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【完結済】ひごろこと  作者: 冬月 聖


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気付く想い

 瀬輝(ぜる)は自宅のリビングで猫たちと遊んでいた。

 そんな時、携帯電話にメールが一件届いた。


「先輩からだ!」


 喜びを顔に出してメールを開く。明日開催される夏祭りに一緒に行かないか、という誘いメールだった。


「祭りは秋凪(あきな)ちゃんと行く約束したからなぁ。一緒に行くってなっても人見知りする子だし……」


 瀬輝(ぜる)は、秋凪(あきな)と初めて会った時のことを思い返す。目も合わせてくれず、恥ずかしそうに顔を赤くしていた。


(俺でさえそうだったんだから、先輩だと尚更緊張して身動きが取れないはず。それに、初対面の人がいたら嫌がるよな……)


 秋凪(あきな)の気持ちにまだ1ミリも気付いていない瀬輝(ぜる)はうーんと唸る。


「……心苦しいが断るか……先輩、ごめんなさい……」


 瀬輝(ぜる)はブツブツ言いながら連朱(めあ)に断りのメールを送る。一生一緒に行けないわけではないので、あまり気にしないようにする。

 そうしていると、天夏(あまな)からもメールが来た。


《りんご飴の屋台に行くときは気を付けてね。》


「りんご飴の屋台?」


 瀬輝(ぜる)は眉を顰め、天夏(あまな)にメールを返す。


《何に気を付けるんだ?》

《私のお兄ちゃん。大学の友達と一緒に屋台の手伝いをしてるからよ。》

《何で俺が天夏(あまな)のお兄さんに気を付けなきゃいけないんだ? 天夏(あまな)と行動してるわけじゃないのに。》





「……」


 天夏(あまな)はその文字を見て、ため息をつく。瀬輝(ぜる)にこの光景を見せてあげたいと心の底から思った。


 天夏(あまな)の視線の先には、積み木で遊んでいる妹の秋凪(あきな)と兄の冬也(とうや)の姿がある。そこからは、明日の祭りの話が聞こえてくる。


秋凪(あきな)、明日はりんご飴買いに来てくれよな。兄ちゃん待ってるから!」

「うん! りんご飴買いに行く!」


 秋凪(あきな)は満面の笑みで兄を見上げた。

 すると、冬也(とうや)が思い出したように問い掛ける。


「そういえば、祭りには誰と行くんだ?」

「……友達だよ」


 笑顔は絶やさず、声のトーンだけ少し落として間を開けて言った秋凪(あきな)

