美少年 VS チャラ男
夏休みということもあってか、街中は子供や学生たちで賑わっていた。その中に、連朱と瀬輝の姿もある。
「瀬輝は宿題どこまで進んだ?」
「半分くらい進みました。先輩はどうですか?」
「俺も半分くらい」
「先輩にしてはペースがゆっくりですね」
「朱李に勉強を教えながらやってるからな」
「そうなんですか。朱李の奴、いいなぁー」
瀬輝は羨ましそうな声を出した。
二人で話しながら歩いていると、前方に見知った人物が見えた。
「あ、哉斗じゃん!」
いち早く気付いた瀬輝が明るく言う。
「瀬輝、連朱! 久しぶり!」
二人に気付いた哉斗も笑顔を見せてくれた。
哉斗のもとへ駆け寄る。
「元気にしてた?」
「うん!」
「なぁ、その二人、哉斗の友達?」
言葉を交わしていると、哉斗の隣にいる人──章弛が言った。
哉斗は笑顔で頷く。
「うん。中学校が一緒だった、友達の連朱と瀬輝だよ。前に話したことあるでしょ?」
「ああ! この二人なのか!」
章弛は思い出したような顔をし、超カッコいい連朱くんとその連朱くんが大好きな瀬輝くんか、と二人を交互に見ながら思った。
「で、こっちが高校の友達の章弛」
「どうも、章弛です!」
「よろしく」
連朱がそう挨拶すると、章弛は連朱をじっと見つめる。
「……へぇー、ふーん」
そして興味深そうにいろんな角度から連朱を見る。
連朱はその視線に戸惑う。
「えっと……何、かな……?」
「哉斗から聞いてた通り、イケメンでスタイル良いなーって思って」
「いや、そんな……!」
唐突な言葉を受け、連朱の顔は一気に赤くなった。
章弛は続ける。
「でも、こうもカッコいいと妬けてくるなー。やっぱ女子にモテる?」
「えっと……」
「先輩はカッコいいんだからモテるに決まってるだろ!」
連朱が返答に困っていると、瀬輝がそう言った。
章弛は納得した表情をする。
「そうだよな。というわけで、勝負しようぜ!」
「勝負……?」
章弛の発言に三人は呆気に取られた。勝負とは何だろうかと、首を傾げる。
その中で瀬輝が不満そうな表情を見せた。
「俺と先輩は、これからカラオケに行く予定なんだけど……」
「なら丁度いい。俺らはまだ遊び先を決めてなかったから、そのカラオケでどっちがより多く高得点を出せるか勝負だ!」
「章弛、二人に悪いよ……!」
連朱を前に暴走し始める章弛を哉斗は慌てて止めに入る。
しかし、章弛は聞く耳を持たない。
「哉斗、これはイケメン同士の闘いだから口出し無用だ」
「イケメン……?」
章弛の言葉を耳にし、瀬輝の眉間にシワが寄る。
「何言ってんだよ。先輩の方が断然上だろ」
「勝負してみなきゃわからないだろ?」
「だったら先輩の凄さ教えてやるよ!! 先輩の歌声は凄いんだからな!! ね、先輩!!」
「う、うん……? えっ、俺勝負するの!?」
「先輩のカッコ良さをこのチャラ男に教えてやるんですよ! 先輩なら絶対勝てます!!」
「そ……そう、かな……」
連朱は力なく笑った。何だか話がすごい方向に向かっているな、と軽く言い合いする瀬輝と章弛を見ながら思った。
ということで、四人はカラオケボックスに向かった。
「誰が最初に歌う?」
「俺が歌う!」
名乗りを上げた章弛はカラオケ機器を手にし、選曲した。スピーカーから、ロック調のイントロが流れる。
