決意
連朱は映画館のロビーの椅子に座って泣く瀬輝を心配そうに見ていた。
瀬輝は悲しくて泣いているのではない。先程まで観ていた映画に感情移入し、泣き続けているのだ。その映画は、あることがきっかけで飼い主と猫が離れ離れになってしまうというストーリー。猫好きの瀬輝にとっては涙なしでは観られない作品だ。
「ニャータローがぁ〜……」
泣きながら瀬輝が口を開いた。
連朱はその背中をさすって優しく言う。
「無事に飼い主の元に戻れてよかったな」
「はい……」
頷く瀬輝の目からはまだ涙が流れ続ける。
その様子を見ていた稜秩がため息混じりの声を出した。
「瀬輝、そろそろ泣き止め」
「無理……」
「無理じゃない」
「まあまあ、もう少し待っていようよ」
呆れる稜秩を宥めるように哉斗が言った。
三人の声を聞きながら連朱は瀬輝の背中をさすり続ける。
(今度みんなで映画を観る時は感動ものじゃない映画にしよう)
そんなことを心の中で呟いた。
しばらくして四人は食事をするため、映画館に隣接するショッピングモールのフードコートに場所を移した。
そこまで来ると、瀬輝は少し落ち着いていた。
みんなでテーブルを囲んでハンバーガーを食べる。
すると、哉斗が瀬輝に視線を向けながら言った。
「瀬輝って、僕のお姉ちゃんに似てる」
「えっ、どこが?」
「感動ものの映画とかドラマとか観てずっと泣いているところ」
「へぇ、そっくりだな」
「……何か、嬉しいようなそうでもないような……」
瀬輝は複雑そうな表情を見せた。
その隣にいる連朱は、友達の姉とはいえ、面識のない人に似ていると言われたらそんな表情になるよな、と思っていた。
すると、瀬輝が少し興味があるように哉斗に問い掛ける。
「兄弟いるっていい?」
「そうだね。色々教えてもらえることが多いし相談も出来るし」
「趣味が合ったら楽しいこと増えるしね」
「そうそう」
連朱も会話に入ると、哉斗が頷いてくれた。兄弟がいる同士だからこそ分かることもある。
「俺もなんとなく分かる」
「えっ、稜秩は俺と同じ一人っ子だろ!?」
瀬輝が驚くように連朱も驚いた。一体どういうことなのだろうか。稜秩の話に耳を傾ける。
「そうだけど、咲季が妹みたいなところあるから兄妹いたらこんな感じなんだろうなって思う」
それを聞き、連朱は納得した。確かに咲季は妹のような感じがする。見た目というか、雰囲気だろうか。そんなことを考えながらハンバーガーを口にした。
昼食を平らげた四人はゲームセンターへ行く為、エスカレーターで三階へ上がる。一階から三階までは吹き抜けとなっており、全ての階の通路が見えている。
連朱は何気なく二階の通路に視線を落とすと、そこに咲季と天夏の姿を見つけた。
「あ、咲季と天夏がいるよ!」
三人に教えるように言うと手すりに手を掛けた。瞬間、手すりが壊れ、連朱は為す術なく落ちていく。
一階の床が迫ってくる。
「わああああああっ!!!!」
連朱は叫び声を上げた。落ちていく感覚が鮮明に残っている。しかし、体は軽い痛みしか訴えてこない。
「……あれ……?」
乱れる呼吸を整えながら周りを見回す。そこは自分の部屋だった。
「……夢……」
連朱はホッと胸を撫で下ろした。その時、部屋のドアが目の前にあることに気付いた。まさかと思い、後ろを振り返る。ベッドは、ドアから一番遠い場所にあった。
「あー……またか……」
苦笑いを浮かべて頭を抱える。連朱は過去にも何度か寝ている最中にベッドから落ちたことがあった。だが、高い所から落ちる夢を見るのは初めてだ。
(それだけ寝相が悪かったのかな……)
静かにため息をつき、ベッドに戻る。時計は午前四時を回ったところ。起きるのにはまだ早い。連朱はもう一度眠ろうと、体を壁際に寄せて目を閉じた。
連朱は、夢のこととベッドから落ちたことを学校で瀬輝と稜秩に話した。
それを聞いた瀬輝は不安そうな顔をする。
「お怪我は!?」
「怪我はないけど、起きた時はちょっと体痛かった」
「それ大丈夫なんですか!?」
「多分。もう痛くないし」
「連朱、もうベッドで寝るのやめろ。いつか怪我するぞ」
「やっぱり、その方がいいよね……」
稜秩の助言に苦々しく笑う連朱は頷いた。今日からベッドで寝るのはやめよう。そう決意する。
(……寝相が悪いの、治らないかな……)