 それに冬也(とうや)は気付かず、また問う。


「幼稚園の友達か?」

「うん、桃華(ももか)ちゃんだよ」


 天夏(あまな)は幼稚園で一番仲の良い友達の名前を咄嗟に出した。それを嘘だと思わない冬也(とうや)は笑顔で「そうか、そうか」と頷いた。


「それから、いつも持ってる防犯ベルも持って行くんだぞ。変な奴がいたら大変だからな」

「うん」


 秋凪(あきな)が頷いたのを見た後、冬也(とうや)天夏(あまな)へ視線を移す。


天夏(あまな)も防犯ベル持ち歩くんだぞ」

「はいはい」

天夏(あまな)は誰と祭り行くんだ?」

咲季(さき)と」

「女の子二人だけじゃ危険だろ!?」


 天夏(あまな)の即答を聞いた冬也(とうや)は思わず立ち上がった。

 近付いてくる兄に見向きもせず、天夏(あまな)は携帯電話の画面を見ながら答える。


「平気よ」

「じゃあ俺も一緒に行動する!」


 思い掛けない台詞に天夏(あまな)の目は見開かれた。そのまま兄の顔を見る。


「お店の手伝いがあるでしょ!?」

「店より妹の安全が優先だろ!?」

「だからと言って手伝いを放棄していいわけないじゃない!!」

「変な男に絡まれたらどうするんだ!?」

「お兄ちゃん、りんご飴はどうするの?」

「……」


 二人の言い合いに割って入るように、小さな妹が言った。冬也(とうや)は言葉を詰まらせる。

 この隙を狙って、天夏(あまな)が追い打ちを掛ける。


秋凪(あきな)との〝りんご飴買いに来てね〟の約束、破る気?」

「……」


 眉間にシワを寄せる天夏(あまな)の言葉に、ぐうの音もでない冬也(とうや)。肩を落とし、天夏(あまな)に背を向ける。


「……何かあったら、連絡するんだぞ……」

「はーい」


 天夏(あまな)は勝ち誇ったような顔で返事をした。


(というか、誰も〝咲季と二人で行く〟とは言ってないけどね)


 そして真実は口には出さず、心の中で呟いた。






 夏祭り当日。甚平を身に纏った瀬輝(ぜる)秋凪(あきな)を迎えに行くため、住宅街を歩いていた。たまに、祭り会場へ向かっているであろう浴衣を着た人たちとすれ違う。その人たちの視線が瀬輝(ぜる)に注がれている。


(そりゃあ、猫を引き連れてたらジロジロ見られるよな。慣れてるけど……それより)


 瀬輝(ぜる)は自分の後を付いてくる野良猫たちに視線を向ける。いつも通りの光景。


(色んなネコに囲まれるって、幸せだなぁ)