マイクを手にした章弛は息を吸い、歌い始めた。程よく甘い声が室内に反響する。正確な音程と綺麗な高音。調子が良いと感じる章弛は楽しげに歌う。
曲が終わると、歌の採点が画面に表示された。
「92点。幸先良いな!」
「先輩の方が高得点だし」
「ふーん、じゃあその歌声を聴こうか」
章弛はムスッとする瀬輝に笑顔を向けた後、連朱を見た。
連朱が選曲したのは和風テイストのバラード曲。映画の主題歌に起用された楽曲だ。
章弛は好奇の眼差しを連朱に向ける。
「……!」
歌い出しで鳥肌が立った。透き通った綺麗な声はどこか色気があって、ゾクゾクとさせる。その声は安定した音程と綺麗なビブラートを響かせている。それが同じ歳の人の歌声とは思えなかった。まだワンコーラスも聴いていないが、章弛は自身の負けを確信する。
ちらりと瀬輝を見ると、先程までの不機嫌顔とは打って変わって恍惚の表情を見せて連朱の歌に聞き入っている。
「……」
章弛も連朱の歌声に耳を傾けずにはいられなかった。その胸には悔しさが滲む。
連朱の歌唱が終わって得点が出ると、瀬輝が大きな拍手を送る。
「99点! 先輩、さすがです!!」
「やっぱり連朱も歌上手だね」
「ありがとう」
連朱は少し恥ずかしげな表情を見せて応えた。
そんな連朱に章弛が訊ねる。
「連朱くん、本当に同い年?」
「えぇっ、何で……!?」
困惑する連朱の表情を見て章弛は「表情豊かだなぁ」とぼんやり思った。
その後も皆で採点を続けたが、誰一人として連朱に勝った者はいない。
二時間という時間もあっという間に過ぎ、四人はカラオケボックスを出た。
「中々だな」
「先輩はすげー歌が上手いんだから当たり前だろ!」
「というか、カラオケって歌うことを楽しむ場所じゃ……?」
「基本的にはそうだけど、時には男の熱い闘いが繰り広げられる場所でもあるんだ。ということで、今度はゲーセンだ!」
「まだやんのかよ!?」
「このままじゃ負けてられないからな!」
ニッと笑う章弛は連朱と目を合わせる。
連朱は困ったように笑った。
次に四人がやってきたのは、カラオケボックスからほど近い場所にあるゲームセンター。
「まずはこれで勝負!」
章弛が選んだのは店の出入口近くに設置されたパンチングマシン。パンチングパッドを三回殴り、その合計値を競うものだ。
章弛は意気揚々とコインを入れ、グローブを右手にはめる。
自動で起き上がってきたパッドを一発、二発、三発と殴っていく。章弛の合計値は294kg。
「章弛、すごいね!」
「どんだけのバカ力だよ……」
「コツがあるんだよ」
章弛は得意げな顔をして連朱にグローブを差し出す。
「次、連朱くんの番だぜ」
「うん」
連朱は手渡されたグローブをはめてコインを入れる。そして章弛と同様にパッドを三回殴る。合計値は266kgと出た。
「先輩も強いです! すごいです!!」
「よし、俺の勝ち!」
瀬輝は尊敬に満ちた笑顔で言葉を発したが、すぐに章弛の声に掻き消された。反射的に口を尖らせる。
「どーせまぐれだろ」
「まぐれじゃないんだなぁ、これが」
「章弛は結構力ある方だからね」
「力仕事も良くやってるからな」
「……」
誇らしく話す章弛を、瀬輝はジト目で見つめていた。
(先輩がこんな男に負けるはずがない!!!!)
