おくりもの
もうすぐ冬休み。と同時に、クリスマスもやってくる。
瀬輝は秋凪に何かクリスマスプレゼントをあげたいと考えていた。
(これは、前にお土産をもらったからそのお礼だ。特別意味があるとかではないからな)
誰に対してなのか、心の中で言い訳をしながら雑貨屋に足を運ぶ。
(秋凪ちゃんが好きそうなものあるかな)
瀬輝は店内を隈なくチェックする。帽子やカバン、キャラクターが描かれた小物など、様々な物が置かれている中〝いいな〟と思うものが見つからない。
そんな折、クッションコーナーに気になるものを見つけた。猫型のクッションだ。
(すげーかわいいんだけど!)
クッションに心惹かれた瀬輝はそれを手に取る。ふわふわとして、ずっと触っていたいと思うくらいに触り心地もいい。
(これ、いいな)
すると、瀬輝の脳裏に秋凪の笑顔が浮かんだ。無邪気に笑う顔。
(……秋凪ちゃん、喜んでくれるといいな)
その期待を胸に、瀬輝はレジへ向かった。
十二月二十四日。午前中に終業式を終えた瀬輝は、天夏と並んで歩く。一足先に冬休みに入った秋凪が待つ家に行くためだ。その手には秋凪へのクリスマスプレゼントがある。
「あー……緊張する」
「瀬輝でも緊張するのね」
「当たり前だ。天夏だって哉斗にプレゼントする時って緊張するだろ。どんな反応するかな、とかさ」
「それもそうね」
天夏と会話を交わすが緊張は解けない。
そのまま、あっという間に目的地に着いてしまった。
「寒いから上がって。今お兄ちゃんいないし」
「いや、俺猫の毛が付いてると思うから外で待ってる」
「そっか。じゃあ、ちょっと待ってて」
そう言い残し、天夏は家の中に入った。
瀬輝はそわそわとしながら秋凪を待つ。
(ドキドキするなぁ……元カノさんにプレゼントを渡す時もこんな感じだった──いや、秋凪ちゃんは彼女じゃないけどさっ……!! 違うんだけどさっ……!!)
思ったことを一人で必死に否定していると、玄関のドアが開く音がした。そこへ目を向けると、秋凪が慌てて出てくるのが見えた。驚いたようにも嬉しそうにも見える表情は、瀬輝の頰を緩ませた。
「秋凪ちゃん、こんにちは」
「こんにちは……!」
駆け寄ってくる秋凪と目線を合わせ、瀬輝はプレゼントを差し出す。
「これ、秋凪ちゃんにクリスマスプレゼント」
「いいの?」
「うん。前にお土産もらったから、そのお礼を込めてね」
「ありがとう!」
プレゼントを手にした秋凪は満面の笑みを見せた。喜んでもらえて良かった。瀬輝は胸を撫で下ろす。
「風邪引くといけないから、もうお家に入ろうか」
「……うん」
寂しそうに笑う秋凪が家の中へ入るのを見送り、瀬輝は歩き出す。
「あ、お兄さんこんにちは」
すれ違った冬也に笑顔で挨拶をした。だが、すぐにハッとし、恐る恐る振り返る。
明らかに作り笑顔だと分かる表情を浮かべた冬也が此方を見ている。
「こんにちは。キミは瀬輝くんだね。どうしたの? こんなところで。天夏と何かあったのかな?」
「いや、秋凪ちゃんにプレゼントを渡しに──あっ……!」
「へぇ、秋凪に。キミと秋凪はどんな関係なのかなー?」
詰め寄ってくる冬也に瀬輝は後退りすることしか出来ない。
(このお兄さん、やっぱ怖いんだけど……!!)