 表情を緩ませて幸せに浸りながら歩いていると、天夏(あまな)の家の近くへ来ていた。

 天夏(あまな)秋凪(あきな)は玄関先に出ていた。そこへ瀬輝(ぜる)が駆け寄る。


「お待たせ!」

「今日も猫同伴なのね」


 瀬輝(ぜる)と共に走って来た猫たちを見て天夏(あまな)が言った。

 そこで瀬輝(ぜる)はハッとする。


「あっ、お兄さんは……!? アレルギー……!」

「お兄ちゃんはもう祭り会場に行ってていないから大丈夫よ」

「よかった……秋凪(あきな)ちゃん、久しぶり!」

「うん……!」


 初めて見る甚平姿の瀬輝(ぜる)に見惚れつつ、秋凪(あきな)は頷いた。


秋凪(あきな)ちゃん、浴衣似合ってるね」


 白地に淡紅色のコスモスがいくつも描かれている浴衣を見て、瀬輝(ぜる)は素直にその言葉を口にした。お陰で秋凪(あきな)の顔が赤く染まる。


瀬輝(ぜる)、くんも……似合ってる……」

「ありがと!」


 秋凪(あきな)の言い方はぎこちなかったが、瀬輝(ぜる)は気にせず笑顔を見せた。

 その二人の様子を見ていた天夏(あまな)は、秋凪(あきな)の気持ちを知った時、瀬輝(ぜる)がどんな反応をするのか楽しみだった。


「というか、何で防犯ベル持ってるの?」


 秋凪(あきな)が首から下げている防犯ベルに目を止めた瀬輝(ぜる)は、不思議そうに問い掛けた。

 秋凪(あきな)が防犯ベルを見せて答える。


「お兄ちゃんが何があるかわからないからって」

「そっか。じゃあ天夏(あまな)にも?」

「ええ。哉斗(かなと)も一緒に行くけどとりあえずね」

「へぇ……」


 天夏(あまな)なら変質者を一発で撃退しそうだけどな、という言葉を瀬輝(ぜる)は内に秘めた。


「じゃあ、哉斗(かなと)と祭りデートか」

「正確にはダブルデートよ」

「ダブル? チビッ子と稜秩(いち)か?」

「そうよ」

「そっか」


 色んな意味で目立ちそうな集団だな、という言葉も同様に秘めた。

 そして、秋凪(あきな)に手を差し出す。


「じゃ、行こうか」

「うん……!」

秋凪(あきな)をよろしくね」

「おう!」


 ニッと天夏(あまな)に笑い掛けた瀬輝(ぜる)秋凪(あきな)の手を引き、歩き始めた。





 夏祭りは神社で行われている。そこへ近付くごとに、祭り特有の匂いが濃くなっていく。

 神社に着いて境内を歩いていると、秋凪(あきな)が射的の屋台の景品に目を止めた。


「メロディーホワイトのぬいぐるみ!」

「お、本当だな!」


 射的屋の棚の下段に並べられたぬいぐるみは、浴衣を着て此方を見ている。大好きな戦隊シリーズのキャラクターを目の前に、秋凪(あきな)は瞳を輝かせて屋台を指差す。


「あれ、やりたい!」

「いいよ!」


 瀬輝(ぜる)と射的の屋台まで来ると、秋凪(あきな)は持っていた巾着から財布を取り出そうとしていたが、瀬輝(ぜる)が素早くお金を払っていた。


 瀬輝(ぜる)は遊戯銃にコルク弾を装填する。


秋凪(あきな)ちゃんは射的やったことある?」

「ううん。いつもお兄ちゃんがやってるのを見てるだけ」

「そっか。じゃあやり方は分かるね」

「うん!」


 瀬輝(ぜる)から銃を受け取った秋凪(あきな)はそれを構え、早速撃った。しかし一発目、二発目とコルク弾は景品には当たらない。


秋凪(あきな)ちゃん、次は二人でやろう」

「うん」


 そう提案した瀬輝(ぜる)は背後から覆い被さるように秋凪(あきな)と一緒に銃を構える。

 この状況に秋凪(あきな)の心臓の音が一気に速くなった。緊張で全身熱くなる。引き金に掛けた震える指に、瀬輝(ぜる)の指が重なった。


「行くぞー。せーのっ!」


 合図と同時に、二人は弾を発射した。弾は狙っていたぬいぐるみの腹部に命中し、それを倒した。


「すごい……!」

「やったな!」


 心から喜ぶ瀬輝(ぜる)は笑顔で秋凪(あきな)と顔を合わせる。その時、秋凪(あきな)の顔が赤くなっていることに気付いた。


秋凪(あきな)ちゃん、顔赤いけど大丈夫?」

「う、うん……! これ頑張ってやったから、ちょっと暑くなっただけ……!」

「そ、そっか」


 慌てて言い張る秋凪(あきな)に少し驚きつつ、瀬輝(ぜる)は納得した。

 景品のぬいぐるみを秋凪(あきな)に渡し、また手を繋ぐ。


秋凪(あきな)ちゃん、何かやりたい遊びとか食べたい物とかある?」

「えっと……たこ焼き食べたい」

「よし! じゃあ買いに行こう!」


 瀬輝(ぜる)秋凪(あきな)の手を引いてたこ焼きの屋台へ向かった。続いて、瀬輝(ぜる)が食べたいと言う焼きそばやフライドポテトなども購入した。

 まずはそれらを食べようと、道の脇に設置されたベンチへ向かう。


「あっ」


 すると、秋凪(あきな)があるものを見つけた。


瀬輝(ぜる)くん!」


 人混みから抜けた時、呼び止めて持っていたぬいぐるみを瀬輝(ぜる)に渡す。


「これ持ってて!」

「えっ、どうしたの!?」

「とりあえずこれ持ってここにいて!」

「何で!?」

「何でも! すぐに戻るから、絶対ここにいてね!」


 そう言うと、秋凪(あきな)は僅かな隙間を縫って人混みの中に消えた。

 残された瀬輝(ぜる)は戸惑う。


「やべぇ、どうしよう……!! 秋凪(あきな)ちゃん一人でどっか行っちゃった……!! 追いかけるか!? でも絶対ここにいてって言われたから……!!」


 食べ物とぬいぐるみを抱え、一人でオロオロする瀬輝(ぜる)


