青い風の吹く島
青い風が吹くという
小さな島があったとさ
人はいない
逃げ出した神々が住まうという
夜の浜が光るという
小さな島があったとさ
人はいない
逃げ出した妖が住まうという
海星を拾って
空へ返した者がいた
裸足で
浅瀬にぽつんと立っていた
彼はこの島を朝日とともに出て行く
しばらくは帰れない
人として生きることになる
父は彼を抱きしめて
謝った
母は彼の頭を撫でて
涙を流した
彼は両親の嘘に気がついていたが
黙っていた
ただ、静かに愛を受け入れる
満月に向け
歌をうたった
この島の別れの歌だ
もうすぐ、陽が昇る
海に向かって歩む
さくっ さくっ
ぴちゃっ ぴちゃっ
足音が聞こえなくなった頃
彼は島を振り返った
風が吹く
青白い尾を引きながら
彼はふわりと笑った
この島に神はいない
何も無いのだ あの島には
彼は歩み出した
もう振り返ることはなかった
ひゅー ひゅー
風が背後で踊る
神は風となる 人は神となる
太陽の端が垣間見えた
彼は そっと身を投げた
どぼんっ
青い風が吹くという
小さな島があったとさ
今はもう 人も神も妖もいない