん」


 寂しそうに笑う秋凪(あきな)が家の中へ入るのを見送り、瀬輝(ぜる)は歩き出す。


「あ、お兄さんこんにちは」


 すれ違った冬也(とうや)に笑顔で挨拶をした。だが、すぐにハッとし、恐る恐る振り返る。

 明らかに作り笑顔だと分かる表情を浮かべた冬也(とうや)が此方を見ている。


「こんにちは。キミは瀬輝(ぜる)くんだね。どうしたの? こんなところで。天夏(あまな)と何かあったのかな?」

「いや、秋凪(あきな)ちゃんにプレゼントを渡しに──あっ……!」

「へぇ、秋凪(あきな)に。キミと秋凪(あきな)はどんな関係なのかなー?」


 詰め寄ってくる冬也(とうや)瀬輝(ぜる)は後退りすることしか出来ない。


(このお兄さん、やっぱ怖いんだけど……!!)


 瀬輝(ぜる)は顔を痙攣らせ、必死に笑顔を作る。


「どんな、関係って──」

「へっくしょんっ!!」


 突然、言葉を遮るように冬也(とうや)がくしゃみをした。何度かくしゃみをしながら目を擦っている。それを見て、瀬輝(ぜる)は自分のせいだと気付く。

 その瞬間、冬也(とうや)に睨まれた。


「たしかキミ、猫飼ってるよね!? バイオテロだ!!」

「俺、ウイルス持ってないですよ!?」

「俺にとってはアレルギー源はウイルスと同じだ!!」

「えぇっ!?」

「お兄ちゃん、瀬輝(ぜる)くんをいじめないで!」


 瀬輝(ぜる)がこの場をどう乗り切ろうかと思った矢先、家の中から秋凪(あきな)が出て来た。その腕の中にはプレゼントとして渡したクッションがある。


「お兄ちゃんの方がいじめられてる感じだよ!?」

「いや、いじめてないです……」

「というか、秋凪(あきな)はどうして瀬輝(ぜる)くんを庇うの?」

瀬輝(ぜる)くんが好きだから!!」


 よく響いた秋凪(あきな)の言葉は、瀬輝(ぜる)冬也(とうや)を驚かせた。

 狼狽える瀬輝(ぜる)を、冬也(とうや)が再び睨む。敵意剥き出しだ。


「妹を(たぶら)かしやがったな」

「ち、ちがっ……!!」

「私が勝手に好きになったの!! これ以上瀬輝(ぜる)くんに何か言ったりいじめたりしないで!! そんなお兄ちゃん、大っ嫌い!!」

「……」


 秋凪(あきな)の発言にショックを受けた冬也(とうや)は言葉を失い、その場に立ち尽くした。

 少しして、ヨロヨロと家の中へ入っていく。


(大好きな人に〝大っ嫌い〟なんて言われたら、ああなるよな……)


 瀬輝(ぜる)はこの時ばかりは冬也(とうや)に同情した。ドアの向こうに行ってしまった彼の背中は、生気を失っていた。


秋凪(あきな)ちゃん──」

瀬輝(ぜる)くん!」

「はい……!!」

「これ、大切にするね!」


 秋凪(あきな)は腕の中にあるクッションをぎゅっと抱き締めていた。

 その光景に瀬輝(ぜる)は微笑む。


「うん、そうしてもらえると嬉しい」

「それから……」

「?」


 少し俯き、口籠る秋凪(あきな)を心配した瀬輝(ぜる)はその顔を覗き込むように見る。

 すると、秋凪(あきな)が勢いよく顔を上げた。


「私っ、いつか瀬輝(ぜる)くんの彼女になるからっ!!」

「えっ……!?」


 顔を真っ赤にさせた秋凪(あきな)はそう言い切って家の中に入っていった。

 瀬輝(ぜる)は呆然と立ち尽くす。

 すると、携帯電話が鳴った。


「……はい……」

「何で人の家の前で修羅場繰り広げてるの?」


 電話口から聞こえる呆れ声。顔を上げると二階の窓から自分を見下ろしている天夏(あまな)の姿が見えた。瀬輝(ぜる)は苦笑いを浮かべる。


「何か悪い……つか、俺、秋凪(あきな)ちゃんに〝いつか瀬輝(ぜる)くんの彼女になるから〟って宣言されたんだけど……」

「あら、おめでとう」

「おめでとうって……!!」

「そこは二人の問題だもん。私は前に言った以上のことは口出しできないわ」

「そうだろうけどさぁ……」


 ため息混じりに呟いた後、電話の向こうからドアが開く音と「天夏(あまな)ぁ〜……!!」と言う冬也(とうや)の涙声が聞こえた。


「ごめん、切るわ」


 その言葉通り電話はすぐに切れ、天夏(あまな)の姿も窓辺から消えた。今頃、冬也(とうや)天夏(あまな)に泣きついているのだろうと予想ができる。

 瀬輝(ぜる)は携帯電話をポケットにしまい、歩き出す。


秋凪(あきな)ちゃんはまだ小さいし、小学生とか中学生とかになれば他に好きな子できるだろ)


 そう考えると、少し淋しさを感じた。瀬輝(ぜる)は足を止める。


(何で淋しく感じるんだ? あれか。懐いてた子が他の人のところに行っちゃう淋しさみたいなものか? うん、そうかもしれない)


 何となく疑問を払拭出来た気がしてまた歩き出す。


 瀬輝(ぜる)秋凪(あきな)に対して恋愛感情は全くない。しかし、秋凪(あきな)は大切な存在の一人。そこに揺るぎはないので、深く考えずに今の秋凪(あきな)を大切にしようと考えた。


「とりあえず、プレゼント喜んでもらえて良かった」


 自分が選んだ物をあんなに喜んでもらえたのはとても嬉しかった。

 秋凪(あきな)の笑顔を思い出していると、雪が降ってくるのが見えた。


「積もるかなー?」

「ニャー」


 瀬輝(ぜる)の独り言に相槌を打つように、野良猫が鳴いた。いつの間にか隣を歩いていたようだ。


「風邪引くなよ」

「ニャー」

「今日、美味しいご飯食べられるといいな」

「ニャー」


 瀬輝(ぜる)は野良猫が自分から離れていくまで会話を続け、自宅へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