 彼がそうなってるのも知るはずのない秋凪(あきな)は、先程見つけたりんご飴の屋台の目の前にやってきた。そこに兄の姿がある。


「お兄ちゃん!」

秋凪(あきな)! 来てくれたか!」


 冬也(とうや)は満面の笑みを浮かべた後、周りをきょろきょろと見回す。


「友達は?」

「あ、えっと、今ご飯食べる場所取りしてる」

「そっか。でもダメだぞ、一人で行動しちゃ」

「ごめんなさい。お兄ちゃん見つけたから、つい……」


 その言葉に冬也(とうや)は胸打たれた。感激する傍らで自分の友達に白い目を向けられているが、気にしない。


「お兄ちゃん、りんご飴二つちょうだい」

「OK! あ、お金はいらないから」

「どうして?」

「俺の奢り!」


 すると、冬也(とうや)は屋台から出て秋凪(あきな)の目の前にしゃがみ、りんご飴二つを渡す。


「ありがとう!」

「どういたしまして」


 冬也(とうや)は表情をだらしなく緩ませながら、秋凪(あきな)の頭を優しく撫でた。


「じゃあね!」

「あ、友達のところまで送っていくよ」

「ううん、一人で行けるからいい」

「でも──」

「大丈夫だよ! お兄ちゃん、お仕事がんばってね!」

秋凪(あきな)──」


 兄の制止を遮って逃げるように別れを告げ、秋凪(あきな)はまた人混みの中へ入る。


 行き交う人たちの間から、瀬輝(ぜる)の姿が見えた。

 小走りで近付く。


瀬輝(ぜる)くん!」


 弾んだ声で名前を呼ぶと、彼が振り返った。


秋凪(あきな)ちゃんどこ行って──って、りんご飴?」

「うん! お兄ちゃんがりんご飴の屋台にいたから」

「あー、天夏(あまな)言ってたな……だけど、勝手に一人で行ったらダメだよ」

「だって、お兄ちゃんうるさいんだもん……」

「うるさい?」

「お姉ちゃんの時みたいに、瀬輝(ぜる)くんのこと色々聞いてくるんだもん」

「えぇ……」


 瀬輝(ぜる)は顔を引き攣らせた。小さな妹にでさえ天夏(あまな)と同じようなことをするなんて、かなりシスコンを拗らせていると感じた。


(いやいや、今はそんなことより……)


 瀬輝(ぜる)冬也(とうや)への印象を振り払い、秋凪(あきな)の前にしゃがんだ。


秋凪(あきな)ちゃん、俺、すごく心配したんだよ。今日は何もなく俺のところに戻ってこられたから良かったけど、何かあったら大変なことになってたよ」

「……」


 瀬輝(ぜる)の真剣な表情を見た秋凪(あきな)の顔から、明るさが消えた。


「ごめんなさい……」


 秋凪(あきな)はしょんぼりと下を向き、謝った。

 その頭を瀬輝(ぜる)が優しく撫でる。


「まあ、オロオロして追いかけなかった俺も悪いけど……もう勝手に一人で行動したらダメだよ」

「うん……」

「よし。じゃあ、たこ焼き食べよう! 腹減っただろ?」

「うん!」


 手を差し出してきた瀬輝(ぜる)に笑顔を見せ、秋凪(あきな)は頷いた。二人は手を繋いで空いているベンチに座り、購入した物を食べ始める。


 瀬輝(ぜる)秋凪(あきな)にフライドポテトを分けながら焼きそばを口にした。


「……あの……瀬輝(ぜる)くん……」

「ん?」

瀬輝(ぜる)!」


 秋凪(あきな)の声に返事をしたのと同時に、近くで瀬輝(ぜる)を呼ぶ声がした。二人は咄嗟に声が聞こえた方を見る。

 瀬輝(ぜる)は少し顔を赤らめた。


「先輩!」


 声を掛けてきたのは連朱(めあ)だった。その隣には朱李(あい)もいて、二人とも浴衣を着ている。

 瀬輝(ぜる)は浴衣姿の連朱(めあ)に見惚れた。


(初めて見たってわけじゃないけど、浴衣姿もカッコいい!!)

「ここで会うなんて偶然だね」

「そ、そうですね……!」

「あ、その子が昨日言ってた天夏(あまな)の妹?」

「そうです」

「へぇ、天夏(あまな)さんそっくりだ」

「こんばんは」

「こんばんは!」

(……あれ……?)