瀬輝は顔を痙攣らせ、必死に笑顔を作る。
「どんな、関係って──」
「へっくしょんっ!!」
突然、言葉を遮るように冬也がくしゃみをした。何度かくしゃみをしながら目を擦っている。それを見て、瀬輝は自分のせいだと気付く。
その瞬間、冬也に睨まれた。
「たしかキミ、猫飼ってるよね!? バイオテロだ!!」
「俺、ウイルス持ってないですよ!?」
「俺にとってはアレルギー源はウイルスと同じだ!!」
「えぇっ!?」
「お兄ちゃん、瀬輝くんをいじめないで!」
瀬輝がこの場をどう乗り切ろうかと思った矢先、家の中から秋凪が出て来た。その腕の中にはプレゼントとして渡したクッションがある。
「お兄ちゃんの方がいじめられてる感じだよ!?」
「いや、いじめてないです……」
「というか、秋凪はどうして瀬輝くんを庇うの?」
「瀬輝くんが好きだから!!」
よく響いた秋凪の言葉は、瀬輝と冬也を驚かせた。
狼狽える瀬輝を、冬也が再び睨む。敵意剥き出しだ。
「妹を誑かしやがったな」
「ち、ちがっ……!!」
「私が勝手に好きになったの!! これ以上瀬輝くんに何か言ったりいじめたりしないで!! そんなお兄ちゃん、大っ嫌い!!」
「……」
秋凪の発言にショックを受けた冬也は言葉を失い、その場に立ち尽くした。
少しして、ヨロヨロと家の中へ入っていく。
(大好きな人に〝大っ嫌い〟なんて言われたら、ああなるよな……)
瀬輝はこの時ばかりは冬也に同情した。ドアの向こうに行ってしまった彼の背中は、生気を失っていた。
「秋凪ちゃん──」
「瀬輝くん!」
「はい……!!」
「これ、大切にするね!」
秋凪は腕の中にあるクッションをぎゅっと抱き締めていた。
その光景に瀬輝は微笑む。
「うん、そうしてもらえると嬉しい」
「それから……」
「?」
少し俯き、口籠る秋凪を心配した瀬輝はその顔を覗き込むように見る。
すると、秋凪が勢いよく顔を上げた。
「私っ、いつか瀬輝くんの彼女になるからっ!!」
「えっ……!?」
顔を真っ赤にさせた秋凪はそう言い切って家の中に入っていった。
瀬輝は呆然と立ち尽くす。
すると、携帯電話が鳴った。
「……はい……」
「何で人の家の前で修羅場繰り広げてるの?」
電話口から聞こえる呆れ声。顔を上げると二階の窓から自分を見下ろしている天夏の姿が見えた。瀬輝は苦笑いを浮かべる。
「何か悪い……つか、俺、秋凪ちゃんに〝いつか瀬輝くんの彼女になるから〟って宣言されたんだけど……」
「あら、おめでとう」
「おめでとうって……!!」
「そこは二人の問題だもん。私は前に言った以上のことは口出しできないわ」
「そうだろうけどさぁ……」
ため息混じりに呟いた後、電話の向こうからドアが開く音と「天夏ぁ〜……!!」と言う冬也の涙声が聞こえた。
「ごめん、切るわ」
その言葉通り電話はすぐに切れ、天夏の姿も窓辺から消えた。今頃、冬也は天夏に泣きついているのだろうと予想ができる。
瀬輝は携帯電話をポケットにしまい、歩き出す。
(秋凪ちゃんはまだ小さいし、小学生とか中学生とかになれば他に好きな子できるだろ)
そう考えると、少し淋しさを感じた。瀬輝は足を止める。
(何で淋しく感じるんだ? あれか。懐いてた子が他の人のところに行っちゃう淋しさみたいなものか? うん、そうかもしれない)
何となく疑問を払拭出来た気がしてまた歩き出す。
瀬輝は秋凪に対して恋愛感情は全くない。しかし、秋凪は大切な存在の一人。そこに揺るぎはないので、深く考えずに今の秋凪を大切にしようと考えた。
「とりあえず、プレゼント喜んでもらえて良かった」
自分が選んだ物をあんなに喜んでもらえたのはとても嬉しかった。
秋凪の笑顔を思い出していると、雪が降ってくるのが見えた。
「積もるかなー?」
「ニャー」
瀬輝の独り言に相槌を打つように、野良猫が鳴いた。いつの間にか隣を歩いていたようだ。
「風邪引くなよ」
「ニャー」
「今日、美味しいご飯食べられるといいな」
「ニャー」
瀬輝は野良猫が自分から離れていくまで会話を続け、自宅へ向かった。