闘争心を燃やしながら、次の対戦へ移る。
今度は瀬輝と連朱、哉斗と章弛のペアに分かれて卓球をダブルスで行うことになった。2ゲームを先に取った方が勝ちというルール。両ペアとも、息の合ったラリーを見せていた。
連朱が打った球を章弛が打ち返す。その球は誰にも打ち返されることはなかった。
「よっしゃあぁぁっ!! 勝ったぁぁぁっ!!」
喜びを顔に表して章弛と哉斗はハイタッチをする。
その二人に連朱は、少し疲れた様子を見せながらも楽しそうな笑顔を向ける。
「哉斗たち強いね……」
「そう、かな……?」
「俺ら二人、テニス部だからじゃないか?」
「そこ関係あるの?」
「どーだろうな」
章弛はあまり深く考えていなかった様子で応えた。
すると、瀬輝が目尻を釣り上げて章弛を見た。
「つか、さっきからお前ばっかゲーム選んで狡いぞ! 先輩にだって勝負の方法選ぶ権利あるんだからな!」
「あ、確かにそうだな。連朱くん、好きなもの選んで」
「えっと……じゃあ、フリースローで」
一同はフリースローゲームの方へ向かう。
連朱と章弛はゲーム機の前で肩を並べた。
「ボールは両手で持って投げる、でいいか?」
「うん」
「先輩なら絶対勝てますよ!」
「章弛、頑張って!」
二人の勝負がまた始まった。
瀬輝は連朱のプレーを静かに見守る。出だしからシュートが決まった。次々とボールはバスケットゴールへと吸い込まれて行く。そして、目の端に見える章弛もシュート数は悪くないように見えた。
結果、連朱が圧勝だった。
「先輩おめでとうございます!! カッコ良かったです!!」
「ありがとう!」
瀬輝は今日一番の元気の良さでそれを伝えた。
その後も様々なゲームで勝負を続け、勝ち負けを繰り返した。
「もう一回勝負だ!!」
「章弛、まだやるの?」
哉斗は驚き顔で章弛を見た。
「だって、今引き分けなんだぜ!? 次が最後だ! 次で勝敗を決める!!」
「それ、あんたが負ける度に何回も聞いてるんだけど」
「本当の本当に最後だ!」
ムキになる章弛に呆れ顔を見せる瀬輝。その隣にいる連朱も同様の表情をしている。
(章弛くんって負けず嫌いなんだなぁ)
連朱がそう思っていると、子供の明るい声が近付いてくるのに気付いた。その方へ視線を向けると、顔がそっくりな幼い男の子二人が自由に走り回っていた。その後ろで、母親らしき女性が「走っちゃダメ!」と注意をしている。
再び男の子たちに視線を戻すと、一方の子が連朱の前で転んだ。
連朱はすぐに男の子に近寄った。
「大丈夫? 立てる?」
「うん……」
男の子は泣きべそをかきながらも、自力で立ち上がった。
「怪我は無いみたいだね。人が沢山いるところで走っちゃダメだよ。お母さんの言うこと、ちゃんと聞かないと」
「ごめんなさい……」
そう言って、男の子は母親のもとへ歩いて戻っていった。
「……」
その一部始終を章弛たちが見つめていた。
瀬輝が輝く笑顔で連朱に声を掛ける。
「さすが先輩、紳士的……!」
「そんな大袈裟な……」
「この勝負、連朱くんの勝ちだな」
「えっ?」
突然の言葉に連朱たちは目を丸くした。
哉斗が章弛の顔を覗き込むように見る。
「章弛、引き分けだーって騒いでなかったけ?」
「そうだけど、やっぱ、真のカッコ良さって内面で決まるじゃん? 今のを見せられたら、負けを認めるしかねぇよ」
あっさりと言い放つ章弛に連朱は呆然とする。今までの勝負は何だったのか。そんな疑問が一番に浮かんだ。
その心中を知らない章弛は思い立ったように次に進む。
「っていうか腹空かねぇ?」
「体動かしたから、それなりには……」
「じゃあ、みんなで何か食いに行こうぜ!」
同意した哉斗の言葉に頷き、章弛は歩き出した。その後を哉斗がついていく。
連朱と瀬輝が二人の背中を見つめる。
「先輩、俺、あいつの思考がよく分からないです」
「うん。俺も少しそう思う……だけど」
「楽しい、ですよね!」
「うん!」
互いに笑顔を見せ合う二人は、章弛と哉斗の後に続いた。