 連朱(めあ)に元気よく挨拶する秋凪(あきな)を、瀬輝(ぜる)は不思議に思った。


秋凪(あきな)ちゃんって人見知りするんじゃなかったっけ……? 俺の時と反応が違う……)

瀬輝(ぜる)さん、この後みんなで一緒に屋台回りません?」

「ごめん、今日は秋凪(あきな)ちゃんと約束してたから」


 誘いを申し訳なく断ると、朱李(あい)が残念そうな顔をした。


「それなら仕方ないですね」

「じゃあ、瀬輝(ぜる)またね」

「はい!」

秋凪(あきな)ちゃんもバイバイ」

「バイバイ」


 初めて話す二人に手を振る秋凪(あきな)

 瀬輝(ぜる)はその表情を見る。明るい笑顔。自分との初対面時と全く違う表情。あの時は顔を赤くして目も合わせてくれなくて天夏(あまな)の後ろに隠れたのに、なぜ連朱(めあ)朱李(あい)に対しては普通なのか。

 疑問に思う中、瀬輝(ぜる)は先ほど秋凪(あきな)に呼ばれたことを思い出した。


秋凪(あきな)ちゃん、さっき何か言いかけてたよね?」

「うん。あの、ね……」


 秋凪(あきな)がぎこちなく巾着から紙の小袋を取り出したかと思うと、目の前に差し出された。


「これ、熱海のおみやげ……」

「えっ、俺に?」

「うん……」

「ありがと! 開けていい?」


 それを受け取った瀬輝(ぜる)の問い掛けに秋凪(あきな)は頷いた。


 小袋を開けると、猫のストラップが入っていた。猫はタオルを頭に乗せて湯船に浸かり、うっとりとした表情をしている。瀬輝(ぜる)は、一目でそれを気に入った。


「かわいい! これ、秋凪ちゃんが選んだの?」

「うん。瀬輝(ぜる)くんに何かあげたくて、お年玉とか貯めてた自分のお金で……」

「ありがとう、すげー嬉しい!!」

「うん……!」


 秋凪(あきな)は顔を赤らめながらも嬉しそうに笑った。

 その顔を、瀬輝(ぜる)が見つめる。


(……また顔が赤い……何で先輩に会った時じゃなくて今なんだ……?)


 瀬輝(ぜる)は考えを巡らせながら焼きそばを頬張る。


(何で俺の前で顔が赤くなるんだろ……人見知りじゃないみたいだし、それ以外に顔赤くすることって…………えっ、もしかして)


 はたと気付き、手を止めた。隣で嬉しそうにたこ焼きを食べている秋凪(あきな)をちらりと見る。


(俺のことが、好き……?)


 ようやく答えを導き出した瀬輝(ぜる)は今までのことを振り返る。秋凪(あきな)が自分の前で顔を赤くしていたのも緊張していたのも全て頷けた。

 しかし、それを否定するように首を横に振る。


(……いやいや、いくらなんでもそれはないだろ……思い過ごしだって……)

瀬輝(ぜる)くん」

「どっ、どした……!?」


 突然名前を呼ばれ、瀬輝(ぜる)は過剰に反応してしまった。

 しかし、秋凪(あきな)は気にしていない様子で笑っている。


「これ食べ終わったらヨーヨー釣りがしたい!」

「う、うん、分かった……!」


 慌てながら瀬輝(ぜる)秋凪(あきな)に合わせて笑顔を見せた。


(とにかく今は祭りを楽しもう。せっかくの祭りなんだし。考えたりするのはその後だ)


 そう自分に言い聞かせ、瀬輝(ぜる)は残りの焼きそばを掻き込み、フライドポテトを頬張る。


 たこ焼きを食べ終えた秋凪(あきな)、はヨーヨー釣りの屋台へ行こうとベンチから立ち上がる。それに続いて瀬輝(ぜる)も立ち上がり、秋凪(あきな)とはぐれないようにその手を握ってまた人混みの中へ入っていった。





 祭り会場で合流した天夏(あまな)秋凪(あきな)を引き渡して一人で家に戻った瀬輝(ぜる)は、猫たちに囲まれながらリビングのソファーに座ってボーっとしていた。そこへ天夏(あまな)からのメールが届く。


秋凪(あきな)、今日楽しかったって言ってたわ。ありがとう。》

《そりゃあ良かった。俺も楽しかったし。》


「……」


 瀬輝(ぜる)はその文章から一行空けたところに、今日の疑問を書いた。


《俺の思い込みかもしれないけど、秋凪(あきな)ちゃんって俺のこと男として好きだったりする?》


 メールを送った後、すぐに天夏(あまな)から電話が掛かってきた。

 瀬輝(ぜる)は驚いて危うく携帯落としそうになりながらも電話に出る。


「何だよ……」

「思い込み激しいわね」

「だ、だよな──」

「と言いたいところだけど、正解よ」

「そうか……え? 正解?」

「ええ」


 肯定する言葉を耳にし、瀬輝(ぜる)はゆっくり声を発した。


秋凪(あきな)ちゃんが、俺のこと……好きってこと……?」

「そうよ。瀬輝(ぜる)秋凪(あきな)の初恋相手」

「初恋ぃ……!?」


 瀬輝(ぜる)の声が思わず上擦った。初恋相手が自分でいいのかと思う中、気になったことを聞いてみる。


「いつから、俺のことを……?」

「初めて会った時から」

「だからああいう素振りを……」


 これまでのことが全て繋がり、瀬輝(ぜる)は納得した。何でもっと早く気付かなかったんだろうと鈍感な自分にため息をつく。

 すると、電話越しから天夏(あまな)の真剣そうな言葉が聞こえてきた。


秋凪(あきな)のこと、変に傷付けて泣かせたら許さないから」


 凛とした声に瀬輝(ぜる)は息を呑む。


「そんなことしない、けど……もしそうなったら……?」

「それはその時のお楽しみよ♪」


 先程とは真逆の明るい声音は恐怖感を煽り、瀬輝(ぜる)の体を震わせる。


(怖っ……!! 母ちゃんの次に怖っ……!!)

「でも、いつか付き合えって言ってるわけじゃないわ。瀬輝(ぜる)の気持ちだってあるんだし」

「じゃあ、どーすりゃいいのさ」

「それは自分で考えなさい」

「えー……」


 アドバイスを貰えず不満げに声を上げると、天夏(あまな)の声が控えめになった。


秋凪(あきな)がお風呂から上がってくるから切るわ。またね」

「お、おう……」


 そうして、天夏(あまな)との通話は終了した。


「ようやく気付いたんだな」


 携帯電話をテーブルに置いた時、キッチンで洗い物をしている母の声が聞こえた。

 瀬輝(ぜる)は母に視線を向けた。


「ようやくって、母ちゃんは知ってたのか? 秋凪(あきな)ちゃんが俺のこと……」

「あの子の様子見てたらすぐにわかったぜ。瀬輝(ぜる)は鈍感すぎ」

「……どうすればいいと思う?」

「自分で考えな」

「何で母ちゃんも天夏(あまな)と同じこと言うかな……」


 瀬輝(ぜる)はため息混じりに言葉を吐き出した。

 携帯電話の隣に置いてある、秋凪(あきな)に貰ったキーホルダーを手に取った。ソファーに仰向けに寝転び、それを見つめる。まだ封を開けてない袋の中の猫は、相変わらずうっとりとした顔をしている。


「どうしたらいいんだろうな……」


 小さく声を漏らすと、眉間に柔らかい肉球の感触が伝わって来た。同時に猫用のシャンプーの香りもする。


「フローズ、俺に何かアドバイスをくれ」


 眉間に前足を乗せている飼い猫に声を掛ける。すると、フローズは「ニャー」と鳴いた。


「……猫語、喋れたらなぁ……」


 瀬輝(ぜる)はフローズの前足にそっと触れながら、苦笑いを浮かべた。

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